21話 虐殺の過去と覚悟
ナッツ『』
ルッカ『頑張りなさい』
『ナッツ、簡単に説明しろ頼む』
『先輩・・すいません、興奮してしまって』
ナッツは静かに椅子に座り直して深呼吸をした
ルルカやルッカがそれを心配そうに見つめる
ガーランドが何か言いたげな面持ちだが我慢をしているようだった
シルフィーやバウも地面に落ちて割れたグラスを片付けたりしていたが意識はナッツに向けられている
『推測で申し訳ありませんが』
彼はこの後話した
過去の出来事を引きずる種族とそうでない種族で別れたのはシュウザーの故意というのは確実だという事
戦争反対派には傷付ける意思がないのもそうだ、ドワーフ族に確認を取っているのが決め手だとナッツが言う
恨みを深く持った種族を集めて何かしようと企んでいる可能性が高い
8種族合意の決まりをあえて残した詳しい意味は未だに分からない
だがそれの意味は明日にわかるだろうとナッツが言う
だがここまでしておいて8種族同意で止まるかどうかの可能性も薄くなったと彼が言うとガーランドやバウそしてシルフィーが驚いていたのだ
それに対してガーランドは口を開いたのだ
『ありえぬ!8種族合意は絶対だ!』
『確実にそれをあえて残したんですよ!ここまで綺麗に分けておいてそんな失態するような獣王とは思わない・・シュウザーはそれを何かに使おうとしてるんです、ならば明日死ぬ気で説得して8種族集めないと謁見が無駄になります・・・彼はもしかしたら集まったと思っているのですよ!だから難なく了承を得たという可能性もありますしそもそもあちら側の派閥も賛同させるんです、おおやけで何かをしようとしてるんです!!!!』
ナッツの言葉にバウが口を開いた
『なんで8種族という決まりを残したんだ?ガウガロの全体での決まりは絶対だ、それはあり得ないぞ?』
バウが困惑しながらそう口にするがシルフィーも同じ顔だ
ガーランドは少し動揺している様で黙っていた
俺もわからない、残した理由がだ・・・ナッツが答えた
『それを残したのには意味があると思います、それを知るために明日の謁見に間に合わせるのです・・・獣王はそれを待っている筈です、そこで全てがわかるかもしれません・・・謁見を明日にしたのは時期尚早だったかもですね・・・しょうがないんですけど』
『全てってなにをニャ!?』
シャオが口に干し肉をくわえながら質問をすると再びナッツが答えた
『企みですよ、もしかしてですが・・・この8種族同盟が何かをするために必要な要因なんです、そう考えると彼はこれを破る可能性がありこれを狼煙に何かを始める気です』
『ニャ・・・嘘ニャ・・・そんな事・・5000年の間絶対な全体の決まりを変えたことが無いニャ・・』
耳を垂らしてシャオはテーブルを見ている
その顔は悲しい雰囲気に包まれている
ガーランドが立ち上がると今までにはない顔つきになる
グスタフもたまにこんな顔はするがこの人もするのか
獰猛な表情・・・獲物を捕らえる獣の様な顔だ
そのままガーランドがナッツに質問をした
『馬鹿の我でもわかるが、ナッツ殿・・明日が決戦なのか』
『その可能性が大きすぎます。本当に最悪な場合戦います・・・彼が規則を破った場合です、各自覚悟は決めて準備してください・・・綺麗に物事は確実に進みません』
『ナッツ、シュウザーという獣王をお前はそんな印象に見ているんだ』
彼はそのまま立ち上がり俺に視線を向けた
そしてナッツは静かに言ったのだ
『もしかしたら彼は何かに恨みを持っている衝動で動いている印象があります』
ナッツの話だとシュウザーと言う獣王も過去のしがらみや恨みを継いでいる者であればこっちの派閥にアクションがある筈、それがない
そしてドワーフ族にいった言葉だ
過去にこだわらないのならばガーランドにつくが良い、お前らに罪は無い
これは過去のしがらみは自分にはないという表れだ、だから罪は無いと言い切れるのだ
純粋なあちら側の派閥なら狼人族を裏切者種族として言うだろう、その仲間達もだ
彼が純粋にあちら側の者とは思えないと言うのだ
確かにな、こちら側に何故か気を使っているんだ
なんでそんな事ができる獣王が戦争を仕掛けるのだろう
彼の言う罪とは何なのかが不透明である
『彼は兎人族族長のラフィーナさんの言う通り変わってはいない可能性があります、そして確率は低いですが彼は謁見を待っている気がするのです、8種族同盟が完成された報告を』
『なんで破ると思うのだナッツ?』
