36章 【武人祭3日目】彼のお願い
ノートン『見えないんだけど・・・』
決着の時、会場は沸いた
その中でひと際興奮を覚えた者がいた
『うおおおおお!あれ俺の息子っ!俺の息子ぉぉぉ!』
『誰か!レナウスを止めて!!』
『レナウスさぁぁぁぁん!!!』
ジャムルフィンの父であるレナウスが大興奮しながら観客席を走り回り大声で叫ぶ
それに母のマリスが恥ずかしくなり止める様に指示をし、ルッカの父であるゼルが彼を追いかける
ケインがその光景を不思議そうな目で走り回るレナウスを見る
ルッカママのマリーが腹を抱えてレナウスさんを見ていた
『レナウスさんったら・・・』
ルッカがケインの頭を撫でながら苦笑いしている
一方別の席では
『ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
ナッツとキャメルが万歳をしてその結果に驚いていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『終わったらしいな』
グスタフが医務室でベットに横になりそう呟く
2つの椅子には妹のルーシー、そして仲間のルルカがいた
『あいつは勝つのだ!その声なのだ!』
ルルカがグスタフの体をポンポン叩きながらそう言う
『見てくるねお兄ちゃん』
『おう』
ルーシーも気になり会場に戻ると言う
だがこの盛り上がり方、医務室迄響く歓声
ジャムルフィンが勝ったんだなとグスタフは確信していた
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『お・・・お疲れさまでした!!』
『ああ、ありがとう』
リングから離れてリングの入り口まで戻った俺は係員にそう言葉をいただく
そのあとはすれ違う人に驚きの目で見られながらそのまま選手控室に向かった
控室のドアを開けるとそこには昨夜よりも人が多かった
本当なら勝ち残った選手である4人だけの筈だが
15人くらいか、そこには参加していた選手がいたのだ
大会が終わるまでは参加者の部屋の使用は自由の為
この一戦が気になりここで見ていたのだろうと思う
俺が来たことがわかると控室にいた今大会参加者がこちらを向き
驚きの目の後に言葉をくれた
『銀狼、確実に捨て置けぬ存在よ』
『お前・・バニアルド』
『グスタフも気にいるわけだ、フフフ・・俺も修行せんとな』
腕を組んで彼は静かに笑っていた
そうしていると横から右肩を叩かれて右を見た
カールが満面の笑みでこちらを見ていたのだ
『こんな豪傑が隠れていたとはな、グスタフに続いて君か!楽しくなりそうだな、この時代』
そう言い彼は控室をあとにした、カールは3日目を勝ち進んでいた
俺がこのまま勝ち進み、彼も明日勝てば俺たちは戦うことになるだろう
楽しみだ
『戦ってみたかったですのぅ』
隅の椅子に座っている老人がそう俺に向けて言い放つ
槍の子ハートンだ、彼はこの国での槍士として名があがるくらいの人物だ
同じ武器の使う者として興味を持ってくれたのだろう
彼はご自慢の長い髭を触りながら笑顔でそう言ったのだ
俺は彼にお辞儀をするとハートンも笑顔で頭を下げてくれた
『ふぅ・・・大変だった』
そのまま俺は窓際の椅子に座り、一息ついた
そうすると隣にあの女性が座ってきた
俊足のライラだ、人妻・・・人妻・・・
彼女は俺の顔をニヤニヤしながらジロジロ見てきた
『あらぁ、意外とハンサムねぇ・・好きな人の為!とか格好いい事いってぇ』
そう俺をライラはおちょくってくる
少し恥ずかしかった
『場の雰囲気で行ってしまったんです』
『フフフ、いいのよいいのよ!さぁてグスタフ君の様子もみないとね』
そう言ってライラは控室から出ていく、多分医務室だろう
ライラさんとの会話で忘れていたな、俺たちの会話も拡声術で聞こえてるんだっけ
恥ずかしくなってきた本当に、ルッカにどう顔向ければいいんだ
少し時間がたつと控室の人間も退出していく
今日はもう終わりなのだ、あとは帰るだけだしね
俺は控室に来た治癒術士と医師によって体調の様子を見られたが
外傷は治癒してもらいあとは明日迄安静にするように言い渡された
なんだかんだ気疲れをした、体も疲れたが
まだ俺の鼓動は早く脈打っていた、勝ったんだ
ノートン大将軍に・・・俺はその場で静かにガッツポーズをした
俺も明日に向けて帰ろうと椅子を立つ
すると黒い仮面の男が何か言いたげな様子で俺に近付いてきた
あれは明日の俺が戦うタツタカと言う男だった
俺もグスタフも彼は尋常じゃない強さを持っていると感じた
そんな彼が俺の前にきてお辞儀をしてからこう言ったのだ
『少しお話してもよろしいでしょうか?』
