27話 獣王 シュウザー・アングラードの戦争とは
シャオ『怖いニャ怖いニャ!』
猿人類『・・・・会うの獣王の儀式以来じゃな』
計39名で馬に乗り獣王の神殿へと向かう
走り出して1時間経過しそうだが誰一人口を開かない
ただひたすらガーランドを先頭についていくだけだった
『もうすぐ見えてくるぞ』
ガーランドの声に全員正面を見る
そうすると遠くの方に小さな山が見える、奥が絶壁に誓うくらいの急斜面だ
山を登るには正面の道から行くしかなさそうだ
『ここからは獅子人族がチラホラみえる筈だ、無視しろ』
バルトが俺達人間に向かってそう話した
どういう事だろうかと思ったのだが出会いだした時に理解した
どうやら歓迎されている感じが全くしない、ここに住んでいる獅子人族の民か?
人族を見ると軽蔑と捉えることができる様な様子を見せる
『俺達が嫌いなんだろうぜ?』
グスタフが笑顔で俺にそう言うがそれが正解だろう
こちら側の族長を見る目も少し歓迎されている感じじゃない
まぁこちら側は彼らにとって良い印象が無いのだろう、理由はわかる
『このまま突っ切ろう』
途中にある家からそんな嫌な顔をする獅子人族の者達に意識を逸らしながら山に登っていく
大きな門が見えた、金色に輝く正門だ
そこに近付くにつれて馬を減速させて手前で停止させた
門の近くには獅子人族の門番が5名ほどいた
彼らは先頭のガーランドに嫌味たらしく声をかけてきた
『また謁見かよ・・・お前は本当に好きだなガー『少しは目上への話し方を覚えろ、門を開けよ・・・じゃないと貴様らで時間を費やしたとシュウザーに伝えるぞ』』
牙をギリギリと噛み鳴らして門兵がガーランドを睨む
肝心のガーランドは涼しい顔だ、かれは慣れているんだろう
彼は何回もシュウザーに会っているんだからな、門兵は俺達人族を見ると多少驚いていたが直ぐに門を開けた
『このまま真っすぐ行こう、彼は待っている筈だ』
馬をゆっくり門に進ませながらガーランドが言う
それに続いて俺達もスピードを合せて馬を進ませる
周りを見渡す、石柱が何個も道の両脇に並んでいる
何か刻まれている・・・全ての石柱に入って来た者に見えるように王と書いている
獣族なりのお洒落だろうか・・・わからない
ナッツもキョロキョロと建物を見渡していた
話しかけてくるまではこちらから口を開かない方がいいだろう
グスタフは気にしていない様子で正面だけを見ていた
正面に大きな神殿が見えてきた、ここも大きな扉だ
『高いニャア・・・』
シャオが山から後ろを見ていた
標高1000m程だが上から見ると色々な集落が見渡せる
『高いところ苦手だもんねシャオ』
『ニャはは・・・』
シルフィーの言葉にシャオが頭を掻く、そんな馬鹿な・・・猫なのに・・
神殿の扉に着くと横にいた獅子人族の門兵2名が無言で扉を開ける
赤い鉄の扉だ・・・門兵は腕でその扉を開けていく
『とうとうか』
バウがボソッと呟く、ようやく来たのだ
額に汗が流れるがガーランドが馬はここまでという事なので皆で徒歩で扉の奥に歩き出した
松明で神殿の中を照らしているがそれでも暗い
進む道だけが見える様な感じだ
足音がこの空間によって反響している、静かだ
『ここを過ぎると最後の扉だ、そしてそこに玉座がある』
ガーランドが減速しながら俺の横に来てそう言い放つ
彼は前を指さすと扉が見えてきた・・・あれか
『先輩』
『ああわかっている』
ナッツが静かに頷く、大丈夫だ
俺は最初は見守る事しかできないし最初はガーランドとバルトがシュウザーと話す事になっていた
バルトの話だと他の種族もいるが心配ないらしい
『うるさい奴らは無視しとけばそのうち静かにさせられるさ』
その言葉の意味はわからないが何かあるんだろうな
シャオが緊張している様で少し震えている、部下が心配しているぞ?
