7話 覚悟を決めた旅
ケイン『おおおおうちいいいいいいいいいいい!』
ナッツ『落ち着いて?』
俺たちは朝ミューリアの近くの無理に待機していた雷狼に全員乗って爽快な旅を満喫していた
各町を通らずに森を駆け抜ける、途中魔物もいたが無視して走り去る
あまりのスピードに魔物も追いつけないのだ
『おうちっおうちっ』
ケインが雷狼の上でご機嫌が良い
雷狼の大きさは3mくらいだ
1人くらい楽に背中に乗せて運べる魔物である
スピードも殆ど落ちないらしく軽く60キロは出ているだろう
話によるともっと出るらしいが俺たちの事を考慮して速度を落としているのだ
最高速度は150キロとか異常なスピードらしい
『ジャン!あれ』
ルッカの言葉に彼女の指さす方向を見る
アバドンの森だ、久しぶりに見たが外からでも凄い霧だ
ここからではあの大樹も見えないくらい上空も霧で覆われている
俺たちはアバドンを外回りに経由しながらガウガロに向かう
想定していた時間は5時間だ、邪魔も無くまっすぐ向かう
途中2回ほど小休憩を挟んだのだが予定通りに進んでいる
『さぁて、何がまってるんだろうなぁ』
獰猛な笑顔でグスタフがそう言い放つ
本当は何も起きないでほしいがそうならないだろうな
『皆覚悟はしとこう』
俺がそう言うと全員頷く
アバドンが見えなくなると近くの森の景色が変わり始める
ケインがそれに気づいて声を出した
『あと少しです!』
皆に緊張が走る、そろそろ到着するらしい
少ししてからケインがある方向を指さした
そこは獣道に近いがギリギリ雷狼が通れる場所が前方に見えた
その方角へ俺たちは雷狼に向かいように指示して獣道を駆け抜ける
魔物の気配はない、ここには魔物がいるような感じがしない
『ケイン、今どこら辺にいるんだ』
そう言うとケインは即答した
『もうガウガロです、狼人族の領地に入ります!』
そう言った後にケインは上を向いて吠えた
吠えたというより遠吠えだ、仲間に帰りを伝えているのだろうか
獣道も徐々に広くなり幅も2mくらいの進みやすい道になる
グスタフが左右を見ながら警戒をしてくれている
俺たちはケインの乗る雷狼を先頭に突き進む
いつの間にか森の光景も変わっている
多分木々が多いので太陽光が地面まで降りてこないのだろう
薄暗い感じだがそこまで暗くはない、多少といった程度だ
先頭のケインの雷狼が減速したので俺たちもそれに合わせる
徐々に速度を落としてやがて俺たちは立ち止まった
『何かいやがるぞ』
そう言いながらグスタフが降りる
俺たちも降りることにするとケインが前方の森をジッと見ていた
そして武器を構えだすとケインが口を開く
『大丈夫です、味方が来ます』
ケインの言葉に俺たちは武器を収めて前方を見る
そうすると何かが迫ってくる音が聞こえる
気配は複数か?多いな
『お父さーーん!!』
ケインがそう叫ぶと奥からそれに呼応して声が聞こえた
『ケイーン!!』
それは姿を現した何かに乗る人影だ
狼人族の大人たちだ、大きい・・・180㎝くらいか
彼らはトカゲの様な魔物に乗ってこちらに近付いて俺たちの手前で立ち止まる
ケインが彼らに走ると先頭の狼人族の男がトカゲの乗り物を降りてケインに近付く
その狼人族はケインを持ち上げて抱きかかえた
『ただいま帰りました!お父さん!』
ケインは泣きながらそう口にする
彼はケインのお父さんらしい、周りの狼人族よりも大きい
それよりも色も違う
『灰色?』
俺はそう口を開く
周りに狼人族は白いがケインとお父さんは灰色に近い感じだ
多分王族だし銀の意思の血を継いでいるのだろうとすぐに納得をした
ケインを抱きかかえている周りの狼人族は号泣し地面を見ている
まぁ王族の後継者が戻ってきたんだしそうだろうな
ケインの父も泣いているが冷静になりつつケインを下に降ろして俺たちの方を見る
その瞬間俺たちの体も緊張が走る
単純な理由だ、彼は強い
銀の意思の血を継いでいるんだ
『お父さんこの人たちが助けてくれました』
『そうか、ケインよ・・・母さんが待っているから先に行くのだ』
『はい!!!』
ケインは後続の狼人族のトカゲに乗り奥に消える
ここに残っているのは俺たちとケインの父そして狼人族が2名
父と言われる狼人族がこちらに近付き頭をさげて口を開いた
『人族よ感謝する、我はガーランド・ザシュール・メルヘルムと申す、ケインの父でありガウガロの狼人族の長をしている者である』
『ジャムルフィンだ』
『グスタフだ』
『ナッツです』
『ルルカなのだ!』
『ルッカよ』
俺たちの言葉の後に彼が口を開いた
『感謝に堪えぬ、よくぞ我が息子をここまで・・・人族との亀裂にも光あり・・か』
俺はケインの父の言葉に少し気にはしたが彼は続けて口を開いた
『客人として集落に案内しよう、だが長居はさせることはできぬ』
ガーランドの表情は複雑そうだった、俺たちもその意味はわからないが
来るまでに何かが起きているのは気づいていた
俺は彼に頷くと再び奥に雷狼に乗り進んでいく
進んでいる時に俺は彼に並んで走らせ話しかけた
『つかぬことをお聞きしても?』
『良い』
堂々だ、はっきり聞いてみよう
『何が起きているんですか?ゼファーからも気をつけろと伝言を頂いてますが』
『雷帝様からか、なるほど・・・』
少し彼は考えるとすぐに口を開いた
『獣王が戦争を目論んでおってな、先日来たルーカストアの信者を全員殺したのだ』
『なっ!?』
この意味はでかい、信者を殺すとなると話す余地無しの戦争である
睨み合いは終わりを告げるという事なのだ
どんな理由で殺したのか俺には予想もできない
彼が再び口を開く
『愚かな行為だ、今までの獣王様がしてきた意味をまるで理解していない』
『それはどういう事ですか?』
『昔の獣王様が最後に言った言葉だ・・・人族とは関わるな、関わる時には覚悟を決めよと』
その意味は今俺にはわからないが伯爵から聞いたあの歴史が関係しているのだけはわかる
『集落に着いたら話そう、それにしても貴殿からはあの方と同じ匂いがするな』
『匂い?』
俺が聞きなおすと彼は答えた
『最強の狼人族と言われた獣王・・・シルバ・シルヴァ様に』
『!?』
俺たち全員はその言葉に驚いた
その技は・・いやその名前は銀の意思の名前なのか
それよりも可笑しい話である
違う時代を生きた狼人族の匂いを何故わかるんだと俺は思った
暫く俺たちは無言になりそのまま集落へと向かった
ケイン『マイハァァァァァァァウス!!』
ナッツ『あ、もういいですよ自由にして』