17話 ガトとシュウザー
バウ『・・・・』
シルフィー『今日は死ぬ気で動け』
次の日は予想通りにガーランドが戦力外になってしまう
朝に起きてみると集落の広場でシルフィーがバウにキレていてバウは号泣していた
少し可哀そうな気もするが立派な戦力を削ったのだ、仕方ない
ガーランドの様子を見に行くと彼は奥の部屋のベットでクローディアに看病されていた
『俺の・・頭が先に・・崩壊・・する』
『本当に馬鹿ね、逃げればいいのに』
クロディアがガーランドの頭に氷をあてて口にしていた
ケインはそんな彼女の隣でくっついている
俺達はシャオと亀人族の集落へ向かう事にして今回は馬に乗ることにした
乗り心地は良い、馬だしストレスが無い
俺は馬を走らせているシャオの隣について話を聞こうとした
『今の獣王は昔から知ってるのか?』
『シュウザーかニャ、あいつは昔は変わった奴だったニャ』
『変わった奴?』
『そうニャ、俺達バウとシルフィーそしてガーランドは子供のころから仲良しで良くガウガロの中心部にある広場で遊んでいたんニャけど』
『昔からの付き合いなんだな、他の3人とは』
『そうニャ!でもシュウザーは遠くから俺達を見てるだけでどんな奴かは詳しくは知らないニャ、ただ広場の隅で孤独に遊んでいたニャ、声をかけようと近寄るといつも逃げてたニャ』
『ふむ、そして今はその影もなく・・・か』
『あれから100年ニャ、彼も変わったのかニャ・・・今は派閥が綺麗に分かれてるニャ』
『綺麗に?』
『分かりやすく言うニャ、こっちは過去にこだわらずに国の発展を目指す、あちらは少し癖があるニャ・・まぁ未だに人族との恨みもあれば大昔の種族同士のいがみ合いを続ける派閥ニャ』
わかりやすいな、未だに過去のしがらみにこだわっているのがあっちなのか
でも双方の言い分は聞かないと大変なことになるけど
『つくニャ、アポはもう昨日のうちに使いを出してるから大丈夫ニャ』
そう言うと前方に集落が見えた、川に面した村であった
ここの川は狼人族の川とは倍幅が広い様だ
基本的に木の上に家があるわけじゃないらしい、全て普通に建てられた家だ
一階建てが殆どだ、たまに2階だてもあるが
暫く馬を走らせ村の中を走る
いたるところで亀人族とかなりすれ違うが歓迎されてる様子もなければ避けられるような雰囲気もしない
『ここは一番マシな種族ニャ、まともニャ!大丈夫ニャ・・・亀人族は皆種族は平等だと言う教えがモットだからニャ』
それを聞いて俺は安心する、闘争心があるわけじゃないのだろうか
『前に見えるのが族長の家ニャ』
そう言うシャオに続いて走り馬をその家の前で止めて降りる
少し大きめの家である、2階建てだ
馬は繋がなくてもそこで待っててくれるらしい、利口だ
俺達が来たと同時にその家から亀人族らしき者が出てくる
シャオがそれに気づいて俺達に口を開く
『彼も小さい時たまに遊んだニャ!族長のガトだニャ』
俺に簡単にそう説明すると直ぐに別の人間の声が聞こえた
『久しいであるぞ、シャオよ・・・寒い季節に大変だろう?入るが良い』
ガトの声だ、彼は軽くお辞儀をしたた俺達人間を見て目を細くする
不味いかなと少し思ったのだがその心配も無駄の様だった
『人族とは久しい、口に合うかわからぬが茶は飲める筈だ・・寛いでいきなさい』
『ありがとうございます』
俺達とシャオはそのまま家に中に入る
リビングが広い、家の一階は殆どここに使われているんじゃないかと思うくらいにだ
大きいテーブルだ、ガトが椅子に皆を座らせて口を開いた
『飲み物が出るまで自己紹介しましょう、私が亀人族の族長をしているガト・レイドと申します』
椅子に座っていた彼は自己紹介と共に立ち上がり皆に頭を下げる
律儀な族長だ、グスタフも薄々感じてると思うが良い印象しかない
『俺はジャムルフィンと言います』
『グスタフだ』
『ナッツです』
俺達3人も立ち上がり自己紹介をして再び座るとシャオが口を開いた
『本当に久しいニャ、そっちも大変だろうけどニャ』
シャオの言葉にガトは軽く笑うと彼が返事をする