ルルカがそう言うとナッツが直ぐに答える
『阻止するなら無所属のうち1種族取り入れる筈です、それをしなかったんですよ・・・戦争に邪魔な絶対的な決まりを、ここまでして8種族集まっといてやめますなんて考えにくくて』
『ナッツ君の予想で良いの・・・謁見の流れを予想してほしい』
泣きそうな顔でシルフィーが言う
その横でバウが彼女の背中をさすっている
彼女も悲しいのだろう、破るという意味を重く感じているのだろう
『8種族同盟が出来た事での獣王退位の報告をします、そして彼はそれを破ります』
破るという言葉でバウも悲しそうな顔をした、ガーランドもだ
彼らには最後の頼みである決まりを破る事はすなわち止める手立てが武力行使しかないのだ
『どうしてこんなこと・・・みんなの故郷よ・・・なんで』
『シルフィー様!どうか落ち着いてください』
『シルフィー様・・』
ついにシルフィーが泣き出すと彼女の部下が狼狽えだしてシルフィーに近付く
その光景をナッツは無残にも落ち着くのを待たずに口を開く
『その後はそれを狼煙に彼らが動き出します、宣戦布告か・・・虐殺か』
ガーランドも黙ってはいたがうつむいて静かに泣いていた
彼の部下もだ、肩が震えている
ナッツの話は続く
『昔人間の国がやっていた事と似ています、国に不相応な思想の持ち主を集めて絞首台に乗せて殺しつくしたり、親族関係なしにです・・・平和な場所にも昔はそんな暗い過去があった記録があるんです、先輩・・・僕たちの国ですよ・・ゼリフタル王国です』
『まさか!』
俺の反応にナッツは直ぐ言葉を乗せた
『一部の宗教の大量虐殺が400年前にあったんですよ、あれと似ています・・・無害な民には害を出さずに一部の宗教をあぶり出して処刑した歴史があります、その宗教は国の方針に従えない時はよく暴動を起こしたりして死人も出た記録もあるらしく話し合いも100年近くしても説得できずに国は苦渋の選択でそうするしかなかったと聞きます』
シルフィーがボロボロと泣き出している
それをみてバウが背中をさすりなだめているが
シャオが椅子から挙手をして口を開いたのだ
『という事はあっちの派閥に危険があるのニャ?』
『そうですね、ですが使者は殺したと言っているのですが戦争の意味がまだわかりませんね・・・虐殺をするような段階を踏んでいるのに戦争をする意味が未だにわかりません・・』
『行きゃーわかるさ、今は休めナッツ・・・頭使い過ぎだ』
『グスタフさん』
グスタフは立ち上がりナッツに近付き彼の両肩を掴む
一呼吸してから口を開いた
『その後の予想は明日分かる、何が来ても良い様に俺らは覚悟を決めりゃいいんだろ?』
『・・・予想が外れて欲しいですが、覚悟はしないといけませんね』
『飯になったら呼ぶ、少し寝てろ』
ナッツは椅子から立ち上がり背伸びをすると一言くわえて食堂をでた
『少し疲れたので仮眠します』
『頼り切ってすまないナッツ』
『いやぁ先輩、あくまで予想ですから!』
そう言いながら彼は食堂を出て行った
シルフィーが落ち着いたようで羽をバサバサしながらリラックスしていた
暫く全員静かに座って沈黙をしていたがバウが最初に口を開く
『ママゴトしにいく訳じゃないわけだな』
『それで済めば幸せだぁ』
グスタフがちょっとしたジョークに付き合う
ガーランドが明日の指示をした
ガーランドとバウそして俺達は猛牛人族
シルフィーとシャオは猿人族だ
失敗は許されない、今回バウがこちらにいるのは猛牛人族と良くつるんでいるかららしい
酒仲間かな?だがそれなら彼を盾に話をしよう
シャオは猿人族とはよく冬場での食料交換で交流があり親しいらしい
『あのバカ・・・』
シルフィーがため息交じりでそう言うとガーランドが彼女の隣に座り話しかけた
『明日彼を知ることが出来る、我も精鋭を数人連れていくからシルフィーもファルカを呼んでおけ』
『わかってるわよ』
ガーランドも食堂を後にした、その後にシルフィーは部下と共に食堂の入り口に向かうとバウもそれについていく、バウは1人で来ていた・・・部下を連れていなかった
食堂にはナッツを抜かした俺達4人だけだ
難しい話で俺達も少し疲れてしまった
ナッツの言葉で明日が決戦になると言うと唐突過ぎて反応が出来なかった
そうなるのだろうか、俺は一応覚悟を決めることにした
ルルカ『謁見の日にちもう少し余裕持って決めればよかったのだ!!』
ガーランド『うぐ!!!』
グスタフ『謁見が決戦とは早いなおいおい』