19話 獣王の思惑
グスタフ『修行・・・』
ジャムルフィン『修行・・・』
ルッカ『こんな時くらいやめたら?』
『とんでもねぇとこに来たもんだ』
『まぁ軸からして間違っているという事だな』
俺達は腕立て伏せをしながらそんな会話をしている
森の中でだ、他人から見れば可笑しい光景だろうが気にしないでほしい
ナッツとルルカは横で模擬戦で剣の打ち合いをしている
そんな会話にルッカも木の根に座りながら口を開いた
『負の連鎖ねぇ、根本的に国としての方針がバラバラ過ぎよ』
その通りだ、決まりがあるがそれは各種族毎にだ
全種族の決まりに大事なものが無さそうだ
『106・・・107・・まぁそれも今を何とかしねぇと駄目だろ』
『102・・103・・そうだな』
腕が振るえるがきつい時こそ鍛錬だ
ルルカがナッツの剣撃を受け流して距離を取ると彼女も口を開いた
『そのツケが今来たのだ!』
『戦争もそれってぇ訳か』
『そうなのだ!まとまってないからこそ内部でこんな事が起きるのだ』
ルルカのいう事ももっともだ、もう少し改善をする方がいいだろう
グスタフが立ち上がると彼は遠くの方に視線を向ける
少し俺に笑みを浮かべると走ってその視線の方向へ走っていく
『ああ、餌を見つけたんだ・・・』
ナッツが呟く、少しして獣の鳴き声が聞こえた
あれはタイラーグリズリーだな・・可哀そうに
俺も立ち上がると槍を持って突きの鍛錬を始める
始めた時にルッカが横から声をかけてきた
『今迄の獣王はどんな事をしていたのかしら』
その言葉にも俺は疑問を持っていた
時間はあった筈だ、何故しなかったんだ
シルバの時代後から少しずつ回復させようとすれば出来たのだろうが
今の状況を見れば悪くなっているんじゃないかと俺たちは捉えるしかない
『悪い予感しか浮かばないな、だが決まりには嫌でも従うだろうから何としてでも8種族同意を得ないと』
『ですが先輩、俺は嫌ですが獣王に直接会うって手もありますよ』
ナッツの案も良いとは思う、だがそれなりの結果を出さなければ話も通じないかもしれないのだ
少なくとも2種族合意を得てから獣王のもとに足を運ばなければならない
多分ただ入っただけでは無駄に終わる
『明日次第だな・・・』
『直接獣王の思惑を知れたら近道かもしれないんですがねぇ』
『人嫌いの可能性が高すぎる、無鉄砲に戦争をしようとするくらいだ』
『でも・・・亀人族の族長ガトさんの話の通りの人ならば俺はなんか今回の戦争は彼にとっては意味があるからそこの行動かもしれないと感じるんです』
『意味?』
俺は槍の突きの鍛錬を一時中断してナッツに視線を送る
ルルカもその様子を見て一度剣を収めた
ナッツが再び口を開いた
『あまりにも強引すぎるんです、戦争は最終手段なんです』
ナッツが近くに木の根に座って会話を続る
『内政をいじるより先に武力を行使するって在りえないんですよ本来、それに賛同したのが癖のある種族だけですよ?こんな綺麗に分かれてしまって可笑しいとしか僕は思えないんですよ』
『まぁ可笑しいよなぁ、無所属にゃ手が入ってないんだろ?今に始まった事じゃねぇのによ?』
タイラーグリズリーの首を担いでグスタフが戻ってきた
流石首狩りだ、その首どうするの?
