表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】槍の新兵は夢を見ない  作者: 牛乳太子
第6章 5000年の想いと国を賭けた聖戦
186/757

35話 国を賭けた聖戦④ 一騎打ちの悲劇

ナッツ『見学かぁ』

ゲイルを連れて神殿を逃げたシルフィー達は城下町である獅子人族の集落の手前で立ち止まり休んでいた

ずっと走っていたのだ、休憩が必要である

逃げている最中ずっとゲイルは静かに導かれるがままに部下に連れられてここまでやってきた

今彼の頭には色々な感情がよぎっていた


『ゲイル様、ここまで来れば一先ず安心かと』


部下が彼を近くの岩に連れて行くとゲイルは静かにそこの腰かけた

重い溜息をついたのちにシルフィーに口を開いた


『これから我ら種族はどうすれば良いのだろうか、俺は先祖のためにと思ってここまで来たのだ』


『あんたのしたい事をする生活をすればいいんじゃない?』


『したい事?』


『そそ、過去なんて忘れてやりたい事しなさいよ・・・』


彼女の言葉にゲイルは地面を見つめて黙る

その様子を彼の部下2名も心配そうに見つめている

ゲイルは言う

今迄の事をゼロにしてもそう簡単に歓迎されるとは思わない

であれば一族の代表の俺が謝罪をして済む問題でもあるまいと


そうしたゲイルの不安にシルフィーは羽を広げて答えた


『あいつと酒でも飲めば色々となんとかなるんじゃない?馬鹿だし一緒に飲めば仲直りできるわよ』


『酒?』


ゲイルがふとそう呟くとシルフィーの部下が口を開く


『バウ殿はいつもガーランド殿を捕まえて飲ませそして次の日にはいつもガーランド殿は死んだ顔をしていましたな』


『酒の席でわかる事もある事でしょう、気難しく考えると駄目な事もあるかと』


シルフィーの部下の言葉に少し考えるゲイル

ふと彼は腰につけていた水筒を開けて飲みだした

ゲイルの飲んでいる中身の匂いがシルフィーの鼻につき彼女は恐る恐る聞いてみた


『ねぇゲイル・・・それはお水?』


『酒だが?・・・俺は水を飲んだことは無いぞ?』


その言葉にシルフィーは頭を抱えた、ここにも酒豪がいた

水じゃなく酒を常時飲む馬鹿がここにもいたのだ、バウにもこんな芸当できない


いやさせない

ゲイルの部下が自慢げに口を開く


『ゲイル様は種族1の酒豪であるぞ!』


『何人虫の息になった事か!バウ殿も我が族長様にかかれば虫の息よ!』


シルフィーがその言葉を聞いたのちゆっくりと彼女も近くの岩に座り囁く


『あぁ・・・これ以上酒豪を増やさないで・・・』


『バウもかなり飲むのか?』


『もう病気レベルよあいつも』


ゲイルは空を見上げた

薄暗く完全な夜まではもうすぐだが星々が綺麗なくらい見えている

彼に触発されて他の者達も空を見上げた

神殿であんな事が起きてるなんて信じられないくらい平和な空だ


ゲイルは誰よりも先に共存を選んだ、その選択に間違いは無い

戦いに生まれるのは新たな憎しみと歴史だ、神殿ではガウガロを賭けた戦いが始まっていた


『・・・飲んでみたいものだな』


ゲイルがふと小さく囁いた

その言葉の後に神殿の方から走ってくる者たちが見えて全員身構えたのだがよくみると鼠人族の族長チュリオと部下2名だった、彼等はゲイル達の前で止まると息を切らして地面に座り込んだ