猿人族のベベルは意外と大人しいがそれでも何度も深呼吸している
『どんなツラぁしてんだろうな』
こいつだけ、こいつだけが普段と変わらないのだ
誰とは言わないがわかる筈だ、笑みを浮かべて腕を組んで彼は歩いている
ナッツは真剣そのものだ、もうスイッチが入っていると見てわかった
そして扉の前に俺たちは立ち止まる
『さぁ後戻りは出来んぞ?』
バルトが扉に手をついて全員に聞こえるように確認をしてくる
鳥人族衛兵長ファルカが槍を回しつつ口を開いた
『聞く意味はありませぬ』
その言葉にバルトは軽く鼻で笑い扉に視線を向き直す
彼は扉につけた両腕に力を入れていくと大きな扉が開いていく
4mあると思われる鉄の扉を1人で押すのか、凄い腕力だな
音を出しながら開く扉の奥が見えてきた
先ほどの道と違い明るい、人間の玉座の間と変わらない部屋だが広い
スカーレットさんの特訓場くらいのサイズの部屋だ、50m四方か
赤い絨毯が奥まで続いている、両脇には戦争派の族長と部下数名がいるのが確認できた
鼠人族・亀人族・蜥蜴人族・虎人族・獅子人族だ
部下は5名とこちら側と同じだった、だが獅子人族の数が50名ほどいた
戦いになったら不味いだろうがあちら側には鉄の杭で己の体重を支えている者も数人見受けられた
年寄りということか、彼らの前を通過するときはとても俺は睨まれた気がした
獅子人族が両端に布陣していてその内側に戦争派の連中がいる形だ
玉座が赤いカーテンで隠されている、丁度軽い階段を登った先がカーテンで見えないのだ
誰も言葉を発しない、ガーランドを先頭に階段の前で止まる、10段くらいの階段だ
『ここでいい、いいか?』
俺にガーランドが確認してきたが俺でいいのだろうか
後ろでは戦争派がザワザワと何やら嫌味が色々聞こえてるが
反対派の者はその言葉に反応せずに無視を貫いている
『ああ』
その言葉を聞いたガーランドは俺の肩を軽く叩いてから正面を向き直し
大声をだした
『シュウザー!来たぞ!!さっさとこのいらんカーテンをどかせ』
彼の声がこの大きな部屋で響く
それと同時に戦争派の蜥蜴人族から声が上がる
『ガーランド!獣王の前だぞ!言葉を慎め!』
『どの面さげてまた来たんだ低種族共が』
虎人族からも声が上がると次第に戦争派の声が大きくなる
両脇から怒号は鳴り響く
グスタフはなんかイライラしているがナッツが彼の耳元で何か話している
何度も頷くグスタフは深呼吸して大人しくなるが説得してくれたのだろう
シャオも多数の罵倒に動揺をするがバウに背中を叩かれて頭を掻きだした
だが亀人族だけが沈黙を続けている、彼らは違う側だしな
そしてその怒号も終わりを告げた
『・・・黙れ、戦争する前に殺されたいのか?』
その言葉に戦争派達が震えだした
静かになったようだが、その声だけで俺も感じる物があった
聞いた瞬間に大量の汗を流してしまった、グスタフもナッツも額から汗を流していた
先ほどまでのグスタフはいない、あの顔は久しぶりだな・・・リヴィ以来か
拳を力強く握っている
ナッツは呼吸が荒い、彼は俺の視線に気づくと口パクで多分大丈夫ですと言った
その多分をつけるのが心配だが
ガーランド・バウ・バルト・シルフィー・シャオ・ベベルは真剣な眼差しでカーテンを見つめている
空気が重すぎる、あの声だけでこの場が一気に変貌した
『確かに邪魔なカーテンだな』
あの声がカーテンの奥から聞こえる
その瞬間だ、正面のカーテンが一瞬で引き裂かれた・・・破ったのではなく斬ったのだ
カーテンだった布が下に落ちていくと奥の様子が見えてきた
俺は刮目してその奥を見る事となる
・・・・デカすぎる
『な!?なんだぁ・・ありゃあ』
3mじゃない、4mいきそうなデカさだ
綺麗なタテガミにその体は筋肉が膨大である
目が赤い・・他の獅子人族の部下は白いのにこいつは赤い
牙も爪も体格に比例して大きく獰猛という言葉では表せない悪魔の様な大きさだった
腕には棘の付いたガントレットが両腕についている
その両腕には大きな剣を持っていた・・あの馬鹿でかい剣でカーテンを切り刻んだのだろう
その両手剣を地面に突き刺して玉座に座り直していた、玉座もデカいな
彼様に変えたのだろう
『謁見だぞ?獣王の我の邪魔をするつもりか?』
『だがシュウザー殿・・・』
蜥蜴人族の族長らしき人物が少し前に出て口を開くがすぐに獣王が言い放った
『ゲイル黙ってみておれ、俺が獣王だぞ?俺が全てだ・・・』
その言葉で蜥蜴人族の族長ゲイルが口を閉じて後ろに下がる