『お互い様だよシャオ、君が来た理由もわかっているだろうから話しとこうと思ってね』
ガトは椅子の背もたれに体重を乗せるようにもたれ掛かる
この場にはシャオに俺、グスタフにナッツそしてガトだ
『今日は奥さんはいないのかニャ』
『丁度買い出しに出掛けたよ』
そう答えた後に彼は天井を見て話を切り替えたのだ
『何故私がこちら側についたのかだろうシャオよ?』
『だニャ、ガーランドも言ってたけど理由が無いとテコでも動かないガトだし聞いてみようってね』
『まぁ亀だしな』
『ニャ』
2人は笑っているが本当に派閥同時なのだろうかと疑りたくなる
理由があってあちらの派閥にいる・・か
そうしていると奥から別の亀人族がお茶を用意してくれた
それに気づいたガトが口を開いた
『娘のガーラだ、すまんなガーラよ』
『お父さんお茶の出し方わからないもんね』
『ニャははは!』
シャオが笑っている、ガトよりも体系は小さい
娘か、跡継ぎの長男とかはいないだろうか
そう考えながら出されたお茶を飲むが美味しい
ナラ村でも茶はあるが苦みが無く飲みやすい
グスタフが茶を飲み干したところで彼が口を開いた
『ガトさんよ?どんな理由があってそっちにいるんだ』
その言葉にガトは目を閉じて答えてくれた
『・・・シュウザーは子供の頃だが私を助けてくれた事がある』
『あのシュウザーがニャ』
『詳しく話そう』
ガトは彼について話し出した、ガーランドやバウそしてシルフィーとシャオと会う迄の出来事である
その昔、子供だったガトは1人で森に向かった時に木の根に足を取られて坂から転げ落ちた時に怪我をしてしまい動けずにいた
助けを呼んでも誰も来てくれず夕刻になるとすぐそばを魔物が通ったりと生きた心地がしなかった様だ
そんな時に現れたのが現在の獣王になったシュウザー・アングラードだ
彼はガトに手を差し伸べて言ったのだ
『大丈夫?僕はシュウザー!村に帰ろうよ!』
『でも足が』
『僕は獅子族さ!力だけはあるからおぶれるよ!』
そう言うシュウザーは魔物を避けながらガトを背負い亀人族の村まで運んでくれたのだ
転落時で怪我していた彼は治療院で治療を受けた
ベットに横たわるガトは近くに座る椅子に座るシュウザーに声をかけた
『シュウザー君はなんであそこにいたの?』
『僕は父さんみたいに強くなりたいし特訓してたんだ、丁度声が聞こえて来てみたらガト君が怪我していたんだよ』
『そうなんだ、ありがとう』
『困っていたらお互い様さ!今度はいっちゃ駄目だぞ?』
『うん、でもなんで種族の違う僕を助けたりしたの?獅子族は他の種族とそんな仲がよくないって聞くけど』
シュウザーは胸をはってガトに答えたのだ
『種族なんて関係ないさ、困っていたら助け合うのがガウガロだろ?』
『・・・そうだね、本当にありがとう』
『気にしなくていいさ!当然の事さ!』
椅子で足をパタパタ動かしながらシュウザーは笑いながらガトにそう言う
そんなシュウザーに彼は話しかける
『今度お礼がしたいし僕のお家に遊びに来てよ』
『本当に!言っていいの?』
『うん、新しい友達を紹介したいし』
『友達』
その言葉にシュウザーは嬉しそうに反応を見せる
ガトは手を出すとシュウザーはその手を握る
シュウザーは彼に再び口を開いた
『君は初めての友達さ、友達ってなんだろう』
『僕も初めての友達だよ、今度は困ったことがあったら僕が助けるよ』
『約束だよ!』
治療を終えて怪我が治ったガトはシュウザーを家に招待して共に遊んだ
だがそれ以降彼と会う事は無かった、年月が経ちガトはガーランドやシルフィーにバウにシャオと出会う
族長へ上り詰めた彼はシュウザーと次に会った時には彼が獣王として君臨した儀式の時だ
その時の彼の目は初めて会った時の目とは違い冷たい目をしていた
何が彼をそんなに変えたのだろう、ガトは気になっていた
獣王として君臨したシュウザーは暫くしてガトの集落に訪れたのだ
ガトが族長としている集落に、そんな姿と雰囲気が変わった彼がきた
家の前で獣王と亀人族の族長の話し合いだ
見上げるほどの巨躯、ゆうに3mは軽くある
筋肉が破裂しそうな体格に綺麗な黄色い毛並み
