30話 平等に訪れた絶望
シュウザー『最初は観察しーよ!』
『・・・先輩、』
ナッツの声に俺は彼を見た
今迄にはない真剣な顔で俺を見つめていた
セブンス、彼は
雷狼ゼーブル・ファー・テンス以上の強者であり
彼以上の実力を持っているという事であった
『・・・勝てると思えん』
そう俺は呟いてしまう、変な汗が流れてくる
ナッツもグスタフもだ、反対派も異常な空気になる
在りえない事実に部屋の者は驚きを隠せずに声を上げていた
『そんな・・・』
『今迄そんな事なかった筈』
その声に反応したシュウザーは右手の甲を見せて少し闘気を込めた
すると彼の手の甲の7と数字が浮かび上がる
『十天の者は手の甲に闘気を送る事で証明の証、すなわち十天印が浮かび上がる・・・俺は今までの軟弱で無能な馬鹿王と違い格段に強いぞ』
『シュウザー・・・お前』
蜥蜴人族のゲイルの声をよそにシュウザーは玉座に座り口を開く
『ガウガロの決まりだろう?武の強さが獣王になれるとそれに従う事もガウガロの民として、下につく物の使命だ・・・貴様らは俺に従うのだろう?』
その言葉にゲイルは俯いて口を閉じ考える
だがガーランドがそんな彼の肩を叩くとゲイルは顔を上げた
ゲイルが切羽詰まっていて彼らが近づいてくることさえ気づいていなかった
多少ゲイルは驚いた顔をしていたがガーランドは真剣な顔で彼に話しかけた
『ガーランド、お前』
『いいんだゲイル、今までの事は互いに忘れよう・・・お願いだ頼む、ガウガロの為に助けてくれ』
深くガーランドがゲイルに頭を下げた、その光景にゲイルの部下も目を開いて驚く
無論ゲイルもだ
自然とガーランドとゲイルの前でバルトとその彼の部下がシュウザーを警戒している
唐突の攻撃に備えてだ、俺もグスタフもナッツも構えているがシュウザーはそれを見ているだけで動こうともしない、俺には観察しているように見えた
『俺は・・・だが・・もう戻れないのだ、駄目なのだガーランド・・・俺が過去を引き継いでいる、責任とは何なのだ』
『過去の責任など捨ててしまえ、お前のじゃないんだぞ・・・国をやり直すために抵抗をするべきだ、少しずつでもいいのだ・・・戦争を避ける道を共に歩もう』
ガーランドの問いかけにゲイルは黙り込んでしまうが彼の部下が声をかけた
『ゲイル様、私はあなたの判断に従います』
『蜥蜴人族はあなたの判断に身を委ねる筈です、私たちも覚悟は持っています』
『お主等・・・』
ゲイルが部下とそんなやり取りをしていると亀人族のガトが部下を連れてこっちに来た
彼が近づくとシャオもバルトも皆軽く頷き彼を歓迎する
その瞬間ナッツが目を見開いて驚いているのが見えた
彼が何に驚いていたかはわからないがナッツの見る視線の先にはシュウザーがいた
シュウザーを見ても変わらず獰猛な顔で睨みを聞かせて辺りを見渡している
何やら鼠人族の族長も部下たちと話し込んでいるとシュウザーが口を開く
『仕方ない、少し判断の時間をやろうか・・・ここで死ぬかこのまま戦争に参加するか・・・もしくは一族諸共殺されたいか』
シュウザーはそんな事をいって怯えさせる
ナッツが俺に視線を送り、俺の耳元で言い放つ
『判断ミスでした、本当にすいませんでした先輩』
『どういうことだナッツ』
『・・・聖戦が始まります、ガウガロを守るための戦いがここで起きる可能性が大きいです』
『それは前から覚悟してた、気にするな・・・やれることはする』
『ですが相手はセブンスですよ?』
多分だがナッツは俺をアバドンに向けるべきだったと思っているのだろう
この場での戦闘は本当に可能性としては低かったのだ、戦争の支度で時間を稼いでるうちに俺がアバドンに向かう手筈にする予定だったろうがこの場で始まりそうな予感になり彼は謝っている
俺はナッツの頭を軽く叩いて答える
『ここまでよく頑張った、あとは俺の番だからアシスト頼むな』
『俺も入るぜ?』
グスタフが会話に入って来たが周りに聞こえない様に話していた筈なんだけど・・・
『多分覚悟決めろって事だろ?いつでもいいぜ』
グスタフの勘らしい
まぁだいたい正解だろう
全獣族の状況はシュウザーが玉座に座って事の行く末を見守っている
ガーランドとゲイルが話し込んでいた
他の戦争派の種族は部下と話している、反対派は静かに沈黙を続けた
バルトは周りを見て警戒をしている
こちら側の種族はガーランドとゲイルの方に意識を向けていた
『シュウザー、勝算は2割なのか』
虎人族の族長チェスターがそう彼に言うとすぐに答えた
『ああそうだ、2割だが蜥蜴人族が抜けると1割だな』
『それなら戦争などする意味がないではないか!』
『馬鹿か貴様』
再び玉座の背もたれの後ろから剣を取り出してチェスターの足元に投げた
剣がチェスターの手前に刺さっている、その光景にチェスター自身も一瞬だが体をビクつかせた
『勝てる勝てないじゃない、やるかやらないかだ・・・これはお前らの為にやった事だぞ?いがみ合うよりその感情が本物だったと思う行動をさせようとしたのだ』
『まさか!シュウザー殿・・・勝つ気で誘ったわけじゃないのか!!』
チェスターが少し大きめの声をだして彼に言い放つ
シュウザーの言葉に俺達も驚いてしまう、勝つ気じゃない
やらせる気で誘ったのか
『勝てれば良いくらいだな、負けてもガウガロは滅亡しないが』
『なんだと!?』
ガーランドがその言葉に反応を示した
シュウザーを睨みながら彼は階段を登り玉座の前で口を開く
『なぜそんな適当な事を言う!』
『簡単な事だ、こいつらの首を渡せばいい・・人族とはそれだけで戦争一つを許してくれる』
『シュウザー!?』
『シュウザー殿!?』
『貴様!!』
在りえない言葉に全員彼にそう言ったのだ
ゲイル『最初から俺たちは死ぬ運命と言うわけだったのか』