20話 暴君の謎
ナッツ『頭がつかれる』
風呂に入ろうと俺たちは食堂の隣にある建物に来たのだがどうやら時間が決まっているらしい
最初は女性から入り時間がたってから俺達男が入った
その後は夜食だったが昨夜の様な宴会じゃなく普通にテーブルの料理を食べながら無事に食べ終わった
宿舎に向かう途中にガーランドに会い彼が言ったのだ
『明日に獣王との謁見を求めるように俺が良く、だから明日は再びシャオと言ってくれ』
そうして俺達は宿舎に戻りそれぞれの部屋に戻り明日に向けて寝る事にした
そうして現在はシャオとグスタフそしてナッツで兎人族の集落に来ているのだが
1人興奮している者がいる、ナッツだ
鼻息を荒くして集落の者を見回している
『せせせ先輩!みんな人間に兎耳がついただけですよ!?女性なんてかわいらしいし!』
この種族は人間に兎の特徴の耳がついているだけである
俺も最初出会ったときは驚いた、耳があるだけで可愛らしいのは否定しない
ナッツを落ち着かせながら俺たちは族長の家に入った
兎人族の族長であるラフィーナ、彼女は女性だ
丸いテーブル席に俺たちは座り彼女の言葉を聞く
『一体私達の何の用?出来る事は無いと思うけど』
シャオが少し戸惑うが俺はシャオの前に手を出してから話した
『挑発染みた感じですまないが国の滅亡と存亡どちらを選ぶ』
俺の言葉に悩むことなく彼女は答える
『存亡ね』
『なら何故何もせずにこうしているんだ?』
『私達兎人族は非力よ?戦闘なんてできない』
『何かしようと思わないか?』
彼女は細い目で俺を見定める様に視線を送る
俺はポーカーフェイスを装い彼女を見る
力がない種族か、なるほどな
『黙っていても戦争は起きる、国の一員だと思うのならば同盟の意思だけが欲しい・・・特別何か動いてほしいとかは無いんだ、ただ獣王の退位の署名だけに力が欲しいだけだ』
『署名だけ?』
『そうだ、動くのは俺達人族代表と狼人族に熊人族・・・鳥人族に猫人族だけだ、他は動かないし矛先が向く場合にこちらは全力で他の種族を守る』
俺と兎人族の族長ラフィーナの会話を他は静かに見守る
ラフィーナが少し考える仕草をすると質問を投げてくる
『人族のあなたが何故この国に協力するの』
その瞬間に俺はシルバシルヴァを発動させて見せた
銀色の気が部屋中を包み複数の銀色の狼が動き回る
ラフィーナの部下も壁際に3人いたがとても驚いた顔で俺を見ている
その族長もだ、口を開いて固まる
俺は解除して再度彼女に質問の答えを簡潔に説明した
『5000年前の最強の獣王と言われたシルバの職を継ぐ者だ、彼の為にガウガロを無くしてはならない・・・彼の作った理想の国を壊すことは出来ない、意識の中で彼と話した』
『そんな・・・』
『もう一度聞く、兎人族は我が派閥で守りぬくと誓う・・・署名だけだ、それまで別の種族の警備をここに置きたいなら置くようにする、いいかシャオ』
俺はシャオに視線を送ると彼はニコッと笑い答えた
『当たり前ニャ!兎人族の山菜は美味しいニャ』
『お前食べ物かよ』
『ニャはは!』
グスタフが呆れた様子でつっこんだ
それを見てラフィーナも口元に笑みを浮かべる
俺は再度族長の彼女に会話を開始する
『協力の意思が無くても守る』
『それ損じゃない?』
『シルバならそうする、誰も見捨てないとな・・・』
『シルバ様なら・・・か』
様か、彼らもシルバに悪い印象はないと言う言い方だな
どうくる?戦闘能力がない種族であり争いは確実に嫌うタイプだ
族長としての決断をしてほしいが
『私達種族を守ってくれるならいいわ』
その言葉にシャオが詰め寄ってラフィーナの手を取る
