29話 獣王の正体
シャオ『話がながいニャ!』
バウ『どうなるんだろう』
バルト『黙って聞いてろ』
『よせシュウザー』
ガーランドが叫ぶ
剣を突きつけられた蜥蜴人族の族長ゲイルはその声にガーランドに視線を送る
同じくシュウザーも視線をガーランドに送るが軽く鼻で笑い、近くにあった獅子人族の首を掴み玉座に戻る、ゲイルは力が抜けて膝をついた
その光景に他の獅子人族も萎縮してしまう
彼の言いたいことは何千年もの過去のしがらみを断ち切る為の行動をしようとしたのだろう
その感情が偽物だったならばそれは罪だと、今までの償いをしなければ終わらない問題だと言いたいのだ
軽い気持ちでそのような分裂を生み出していたならばそれ相応の処罰をするというのだ
『生きる物にはいつも責任が重くのしかかる、戦争派ならばそれがわかる筈だが?』
階段を登りシュウザーが口を開く
言葉の重みを知れとシュウザーは言いたいのだと思う、そう教わったからそう生きてきた
それだけで国の繁栄が滞った責任を取れと彼は言う、違うなら本気でやり通せ
シュウザーの言葉に全員静かになる
玉座についた彼は持っていた剣を再び地面に刺しこみ静かに座る
『さて?戦争をやめたいものは族長自ら首を差し出せ、嫌ならそのまま明日から戦争支度だ』
『シュウザー殿、一つ聞きたい』
虎人族の族長チェスターが彼に質問もした
そのまま彼は続けて聞いてみた
『勝てる確率はどの程度なんだ?』
それを聞いたシュウザーは玉座で腕を組み始めて小さく笑う
首を傾けながら彼は言い放った
『勝算は2割程度だな』
『なんだと!?』
シュウザーの返答に他の戦争派も驚く
すぐにシュウザーは口を開いた
『誰も聞かなかったではないか、だから言わなかった・・・』
戦争派の族長も次第に絶望を感じで震えていた
勝つ確率が少ない戦争に俺たちは乗ってしまったのかと
感情的に乗ってしまった結果このようになったのだろうと自問自答と繰り返しているのだろう
そんな面持ちの族長達を見て再びシュウザーが口を開く
『どうする?戦うか死ぬか選べ、どちらも嫌なら一族諸共根絶やしだぞ?族長が全ての責任を背負うのだ!族長を何だと思っている?その種族の意思であり顔である!』
『わっチ達は戦争しても死ぬッチ・・・拒否しても・・・死ぬ』
鼠人族の族長も地面を見つめてそう囁いていた
俺達はまだ動かない、バルトが動き出すまでは我慢だ
だがガーランドだけは腸煮えくり返っている様な表情で玉座の男に牙をむき出しにしている
それをバルトが背中を叩き冷静にさせたりしている
『そんな事許されると思ってるのかシュウザー!』
『わが一族を何だと思っている!即刻中止させろ!』
獅子人族からのヤジが少し飛ぶとシュウザーは手を彼らに向けて口を開いた
『俺の前に来てそれを言え、同種の癖にその場でしか言えないのか?恥を知れ・・・まぁ来たら首を刎ねるがな・・・ハッハッハ!!』
高らかにシュウザーが笑うとヤジも止まる
それを確認すると直ぐに口を開いた
『それが答えだ、貴様らも賛同した筈・・・それをよく手の平返した様にぬけぬけとまぁ、獅子人族は臆病な種族だからなぁ俺以外はな』
そう言って同種を挑発している、嫌らしい笑みを彼の同種たちに向けてだ
その時だ、1人の男が動いた、彼はシュウザーに近付いていく
階段を登る者を見たシュウザーは目を大きく開かせてその様子を見ていた
『・・・・ガト』
『やぁシュウザー・・・なるほどな、思い切ったな君も』
そう言うと亀人族のガトが彼の前で膝を折り頭を前に垂らす
俺達もぞれぞれ彼の名前を呟いてしまう
『ガト!!!よせ!!!!』
ガーランドの言葉が大声で響くとガトがそのままの姿勢で口を開いた
『一族を守るのが種族の族長の務めさ、僕は何もできないけどこれくらいならできる・・・僕は族長の中で一番取柄が無いかもしれない・・いや無いんだよ』
『ガト様!!!』
『ガト様お待ちを!!』
彼の部下達も慌てて彼に横に近付いていたがシュウザーはその様子を見ているだけだった
細い目をしてガトをみていた
『ガト、何の真似だ?』
シュウザーがおもむろに聞いた
『君の言う通りの事をしたまでさ、僕にはこれくらいしか一族を守ることはできない』
『ガトよ、お前は俺が誘ったんだ・・・お前はそんなことをせずとも良い、降りたいなら普通にガーランド側につくが良い・・・だが他の種族は自ら話に乗ったのだ!ガト・・お前とは違うのだ』
『同じさシュウザー』
『なに?』
ガトが落ち着いた声で言葉を放つ
『僕も君の派閥に入った時点で僕にも責任が重くのしかかったのさ・・・僕も背負う者としてこちらに加担したのさ・・・彼らの分も私がだ、例え君の言う戦争派が持っていた感情が無くてもだ』