彼はガウガロで一番強大な力を持ち巨大な体を持っていた
シュウザーはそんなガトに集落にて彼に頭を下げてお願いをしたのだ
『シュウザー、久しいぞ・・・どうしたんだ?お茶でも飲むか』
ガト、彼は久しい友人の訪問に嬉しく思っていた
そんな彼が悲しそうな目をガトに向けて口を開いた
『大丈夫だガト・・気にするな、だが頼みがある』
『うむ・・・聞こう』
シュウザーは彼に深く頭を下げて頼みを言う
『決して迷惑はかけない、頼むガト・・・暫くこちら側にいてくれないだろうか』
『シュウザー・・・一体何があったのだ』
『・・・・』
彼は何も言わなかった、だが暴君と皆が言うような風貌が感じられなかったのだ
何を考えているのだろうか、何を企んでいるのだろうか
ガトには考えても想像が出来ずにいた
『わかったよシュウザー、今度は私の番なんだな』
『・・・ガト・』
シュウザーが地面をうつむき震える
その姿にガトはただ見つめる事しか出来ずにいた
・・・・・・・・・・・・・・・
俺達は彼の話を聞いたあと静かに沈黙を続けた
ガトがそんな俺たちの沈黙を見て口を開いた
『すまないシャオ、彼が何をしようとしているのか知りたいのだ・・・私には彼が昔のままだと思っている、彼をこうさせた理由を知りたいのだ』
シャオが腕を組みながら返事をする
『友としての頼みと今の彼を変えた理由を知る為かニャ』
『ああ、国の危機なのはわかっているが真実を知るために彼のもとについた』
『それなら仕方ないニャ、甲羅も固いし意思も固いし』
『誉め言葉かな?最悪君達と戦う事になったら亀人族は降りる事にする、安心してくれ』
2人は再び笑っている
色々とガトにも事情があるらしい
今はガウガロを危機にさらしている獣王が理由があってこんな事をしていると思い亀人族は彼の側についたのだ
『私も彼を止めたいと思ってはいるよ』
そうガトが最後に口にした
彼は敵じゃない、中から彼を探ろうとしているのだ
ガトが立ち上がるとシャオも立ち上がる
それに呼応して俺達も椅子から立ち上がる
シュウザー・アングラード
子供の頃は皆と変わらない純粋な子供であったが獣王になった時にはその様子が変り果てていたという
玄関をでて馬に乗ろうとした時に俺はシルフィーとバウとの会話で話したある事を思い出してガトに聞いてみたのだ
『70年前に獅子族から死人が出た話は何か知ってますか』
その言葉にガトは腕を組んで渋い顔で答えた
『森で獅子族の者が死んだとしか聞いていない、多分狩りでの死亡者だと思うが』
『そうか・・・ありがとうガトさん』
そう言うと彼はにっこりと笑い軽く頭をさげる
馬に乗った俺たちは暫く沈黙を続けていたがナッツが口を開いた
『説得は無駄に終わりましたが得られる情報はありましたね』
シャオが口を開く
『まぁ説得は無理だと思ってたニャ、でも情報は必要だし無駄ではなかったニャ』
シャオは残念な様子を見せずにニヘラと笑いそう口にした
まだ何も繋がらない、シュウザーの話を聞いてもまだ何もだ
ガトは彼がどういった理由で変わったのか知りたいのだろう
俺もどんどんシュウザーという獣王に興味が出て来た
最初の印象は本当に暴君だ、今までの獣王の努力を無にしようとしている
止めるべき問題だし早い段階で他の種族をこちら側に取り込んで戦争を止めなければならない
『とはいっても最悪な事態は想定しとかねぇとマジでヤバイぜ?戦争前に種族同士の争いにはなる可能性が高いぜ?』
グスタフが俺に視線を送りそう言い放つ
確かにだ、人族との戦争の前にガウガロでの争いになり確率が高い
そのことについてナッツもわかっている言葉を発した
『そうならない為の抑止力が必要ですね』
『そうニャ、出来るだけこちら側に種族をつけてそうならない様な判断をさせるニャ』
此方の数が多ければあちらも下手に動けない
半分以上の種族を味方につけないといけないのだ
帰ったらバウとシルフィーに蜥蜴人族の説得の結果も聞かないとな
考えているうちに俺たちは狼人族の集落へとついたのだ
ガト『めんご!』
シャオ『ええんやで!』