『いいのかニャ!?ラフィーナちゃん!!』
『シャオ?あなたの種族からよね?熊とか狼だと仲間が怯えちゃうわ』
『ワイの種族から警備は出すニャ!君は僕が守るニャ!!』
あれ?シャオ・・・お前は駄目だぞ
少々手を取るシャオにラフィーナは呆れている様子だ
グスタフがシャオにつっこむ
『あんたは兎人族達を守るために動くんだよ、警備は部下を呼びな』
『シュン・・』
シャオが耳を垂れて残念そうに頭が垂れる
ラフィーナが彼の頭を撫でて笑いかける
『抜けてるのに頑張ってるのね』
『国のためニャ!何が出来るかわからニャくても動くしかないしニャ』
彼の言葉にラフィーナも少し考える様な素振りを見せて口を開いた
『今動かないと駄目っぽいわねぇ、戦争になったら勝てるわけないし』
どうやらラフィーナもそこらへんわかっているらしい
普通に考えればわかる事だろう
昔と今じゃガウガロが違い過ぎるのだ
総人口40万だったガウガロが今じゃ10万と聞く
消えた種族もいれば自然減少もある
領地が小さくなってしまったのも理由の一つだろう
色んな理由が重なり今のガウガロは昔ほどの人口も戦力も無い
昔の圧倒的な戦力をシルバ1人で補っていたという在りえない部分もあるが
『シャオの領地の隣だしお願いね』
ラフィーナがそう言うとシャオは高速で何度も頭を縦に振る
シャオは惚れているのだろうか?彼に聞いてみたのだが
『ラフィーナちゃんは僕らの時代のアイドルニャ!』
『・・・あい・・・どる・・』
グスタフが変わった反応を見せている
実際ラフィーナもまだ俺達から見ると20代くらいの人間にしか見えない
兎人族は老化が遅いと聞いていたが、だが81歳だ!!!!!!!!
俺達は立ち上がりこの場を後にしようとするとラフィーナが口を開いた
『変わった人族ね?』
『お節介好きなんだ、8種族同盟が出来たらまた誰かをよこす』
『なるほど、んじゃよろしくねぇシャオ』
ラフィーナがシャオに笑顔で手を振ると目を輝かせて彼は大きく反応したのだ
『勿論ニャ!!!!』
帰り道はシャオがすこぶるご機嫌だ、鼻歌を歌っている
5種族達成だ、あとは3種族・・・
俺達は馬に乗って走る時にラフィーナに獣王についてこう情報を貰った
『彼はそんな馬鹿な獣王じゃないわ、獅子族には珍しく真っすぐで思いやりのある人だったあのシュウザーが人族に戦争を仕掛けるなんていまだに信じられないのよ・・・だから様子を見る為に私達は中立にいたの』
その言葉を考えるとどうもこの問題うさん臭く感じてしまう
ナッツもそのラフィーナの言葉を聞いてからずっと真剣な顔で黙っている
こんな事をしでかす獣王じゃない・・・か
彼の情報をもう少し欲しい所だがこちら側にそれをしる者はいない
ラフィーナも子供の頃に遊んでいた時があり今ここまで変わるなんてありえない事だと信じ切れないでいた
『何かが彼を変えたんですかね』
唐突にナッツがそう呟いた
何もわからない、いよいよ奥が深い内容になってきてしまった
狼人族の集落に戻ってもナッツは1人静かに何かをずっと考えている様子だった
あえて話しかけずにあいつからの言葉を待つしかない
暫く俺たちはドワーグ組の説得部隊を待つことにした
こちらは意外とすんなりいったのだがバウとシルフィーの担当のドワーフは気難しい性格だと言うのだ
今俺たちは昼食を抜いていたので食堂で軽く料理を食べながら彼らを待つことにした
コーンスープに猪の肉ステーキが、昼からこってりだなぁ
ナッツの食べる速度がやけに遅い、逆に心配になる
『ナッツどうしたのだ?』
『ルルカさん大丈夫です、考え事です』
ルルカが彼の顔を覗いて心配そうにしている