玉座に座っている巨躯の持ち主が腕を組みこちらに視線を向き直して話しかけてきた
『人族もいる様だがまぁいい、それはどうでもいい』
どうでもいい?人族を見ても本当に普通だ
睨みすらしない、ただ俺やグスタフとナッツを見ると軽く鼻を鳴らして再び会話を開始した
『初めてもいる様だな、自己紹介だ・・・シュウザー・アングラード』
シュウザーは片手を上げて拳を握りしめながら話を続けた
『我がガウガロ国の獣王、シュウザー・アングラードである・・・さぁ楽しみにしていたぞガーランドよ。話したいことを話すがいい』
玉座にもたれ掛かり彼は頭を斜めに傾かせながらそう話した
余裕の表情に似ている、始まる剥奪の意だがその前に俺でもわかった事があった
俺を見て人族はどうでもいいといった・・・俺達じゃなくルーカストアだけに絞っているのだろか
どうやら俺達人間には過去の矛先はこなさそうだ
そしてナッツは真剣に玉座の猛獣を見つめている、一言一句見落とさずに聞き取るつもりだろう
バルトもだ、彼は多少横にいる戦争派の様子を伺いつつ正面にも意識を向ける
ガーランドはシュウザーに質問をした
『どうして戦争を始めるのだ・・・これでは過去の繰り返しじゃないか』
今日にシュウザーが大きく笑い始める、それだけでも凄まじい声音だ
体中にその笑い声がぶつかってくる感覚だな
『笑い事じゃないぞシュウザー!』
ガーランドの言葉にシュウザーは上半身を前に乗り出した状態で静かになり答えた
『これは聖戦だ!全ての感情をゼロからやり直す為の戦いである、昔の様にあるべき領地を取り戻し・・そこから新たなガウガロが始まるのだ、こやつらは俺の話に乗った者達よ』
『感情をゼロから・・・?』
ガーランドが呟くとシュウザーも直ぐに口を開く
『そうだ、正すために領地を取り戻すのだ!こやつらもそれに希望を持ったのだ・・・それに答える為に俺は動くのだ』
そうか・・・誘ったのか、このガウガロの状況を変えれるかもしれないと言う類でこちら側に引き寄せたのだろうな、亀人族のガトは頼まれて戦争派にいるが他は自らその話に乗ったのだろうな
『そんな事でこの国の状況は変わらんぞシュウザー!』
『昔のガウガロに戻すのだ、そこから生まれる希望があるかもしれないのだぞ』
ガーランドとシュウザーが話し込んでいる
シュウザーの言っている事は昔の状態に戻したいと言ったところか
まずは失われた領地を取り返すことから始まると言いたいのだろう
俺達から聞いてみればそんな事で変わるのか不安しかないがリスクが高すぎる
『人族に戦力で勝てると思うのか!?昔と違うのだぞ!』
『たわけが!俺達獣族は戦闘種族である、獣の力を持ち人族と同じ知能をつけた完成形であるぞ!・・・ルーカストアは今は違う国と戦闘訓練で多くの兵が北に向かっているのだ!その間に攻め込んで陣を構えて防衛網を作れば容易い事!今のアバドンは難攻不落の魔の森である、あそこを多少守らなくても良い分こちらの兵は二手に分けやすいのだ』
そうか、彼はルーカストアの兵士が駆け付けるのが遅れる今を攻めて早めに領地を奪い
早急に守りを固める方法を取る事にしたのか、それなら攻めるよりも守る側の兵の消費は格段に減る
籠城戦と似た感じだろう、最初の奪還は成功するだろう
理由はアバドンを目印に北も南も警備兵しか領地を監視するものがいないのだ
総勢1000名くらいだと思う、アバドンの北の防壁と南の森や草原地帯に柵があるのみ
ガーランドから聞いたシュウザー戦力は約9000人と聞く
ルーカストアはいつも領地の関係で俺も戦争していたから戦力はナッツから聞いている
あちらの兵は約10万だが約10倍、それでも厳しい戦いだと思うが何故その作戦でも乗る気になったのかが不思議だ
防衛側に回るとなれば双方五分五分の戦いだろう、獣族は人族よりも身体能力が桁外れだ
それをいれてもその確率だと俺でもわかる、危険な賭けだ
『いいか?』
バルトがガーランドの肩を叩く
そのままバルトが戦争派の種族に視線を送り質問をした
『皆戦争は体験した事はあるのか・・・?』
その言葉に俺たちの外側にいる戦争派の種族は顔を見合わせてザワザワしている
おいおい待てよ勘弁してくれ、まさか・・・
『ない・・・のか』
バルトが小さく呟いた、俺の後ろにいたナッツが耳元で小さく話しかけてきた
『戦争という環境を知らない世代でしょうね、経験が無くとも己の力を過信してシュウザーに乗せられたのかと』
どうやら本当の戦争を知らないで育った様だ
戦争派『人族とは違うのだよ力が』
シュウザー『そうだ』
ガーランド『』