凄い律儀そうな人だ、悪い感じは最初からしなかった
どことなく不安な様子を見せるが緊張のせいでもあると思っていた
選手控室にはいつのまにか俺と彼しかいなかった
『大丈夫だよ、どうしたんだ?』
『太古の職をお持ちでしたら、5大天位職を知ってますか?』
5大天位職か、ノートン将軍が言っていた記述の事だろうが詳しい事は俺は知らない。
『それに通ずる話は知っているかも、俺の聞いたのが君の情報と合ってればだけど・・・』
タツタカはジーッと俺を見つめて言葉の続きを待っていた
俺はノートン将軍から聞いた記述を彼に伝えることにした
『最強の座を欲して摩天狼に挑んだ5種の天位職は永い時を称えられるだろう、人族はそれを5大天位職と呼ぶようになるってのは記述であると聞いたけど詳しい事はまだ俺も探してるんだ・・・』
そう俺が言うと彼は驚いた顔をしていた、そのタツタカと言う男は暫く何かを考えていた
何か念じている様な雰囲気もあるが何をしてるのだろうか
暫くすると彼が口を開く
『ダークマター・タイタンハンド・ジハード・イビルディザスター・ヘルトが太古の5大天位職という事は自分は情報で聞きました、その更に上がその職だと言うのですか・・・』
『んっ!?』
驚いた、この男何か知っている
そうそうこのような情報を持っている人間はいない
それに通ずる者かと俺は思っていた、もう少し話がしたい
『タツタカ、まず座ろう』
『わかりました』
俺たちは再度椅子に座り始める
『その5大職の名は初めて聞いたな、だが俺は色々旅をしてだが・・・遥か昔にどんな天位職でも勝てなかった存在がいてそれが俺が持っている摩天狼という事は歴史を知る魔物に聞いた』
タツタカが下を向き考える、そして口を開いた
『自分もそんな存在がいると僅かながら聞いたことがある程度でした・・・誰も勝てなかったと、それが貴方の職なんですね』
『まだ2回クラスチェンジあるけど、次は半年もかからないと思うよ』
『あと2回!?!?あの強さでですか!?』
彼は黒い仮面から見える目を見開きとても驚いていた
俺も驚きたいよ、中位職の位置なのに凄い力だもんこれ
本気出すと確実に上位職をオーバーキルしちゃうし
『ちなみに・・教えてくださるなら聞きたいのですが、次の職はなんですか』
俺は少し考える、悪い奴じゃない確実に
互いの利益につながりそうな関係になれると思い俺は彼に質問の答えを教えた
『・・・〇〇〇〇〇だ』
彼は真剣な顔つきで考え出した、俺は完全に彼を警戒するのをやめた
彼はどう見ても敵じゃない、そう確信した
『なるほど』
そう言って彼は椅子から立ち上がり
俺に深くお辞儀をしながら口を開いた
『ご迷惑じゃなければ、一年後に力を貸してください!無理を承知でいってるのは自分でもわかってます!』
『一体何を言ってるんだ、話を聞かないと・・・』
『すいませんでした・・実は』
俺は彼の話を聞いた、なるほど・・・
俺は彼の話に頷きながら大人しく聞いていた
途中彼が悔しそうに泣いていると気が付いた
彼も力が足りずに無念の思いでここまで逃げてきたのだろう
だが遠いな、まずは中途半端な返事は出来ない
彼の話が終わり俺はタツタカの肩を叩く
『俺はこの大会後にガウガロという小国でやることがある、もしそれが終わって君の気持が変わらないと言うならその時はナラ村に顔を出してくれ、君のいた国に俺の職を知っていそうな奴がいるかもしれんからな』
『本当ですか!?』
彼は嬉しそうに声を出すが俺は静かに答える
『俺はそれまでに3回目のクラスチェンジを終えてるだろう、君はその【隠している職】を一年理解する為に勤しめ!まだ君は色々慣れていない感じがするけど準備は必要なんだ・・・情報もな、急ぎたい気持ちは十分わかるが急いでもなにもできん』
『・・・わかりました、必ずナラ村に行きます』
彼の体は震えていた、今は何できない
今の状態だと無力だと悟って悔しさが体に出たのだ
世界って色んな場所で苦労があるんだなぁ
俺も椅子から立ち上がり、彼の肩を軽く叩いて最後に言いたいことを口にした
『まずは明日だぞ、切り替えよう・・・ずっと悩んでいても君には必要な大会だろう』
静かに彼は頷き椅子に座った、俺はその様子を確認してから
この場を立ち去った
一先ずこの話の全容は表に出さないように隠しておこう
俺はまだ未熟だ、明日の事を考えたい
まだ強くなれていない、考えることは沢山だ
彼の職は魔導王という術士の頂点である上位職
表上ではだ、だが世界の職には色々不思議な存在がある
俺は久しぶりに過酷な戦いを強いられるかもしれない
明日にはそれが起きる
俺は苦戦を強いられるかもしれない
レナウス『うおおおおおおおおおおお!』
皆『とめろおおおおおおおおおおお!』