皆同じように彼を心配していた
いつもはガッツく彼だが今日は違っていた
『ナッツ・・・今は切り替えてもいいんだぞ』
俺がナッツに近付いてそう言ってやると彼は口を開いた
『約70年前に獅子族から死人が出た・・・・の詳細は本当にわかりませんか?』
その事はシルフィーにも聞いていたが詳しくは獅子族があまり公表はしなかったらしくわからないとの事だ
『関連性は低いかもですが一応知っておきたいですね』
ナッツがそう言うと干し肉を齧っていたシャオが答えた
『獅子族が表に出したがらなかった事件ニャけど確か隣の領地の虎人族の友人からは事故で死亡者が出たとしか聞いてないニャ、どんな事故かもしらないニャ』
『事故かぁ・・・たく本当に個人プレイしかしねぇ国だなぁおい、情報の共有くらいしねぇのかよ』
グスタフがまら愚痴の様にそう吐き捨てた
それにシャオは苦笑いで頭を掻くしか出来ずにいた
食堂には他に狼人族が数名椅子に座って料理を食べているが俺達は気にせず会話を続けていた
途中他の猫人族が数名食堂に入ってきてシャオの耳元で何かを話してまた食堂を出ていくが
シャオの話だと明日から兎人族の警護をする手筈の話らしかった
『入るぞ』
そう言ってガーランドが食堂に入ってきた
全員で彼を見るがガーランドは落ち着いた様子で近くの椅子に座り口を開く
『明日の夕方に謁見が許された、あちら側の派閥族長と部下数名も賛同するらしい・・・こちらも人族の者もいる事は伝えてある』
『そんなあっさり了解できるもんなんですか?』
ナッツが直ぐにそう言い放つとガーランドは溜息をついてから答えた
『二つ返事でな、無粋な事はしないから普通に来るがよいと言っていたよシュウザーは』
『何で他の族長や部下を呼んだと思いますか?』
ナッツの質問に彼は頭を傾げる
普通は呼ばないものじゃないだろうか、よくわからない
何を彼は考えてるんだろう
そうしているとナッツが口を開く
『見せる意味があるのか・・・』
『ナッツ殿・・・』
ガーランドの声だ、昨日から彼もナッツの評価をかなり上げただろう
国の事情などには昔から関心を持っていた後輩だ
ガーランドも自然と彼を頼りにしている様な気がした
ナッツが椅子から立ち上がると真剣な顔で俺に向けて口を開いた
『シュウザーは謁見を待っていた気がします、ただ本当に大きな賭けです・・・彼が本当に何も手を出してこなかった場合は彼の目的が分かります』
その言葉にガーランドは驚きを露わにして立ち上がり彼に詰め寄った
『それはどういうことだ!?ナッツ殿?』
『彼は関係のない者は巻き込む気が無いんだと思います、無所属を取り入れる時間なんていくらでもあった。そうなると彼は暴君じゃない・・・そこまで考える獣王が無鉄砲に戦争なんて絶対に仕掛けない、負けるとわかる筈です』
『ナッツ、どういうこった?』
グスタフが首を傾げてナッツにそう言う
ナッツは一度ガーランドに座るように言ったのち
座り直して口を開いた
『憶測です・・・兎人族族長ラフィーナさんの言った通り昔と変わらない獣王なら今の様に関係の無い種族を巻き込もうとしない、だから無所属には接触しなかったんじゃないかと。戦争なら全種族に号令をかけるべきですよ普通・・・それをしない、ガーランドさん?派閥はどう分かれたんですか』
『・・・俺達には話が来なかったのだ、彼の息がかからなかったのがこの派閥だ』
ナッツはその言葉に目を見開いた
直ぐに冷静に戻ると話を勧めた
『癖のある種族だけに話を持ち掛けたという事ですね?』
『ああ、あちらの派閥は昔の事件を良く思わず俺達ともそりが合わない種族で固まったな』