グスタフが首を下に降ろすと口を開く
『この話は俺達がゼファーに出会った時から起きていた話の様に聞こえるんだがそうなら無所属も取り込む時間はたっぷりあったしこっち側の派閥にも何かしらあった筈だ、それがねぇ・・・ナッツの予想はどんなだ?』
彼はナッツの顔を覗き込む
その様子にルッカも視線をナッツに向けた
ナッツは話す
『取り込む気が無いんでしょうね、今いる種族で十分な理由があるんですよ』
『その理由は獣王にしかわからないって事ねナッツ君』
『そうですルッカさん、だから一度獣王と話す機会もいいかなと・・・危険な賭けかもしれませんがもし彼だけが知る思惑がある場合なら面会で大事にはならない気がします』
ナッツは意外と兵士でいる時は勤勉であった
そのおかげで色々考えが浮かぶのだろう
言われてみればそうだと思う点が多い、綺麗に分かれている
今は戦争の準備で大人しくしているだけかもしれないがこのままやる気なのか
『明日の結果次第で獣王の面ぁ拝みに行くか決めるのも手だぜ?』
俺の肩を軽く叩きながらグスタフはそう口にする
確かにナッツの言う通りだが獣王は使者を殺したのだ
俺達まで狙われないだろうか、それが心配だ
『俺達が襲われる心配はどうだ』
『かなり低いです、理由は殺された使者が隣国だったからでしょうが僕達はゼリフタル王国です・・・そしてジャフィンさんは国を代表する武人ですから僕達に敵対心は確実に持ちません、2国を敵に回す行為は暴君でも自殺行為です』
確かに国から生まれた物は国の財産だ
金も自然も国民の感情も武もだ
俺は表上は国で武を認められたのだ、俺に危害を加える=敵対行為となるのか
『流石に馬鹿でもそんな事しません、そして先輩を餌にできます』
『俺!?』
俺が驚くとルッカがナッツを細い目で見ている
それに気づいたナッツは苦笑いするが
ルルカが気づいたようで口を開いた
『私達に危害を加えなければ考え合っての戦争なのだと言うのだな!』
『そうですルルカさん、なりふり構わずな者ならば危ないですがもし彼なりの思惑があるなら何もしません、そこで一番目立つ先輩を使うのです・・・銀狼の道の者であるからこその賭けですが』
銀狼だからこそ?どういうことだ?
ナッツは真剣になるとやたら頭が回る、追いつけん
彼に聞いてみることにした
ナッツの話では永年の恨みつらみの戦争の類ならば無駄な戦力を消費はしないだろうとの事だ
ゼリフタルを敵にすることもしない、だが
俺は銀狼の道の者だ、獣王にとってこの俺をどうとらえるかによって彼の思惑の表面上を知れるかもしれないと言うのがナッツの意見だった
憎むのか?憎まずか?
『もし彼が先輩も標的にするならただの暴君でしょう、ですが』
ナッツが深呼吸すると再び口を開いた
『銀狼の道にいる先輩に牙を向かなかった場合、獣王の矛先は永年の恨みじゃない可能性も出てくるんです』
『別の可能性も視野に入れたいってぇ事か』
『そうですグスタフさん、戦争の中身は単純に見てはいけないんです・・・色々な感情が混じって出来るんですがその核がある筈です』
ナッツの言葉にグスタフも納得した様だ
彼の言葉を聞いてグスタフはナッツの背中を叩く
『流石だぜナッツ』
少々ナッツが嬉しそうに笑う
色々な可能性を見出す・・・か
ただの暴君という安直な考えは本質を捉えることが出来ないって事か
ナッツの頭の良さを俺は予想外に知る、俺が囮か・・・
『ちょっとナッツ君』
『ええ・・ルッカさん』
目を細めてルッカがナッツの目の前にいる
そのままルッカが口を開いた
『危なかったら全速力で逃げるのよ?ジャンは逃げ足は速いけどナッツ君は早くないでしょ?』
『はは・・頑張りますが危害を加えられる可能性は本当に低いので』
まっ俺は銀彗星で逃げれば一瞬だな、グスタフも早い
ナッツには確実にその場に来てもらいたい、ルルカはお留守番で良い
皆森の中で木の根に座り込んでそんな作戦会議をしていた
『俺は銀彗星で逃げれるしな』
『お前あれ卑怯だぞ?』
グスタフがそう言うがその通りだな
本気なら音速越えて空気の壁壊すくらいだもんな
誰も追いつけない
その会話にルルカが腹を抱えて笑っていた
『確かにあれは逃げ技としても最強なのだ!』
笑い焦げている、最強の加速技だし使い勝手が良過ぎる
なるほど、こうまで思い通りな分かれ方か・・・
『その場合、俺とグスタフそしてナッツだ・・・ナッツは獣王を良く観察してほしい、グスタフは警戒をしてもらう・・・俺は餌だしルルカとルッカはいつも通り待機だ』
その言葉に皆無言で頷く、了承してくれたらしい
俺が立ち上がると近くの木から誰かが出てきて口を開いた
『よかろう、明後日には獣王との謁見を取り入れよう』
『ガーランド!?』
彼はそのまま俺たちの近くに来て腕を組む
ガーランドに聞いてみた
『どこまで聞いてたんですか?』
『最初からだ、謁見には俺も付き添う』
そう言いながら俺の肩を叩いて集落の方へと歩いていく
途中後ろを向いて大声てグスタフに言う
『魔物の亡骸はちゃんと燃やしておけよ?』
再び彼は歩き出し姿を消した
タイラーグリズリーの事だろうな
その後にルルカがその後燃やしてくれて処理を終えた
俺達は夜食前に風呂があると聞いているので汗を流しに皆で風呂に行くことにした
ナッツ『僕の評価爆発的!?!?』