思わずゲイルが彼に話しかけた


『チュリオお主』


『わっチらが間違っていたっチ・・・取り返しのつかない事をしたっチ』


シルフィーはその言葉が反対派についたのだと確信した

酷く絶望したような顔をしていた、彼の部下も俯いてしまい沈黙を続けた


そんなチュリオは彼らに説明したのだ、大昔の事件は嘘で固めた偽りだった記録があった事実を

戦争での裏切者はいなかった、元凶がいた事実も全て話した

衝撃的な事実に皆どう反応していいかわからない状態になっていた

ゲイルは頭を抱えて地面を見つめ始めた


『なんてことだ、俺たちは無駄な事をしていたのか』


彼の部下も持っていた武器を落として膝をついてしまった

涙を流してゲイルはシルフィーに口を開いた


『一生をかけて償いをする』


『そう思うならこれからちゃんとガーランド達を見てやりなさい』


彼女の言葉の後に静かにゲイルは頷いた

自分のしてきた事が全て無駄だったと告げられた彼は罪悪感以外の何も感じられなかったのだろう


ふとチュリオが声を震わせながら彼らに言う


『にしてもだけど、あんな化け物に勝てる訳ないッチ!何人かもうやられてしまって血の海に・・・』


『チュリオ、どうなったの?教えなさい!』


羽毛から腕を出してチュリオの肩を揺らしながら彼女は大声で聞いた

この時シルフィーは彼が異常に震えていることに気付いた

何を見たらそんなに怯えるのだろうか、予想以上にシュウザーが強かったのだろうかと


チュリオが続けて言った言葉にシルフィーはあり得ない行動をとる


『もうみんな死ぬっチ!バウもやられてしまったっチ!』


『バウ・・・?』


『バウでも彼に勝てなかったっチ』


チュリオの言葉を最後まで聞く事も無くシルフィーは来た道を飛んで戻った


『シルフィー様!』


『おやめください!死ぬ気ですか!!!』


彼女の部下2人も飛び上がりシルフィーを追いかけた


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


シュウザーと俺は一騎打ちという事で互いに致命傷を与えることもできずに体力勝負に持ち込んでいた


『流石だ、人族の癖にここまでとはな』


『褒められてる気がしないな』


一騎打ちで俺は銀彗星を軸に彼に攻撃を何度も仕掛けたのだが

真っすぐ突っ込むとやられるイメージしかわかなかったのだ、しかもシルバシルヴァを起動してないと銀彗星に反応して攻撃してくる

絶対に発動した状態で攻撃をしなければ活路が無かったのだ

ジグザグに加速して彼の太ももや腕に胸部を槍で刺したのだが深くまで刺さらない

筋肉が固くて致命傷に至らなかったのだ


その間に俺は3発くらい殴られたり蹴られたりした

もう体の感覚も少ししかない、体中震えている

だがシュウザーも俺が攻撃した箇所から血を出していた

致命傷じゃないだろうけど


『ふん!』


いきなりシュウザーの剣撃が飛んでくるが俺は銀彗星で後ろに加速して避けた

普通に避けるとくらう、銀彗星頼りなのだ

後方に着地すると彼が口を開く


『素早さは褒めてやろう・・・だが貴様にはパワーがない』


『痛いこと言うな、はぁどうするか』


俺の狼気も本当に僅かしかない

こんなに使ったのは2回目だな・・・あぁタツタカの時だな

シュウザーが両手に持っている剣を構えだすと大声で俺に話しかけてきた


『さっさと奥の手を出してこんか!ジリ貧では彼には勝てんぞ!』


その通りだある、早めに使うべきだったがそれは俺の判断ミスであった

俺は彼の言う通りに今全てを使って攻撃しなければならないと思い後方に向けて叫んだ


『全員後ろの壁に下がれ!ガードしていろ!』


俺の言葉を聞くとゾロゾロと全員後ろに後退し始めた

グスタフだけは多少前気味だがまぁいいか

ナッツとグスタフは俺が何をやるかわかってるらしい

まぁ被害考えていられない、俺の使えるシルバシルヴァは残り6秒


本当にこれに賭けるしかない

シュウザーに視線を向けると彼は察したのか少し後ろに下がって身構えた

待ってくれるのか、有難い


『シルバ・シルヴァ!!』


発動した瞬間にすぐシルバーダンスを槍で突き出現させた

また5m級の銀狼が彼に向かって襲い掛かった、多少シュウザーより大きいかもしれない


『また犬か!何を企んでいるのかな!?』


口を大きく開いて牙を見せたシルバーダンスはシュウザーにとびかかった

彼は地面に両手の剣を全力で突き刺して叫んだ


『ガイアランペイジ!!!!』


シュウザーの正面の地面が思い切り噴出したのだ