ナッツは少しテーブルを見つめて考える
俺達は邪魔をすることが出来ずに彼の言葉を待つしかできなかった
『分けたんだ・・・、分ける必要があったんだ!この可能性はかなり大きい、だが何故・・・』
そんな彼の独り言を聞いていると突然ナッツは立ち上がり
口を半開きにして固まっていた
『おうナッツ!』
『あ・・グスタフさんすいません』
グスタフの大きい声にナッツは首を軽く回してリラックスさせて落ち着こうとした
深呼吸を何回もした後に下を向いて俺たちに質問をしてきた
『なんで無所属をそのままにしたんでしょうか?』
『関係のない種族だからじゃないのか?』
ルルカが首を傾げてそういう
『あっ・・・丁度だ!』
ルッカが手を叩いてそう言ったのだ
その様子をナッツは見て静かに頷いて口を開いた
『無所属が全部こちら側になれば8種族丁度になります、そうなれば戦争も出来ない状態なのになんで放置したのかが不思議なんです・・・無所属に過去の因縁にしがみ付く様な種族はいますかガーランドさん?』
『おらぬ・・・無所属は全て我らと平等に接してくれる普通の者達だ』
ナッツがその言葉を聞いてテーブルを軽く叩きながら考え始めた
その時間は1分は経過しただろう、だが誰もせかす者はいない
『でも分けられているのは確かですねこれは、でも8種族合意で獣王が退位できる分残すのが在りえない・・・・ここまで綺麗に分けといてここでミスなんてしない筈・・・』
その話の最中にバウとシルフィーが走って食堂に戻ってきた
彼らを見ると急いできたような感じがした
バウもシルフィーも真剣な顔をしていた
ガーランドが2人に座るように指示をすると不思議と黙ったまま座ったのだ
駄目だったのか・・・そう全員の予想がよぎる
そうした中でシルフィーが口を開いた
『ドワーフ族は同意してくれたわ』
『おお!!』
ガーランドは小さく腰のあたりでガッツポーズをするがバウとシルフィーは喜ぶ様子はない
それをみてナッツがバウに声をかけた
『何かあったんですか?』
バウはシルフィーに頷くと彼は料理場に行ってしまう
シルフィーが口を開いたのだ
『ドワーフ族の族長が言ってたわ、私たちが来る前にシュウザーが来たと』
『なんだと!?』
皆声を揃えて驚いた、派閥に取り入れようとしたのか?
それが失敗したのかはわからないが彼女は会話を続けた
『言われたらしいわ・・・内密の話らしかったけど・・・過去にこだわらないのならばガーランドにつくが良い、お前らに罪は無い・・・俺はお前らを害する気は毛頭ないし今後迷惑はかけぬってね』
その言葉に動揺が走る
ガーランドが狼狽えていた、彼をルッカが落ち着かせようとして近付くと彼は手を出してそれをやめさせた、彼はあまりの無い様に椅子から転げ落ちていた
罪はない?なんの罪だ?今後迷惑をかけないと言っても戦争が起きればこちらに火の粉がくるはずだぞ
『先輩!』
『ぬお!』
ナッツが声を荒げてテーブルを叩きながら立ち上がった
呼吸が荒い、何をどうしたのだろうか
グスタフが彼に手をだして落ち着くように合図をするが
ナッツはその行為に首を横に振った
出来ない…と
ナッツは叫びながら俺たちに入ったのだ
『明日は絶対残り2種族の説得しないと駄目です!謁見までに8種族合意をしなければいけません!』
丁度その時バウが調理場から戻ってきたらしくその言葉に驚きを隠せないでいた
ナッツはそのまま口を開いたのだ
『彼は違う意味で暴君です!明日に8種族決めて謁見をしないと最悪あちらの派閥の種族にかなりの死人がでます!!』
その言葉にバウは手に持っていたグラスを地面に落とした
グスタフ『そうなってんだよ』