2話 順調な旅路
ジャムルフィン『平和だ』
ナッツ『今だけ!今だけ!』
『ブギィィィィ!!』
『逃げるな豚野郎ぉ!』
『行くのだグスタフ!』
『・・・元気だなぁ』
俺は馬車に揺られてルーカストア手前の山道を通っていた
馭者の隣で黒豚という魔物を追っかけているのはグスタフだ
すぐ後ろでルルカが応援している、応援しているだけだ
俺たちは特訓を終了し昼前にはポートレアを出てガウガロに向かっている
『暇ですねぇ』
馬車の窓からナッツの声が聞こえた、魔物の出現も少なく出番がない
殆ど移動になっている
俺たちは少しでもレベルを上げようとやる気を出していたのだが
『魔物少ないですよね』
ケインも馬車の中でそう呟く、仕方がない
普通はそうそう出てこない
後半の護衛でルルカとグスタフが魔物と追いかけっこをしているが俺たちに時には一体も出てこなかったんだ、ため息も出る
『ルーカストアまであと少しだし入国したらすぐ予定の宿にチャックインね』
馬車の正面窓から顔を出してルッカがそう口を開いた
俺は早く着いて休みたいなとだらけるような気分で思っていた
順調すぎる
馬車の中ではケインが超ご機嫌だ、当たり前だ
家族に会えるのだから彼のテンションはガウガロまでこのままだろう
馬車の中で頭を振りながら鼻歌を歌っている
ルッカがそれに調子づいて手拍子をしているが馬車の中は平和だ
まぁ馬車の外もだが
『唐竹割ぃぃぃ!!!』
『ぶぎぃっ!』
どうやら追いかけっこも終わりトドメを刺したか
ルルカが黒豚の剥ぎ取りをしている
『首でいいんじゃないか?』
『駄目なのだ!いつも首首って!』
グスタフの言葉に即ルルカが突っ込む
彼が首を借りたいのは剥ぎ取りの面倒さゆえからの言葉だ
剥ぎ取り部位は把握している・・・筈だ?
『ルルカ、燃やしといてくれよ』
『了解なのだ!』
剥ぎ取り終えた魔物を炎術で燃やしておく
その間馬車は少し停車しておく、燃え尽きるまで見守るのだ
そうしないと肉の匂いで他の魔物も出る
ここはルーカストアに行く指定された道だし死体放置は不味いのだ
適度に燃やして灰にすると再び馬車が走り出す
今回もスカーレットさんの豪華馬車なので馬車内はフカフカだ
慣れ過ぎると他の馬車に乗れなくなる
リクライニング馬車とか涙が出るほど気持ちいいのだ
『ファイアバレット!』
ルルカがお空を飛んでいた人食い鳥に向かって放った
何だいたのかと思ったが俺も呆けてしまい気づいていなかった
人食い鳥が火達磨で落下してきた、これじゃ剥ぎ取りも出来ないな
『やってしまったのだ・・』
ルルカがそう言っている
そんな事もあるだろう
『ジャン?』
『どうした?』
馬車の正面窓からルッカが呼ぶので返事をする
何やら聞きたいことがあるようだが
『宿に着いたらこれと言って用事は無いのだけれどどうするの?』
『冒険者ギルト行ってもなぁ、一応ミューリアじゃないが少し寄るか』
『なら女性陣とグスタフは買い出しね』
どうやらグスタフを買い出しに使うらしい
確実に荷物持ちだろう、彼はそれについては便利だ
こんなこと言ったら殴られるだろうが
『じゃあ俺はナッツとギルド行くか』
『はい先輩!』
嬉しそうに挙手しながら返事をするのが窓の奥から見えた
最近2人で行動してないもんな、グスタフは今回は大人しくしてもらおう
そしてパチパチと何かが燃える音は横から聞こえるので視線を向けたが
グスタフが大剣に燃え盛る人食い鳥を刺して歩いている
どこの民族だよおいおい、まるで魔物への見せしめの様になっている
俺は軽く彼が暴君に見えてしまい笑ってしまう
『グスタフ、何してるんだ』
『魔物寄せだ』
逆に来ないと思うのだが気のせいだろか
彼は楽しそうだがどこが楽しいのだろう
健やかに笑みを浮かべてグスタフも歩く
燃え尽きた後はそのまま道の隅に置いていた、骨だけだった
ルルカもグスタフも飽きたのか暫くすると馬車の中に入る
それを確認すると馭者が馬に合図をしてスピードを上げる
あのダークホースだ、ルーカストアまでスパートをかけるのだろう
ルッカも窓から外を眺めている様で見た事がある景色になると口を開く
『あと少しよ、10分くらいで国が見えると思う』
およそ10分ちょいだろうかルーカストア小国が見えてきた
その景色は雪で白く見える、俺たちも厚着だ・・・寒い
『今日は女共の手伝いかぁ』
『力持ちなんだからいいでしょ?』
馬車の中でグスタフが愚痴の様に言うとルッカがそう彼に口を開く
渋々だが了承はしているのだろうと思う
山道を抜けて俺は後ろを振り向く
真っ白だ、道は雪がなかったが森は白一色になっている
真冬にガウガロと言うのも俺の士気が上がるか心配だ
そう考えているうちに入国審査の為の門に着く
商人や冒険者や色んな人が並んでいる
俺たちは冒険者カードを出すだけで良いのだ
身分証明で便利だし、ケインとルッカはナラ村で出る住民カードがあるのでそれを提示するだけだ
俺たちは数分並んでやっと出番だ
門兵が2名俺に近付いてきて口を開いた
『証明できる物と入国理由を』
全員馬車から降りてカードを提示する
入国理由なのだが
これはスカーレットさんにも聞いたがガウガロに行くと言うなと言われた
まぁ昔から色々あるから許可がおりないかもしれないからだろう
だから俺は普通に答えることにした、俺用の嘘だ
『ミューリアギルドのグロウさんに私用があってきました』
『ほう、グロウ殿にか・・』
そう言いながら門兵はカードを見て確認する
詳しく聞かれても調べものの件で結果を聞きに来たで良いと思う
『うお・・Aランク・・・』
俺の冒険者カードを見ている、そんな珍しいのだろうか?
ルーカストアはそれなりにいるような感じがするけど
門番の1人が俺に話しかけてきた
『銀狼のジャムルフィンだと?本物なのか?』
『本人ですが何かありましたか?』
俺の名前が何かあるのだろうかと考えてしまう
この国で悪だくみも何もした覚えは無いのだが
門番の目は何やら凄い物を見るような顔で俺を見ている
2人の門兵が4人に増えていた
『何したのよ・・・』
後ろからルッカがそう囁く
何もしてない、覚えがない
そうしていると門兵の1人が俺にお願いをしてきた
『かの最強職と言われるオーラを見たいのですが・・・よろしいでしょうか?』
『へ・・』
どうやら武人祭での話題がこの国まで来ているらしいのだ
銀色のオーラを放出する冒険者が武人祭で優勝したという事がだ
口コミ早くないか?
『シルバ・シルヴァ』
仕方ないので5秒だけ発動した、ドンと小さな破裂音で少し門兵が驚くが
俺の周りの銀色の気の放出と狼の形をしたオーラを見て凄く喜んでいた
『こんなものが見れるとは!お通りください!!!!』
これでいいのかよ・・・
俺は納得できない節を感じつつ皆で入国をした
ルッカ『入国の時はその技でいいわね!』