しかも鋭利な岩と化してだ、地面から突き出た多数の岩は暴れるように7mの剣山の様に噴出した

シルバーダンスは避け切れずに岩の餌食となり消えてしまうが俺はもう技を出していた


『先ほどの爆発技か!これが貴様の奥の手か?』


銀超乱が彼の左右から襲い掛かった

シュウザーは襲い掛かる約50体の自爆狼の群れを攻撃しようと剣を振りかぶった瞬間に俺は全ての自爆犬を爆発させた


『ぐおっ!』


辺りに無属性爆発が多数起きて砂煙が上がる

次第に煙が晴れていくとシュウザーが煙の奥から現れた


無事なようだが多少ダメージがある、彼は少し息をあげている


『これが奥の手だったのか・・・期待外れだ』


肩を落とす彼をよそに俺は爆発させた瞬間に溜めていた技を使った

俺の狼気全部を使った大技、危なすぎて使うのを拒む技である


シュウザーは俺が片手を上げていることに気付いて頭上を見上げた

彼は大きく目を見開いて驚きを見せていたがもう遅い

大声で叫んだ、全身全霊で彼に向けて言い放つように


『くたばれシュウザー!!!天銀!!!』


『今迄がフェイクかぁ!!』


10m以上ある銀色の球体が彼に向かって堕ちた、シュウザーお前より大きいサイズの技だ

彼は歯を食いしばって両手の剣を真上に掲げて防御の態勢をとる

足の位置を固定し全身に力を込めた


『こんな玉受け流してくれようぞ!!!』


『それは無理だ!』


シュウザーが天銀に触れたその部屋に大爆発が起きた

一瞬で部屋は爆風に包まれ砂煙で見えなくなってしまう

爆風で後ろの者が心配だ、叫び声が少し聞こえるが死んで無い事を祈ろう


俺はもう殆ど動けない、シルバシルヴァも切替しながら使っていたがあと1秒しか使えない

それなのにもう体中の感覚が無く力が出ない、限界のようだ

これで仕留めきれないのならば・・俺は


『ぐ・・・』


我慢して立っていたのだが俺は膝をついてしまう

俺の声のすぐ後に別の声が正面から聞こえてきた


『摩天狼の力の欠片でもこんなに強いとはな・・・ぐ・・・クラクラするわ』


上を見上げた、シュウザーが煙の奥から血だらけで現れたのだ

彼はかなり息を切らして俺の目の前にまで来た

嘘だろ?モロに食らって立ち眩みがする程度なのかよ!

これがセブンスか・・・ギリギリと感覚の薄い右手を握る


これはかなり不味い!俺の予見が大音量で警報を鳴らしているがそんなの無くたってわかる


『人族よ、俺は・・やり切れねばいけない・・・止まれないのだ』


『ぐ・・くそ!!!』


シュウザーは両手の剣を力強く握りしめ言い放つ


『さらばだ強き者、俺はガウガロの本当の恨みの塊だ・・・お前さえいなければ俺の願いが叶う』


頭上から2つの剣が斜めに振り落とされた

すぐさま俺は最後の力を振り絞り銀彗星を使ったのだが思う様に加速しなかった

狼気切れであった


シュウザーの剣が振り抜かれたと同時に俺の体から大量の血が正面に飛んだ

視線を体に向けると俺の左腕が斬られて吹き飛び体の正面が深くまで斬られてしまったのだ、心臓までいっていない・・・よかった

グスタフの捨て身が無ければ胴体も真っ二つだったな・・・


彼も力が入らなかったのだろう

胴体を切るまでに至らなかったのだ

天銀のダメージもあったので即死は回避したが事態はかわらない


そのまま前のめりに倒れた、力が出ない・・・心臓の鼓動が聞こえるし体中熱い

懐かしい感覚だ、ナラ村でも魔滝以来だろうな


俺は奥の手でもシュウザーに勝てなかったのか

その時あの言葉が浮かび上がった


『ギリギリ勝てないくらいでしょうね』


リヴィ・・・

天銀2発分残しておけば何か違ったかもしれない

色々と結果論が頭をよぎるが過ぎてしまった事は考えても仕方ない

首から下の感覚が殆どない



『く・・・そ・・・』


『お前の事は忘れない、ここまで俺を苦労させた人族は2人目だ』


2人目・・・他にもお前が苦戦した人族がいたのか

そんな俺の考えをよそに再び彼は剣を振り上げた


とても悲しい顔をした彼は最後に呟いた


『すまない』


不味い・・・死ぬ・・・・



ジャムルフィン『マジ!?天銀モロに食らって倒れないの!?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作ですがこの小説を見てる人ならわかる部分が多い内容になってます 勇者ですが指名手配されたので逃亡ライフをはじめます
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