その言葉にシュウザーは深く考えている様子だった
他の戦争派の種族もガトに視線を送り皆静かになる
そんな感情持っていなくてもシュウザー側についたならば背負う覚悟があるという事とガトは言いたいのだ
身に覚えのない感情の為に自ら背負ったガト、一族を危険に晒すくらいならこの首一つで許しをこう気でいる
『お前は数合わせで呼んだだけだぞ』
『それでもだ、どんな選択にも責任は背負うのだ・・・僕の首で一族が許されるなら喜んで差し出そう』
ガトの一人称が私から僕に変わっていた、シュウザーとの関係上そうなのだろうか
シュウザーは深く溜息をついてガトを見た
そのまま立ち上がりガトの肩を軽く叩く
するとガトは静かに顔を持ち上げてシュウザーに視線を送る、口は開かない
双方真剣な顔だ
最初に口を開いたのはシュウザーだった
『お主を斬れば横の部下に俺が襲われそうだしな、こいつらお前の為に死ぬ覚悟があるらしい』
ガトが横に意識を向けると部下5名が既に腰の剣を抜けるように構えていた
ずっと獣王シュウザーを睨んでいた
『一族を守るためでも私たちは族長を守るために来ています・・・勝てずともその誇りは捨てませぬ!』
ガトの部下がそう言うとシュウザーが後ろに下がり玉座に座る
『行け、いらぬ・・・ガトの部下よ、そいつを後ろに下がらせよ!』
その言葉でガトの部下たちは構えを解いて直ぐにガトを掴んで後ろに下がらせた
多少ガトが困惑していたがものともせずに部下は彼を守るために無理やり後ろに下がらせた
危なかった、バルトが合図を出そうとしていたのだ
突っ込めと俺にだ
シュウザーが武器を持った瞬間にそれが実行されると思ったが回避できた
俺達全員本当に安心した、ガトは死ななかった・・許された
獣王が大きな声で口を開いた
『ガトを見よ?彼は首を自ら差し出しに来たぞ、俺が唯一頭を下げて来てくれた族長であり実質ガーランド側の思想なのにだ・・・そしてお前らが影で小馬鹿にしていた亀人族のガトがだ、一族の為に命を捨てにきよった、貴様らにできるか?これが責任を感じている者の行動というのだ』
シュウザーが戦争派の族長に視線を送るが彼らは目を逸らした
『・・・では戦争派が4種族という事で明日から支度だ、遅れる物は殺す』
その言葉で震えながら虎人族と蜥蜴人族そして鼠人族は静かに膝を折り頭を下げる
恐怖に支配されて判断が出来ない感じであるが他の獅子人族は彼に牙を向けた
『やめよシュウザー!』
1人の獅子人族の男が階段の手前まで出て来た
その男を見てバルトは驚いた様子で口を開く
『・・・前獣王のジャジャラ』
『前の獣王も獅子人族なのか?』
俺がバルトに質問すると彼は直ぐに答えてくれた
『2代続けて獅子人族だ、彼がシュウザーを推薦した』
ジャジャラ、彼も他の参列している獅子人族と比べると大きい
大きいがシュウザーと比べると大きいと感じない、彼が大きすぎるのだ
『そんなことはさせんぞ?』
ジャジャラが小さくそう言う、そんな彼は手に大剣を握っていた
シュウザーが笑いながらジャジャラに問いかけた
『何もできなかった無能だった獣王の癖に何をほざくジャジャラ?お前が俺を選んだのだぞ?ならばその責任を取るために死ね』
『何を!?』
シュウザーが素早く両手で2つの剣を抜きジャジャラに向けて剣撃を放った
早過ぎてギリギリ見えるがそこは流石の先代の獣王、持っていた大剣のガードが間に合う
だがそのままガードごと一番後ろの壁まで思いっきり激突してしまう
シュウザーはその瞬間玉座の背もたれ後ろ側に隠していた小さめの剣を壁にめり込んだジャジャラに向けて投げた
その剣先はジャジャラの胸部に深く突き刺さり大量の血が流れだした
『そんな・・一瞬ニャ』
『マジ・・か』
『嘘でしょ・・先代よ・・・まだ老いてないのに・・』
シャオ・グスタフ・シルフィーと声が聞こえる
あの巨体を一撃で遠くに吹っ飛ばしたのだ、壁にめり込んだジャジャラは刺さっている剣によって苦痛を歪めた
『貴様…正気…か』
震えた手で剣を抜くとそのまま前のめりに倒れた
その彼に他の獅子人族が数人近付くとシュウザーは言った
『俺はここの全員相手にしても勝てるくらい強いぞ、他の獅子人族はどうする?あの無能の様になるか従うか選べ』
牙をむき出しにしていた他の獅子人族は先ほどとは違って恐怖を顔に出していた
シュウザーは階段手前まで歩き出して両手の剣を持ちながらこの場の全員に言い放った
その言葉に俺達全員は予想外な反応をあらわにしたのだ
『・・・俺は獣王シュウザー。シュウザー・アングラード・セブンス、十天の第7位である』
全員『十天!?』
猿人族族長ベベル『今迄十天になった獣王は・・おらんなぁ』
ガト『・・・シュウザーそれマジ?』