27話 【武人祭2日目】深紅の力
グスタフ『大会は木剣設定だからな!いちいち木の大剣とか面倒で普通に大剣とか言うけど』
『・・・両者動きません』
司会が少し動揺したようにそう言う
『ほう、無鉄砲にこないか、獣だと思っていたが』
その言葉にグスタフは反応はせずに彼が動くまでにもっと彼の情報を分析しようと必死になっていた
それと同時に色々と準備をする
心の中でまだ動いてほしくないとグスタフは願う
彼にはまだ不慣れな作戦なのだ
『ふん!』
バニアルドが動いた、両者リングの上で10mも離れていた
それが一呼吸でいつのまにかグスタフの目の前に来ていたのだ
『なっ!!!』
目を思いっきり見開き彼は動揺した、速過ぎると
バニアルドが両手で大剣を真上から振り落とす
グスタフはそれをガードしようと大剣を上に向ける
ガードがギリギリ間に合うだろう、そう思った
『チィ!』
軽く舌打ちをしてグスタフはバニアルドの攻撃を防いだ
だがバニアルドはその防御を逆に利用した
止められた大剣の軌道を自分の足元に逃がす
そうすると止めた状態からの振り下ろしの勢いが生まれる
その勢いを使ってグスタフの目の前でその場の前方宙返りをし、縦回転しながら両足でグスタフを蹴った
すると真上にガードしていたグスタフだがその全ての動きが速くそして見慣れない攻撃である為
モロに彼の両足の蹴りをくらい、吹き飛ばされる
『カッ・・・ふ!』
声にならない声をだし10m程吹き飛ぶが足で踏みこみ耐えた
グスタフはもうバニアルドが追加で攻撃が来るのがわかっていた
彼はグスタフを吹き飛ばしたというのにもうグスタフの左側にいた
グスタフは右利きだ、ガードを少しでも遅らせる為にこの様にしたのだ
その作戦も成功したようでグスタフの脇腹に深く
バニアルドの大剣がめり込む、木製の切れない大剣でも力があれば致命傷を負わせることができる
グスタフは聞こえた、何本か脇腹が折れた音を
『なっ!?』
バニアルドの大剣がグスタフの脇腹に食い込むと同時にだ
バニアルドの頬を何かがぶつかる
『へっ!』
グスタフの右手からの殴りだ
バニアルドはグスタフの左側にいた、グスタフは右利き
彼の利き腕でのガードを遅らせる為の行動だった
グスタフは彼の目論見通り最初は、右手に持った大剣を振りかぶっていたが
彼は途中で大剣を離し、バニアルドをぶん殴ったのだ
『おらぁぁぁぁ!』
『ぬぅ』
バニアルドが10mくらい吹き飛んで背中をついて倒れた
それを見たグスタフは左側に上半身を傾かせて立ち尽くしていた
折れたからだろう、左の脇腹のどこか・・彼にしかわからない
休む暇もなくバニアルドが立ち上がる
右手に持つ大剣を左手に持ち替え
唐突にグスタフに急接近し腹を右手でぶん殴る
グスタフは行動がかなり鈍足になっている
さっきよりも動きが悪い
足で踏ん張ることもなく背中でリングの地面を音を立てて滑りながら吹き飛ぶ
勢いが止まったことを確認してバニアルドが口を開いた
『良い判断だ!そして馬鹿力だなお前・・・俺よりもあるとはな』
『取柄・・なんでな』
フラフラとグスタフが立ち上がる、彼の目がバニアルドをずっと睨んでいる
グスタフは突っ込んだ、折れているのにまっすぐと
その光景をバニアルドは少し驚くがすぐに大剣を右手に持ち替え
グスタフが大剣を振りかぶる瞬間にさらに加速しグスタフの右肩を下から斜めに振り上げた大剣を当てた
『ぬ・・・ぐぁぁぁぁぁぁ!』
グスタフは叫びながら攻撃された右腕でバニアルドの右手首を掴んだ
一瞬でグスタフは彼を自分に引き寄せて両腕で抱き着く
互いに体を正面にしてグスタフは抱き寄せたのだ
『貴様!なに・・を!』
『分かち合お・・・うぜ!』
グスタフは全力でリング外の壁に走り、突っ込もうとした
バニアルドはそれに気づいて膝を使い彼の胴体に何回も攻撃をする
要するに膝蹴りだ、とても痛いだろう
『ぐ・・ぬ・・・うぅ!』
だがグスタフは耐えた、ご自慢の耐久力が活かされたのだろう
それでも上位職の攻撃だ、無事じゃない
『ぬぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉ!』
『マジか貴様!』
そして勢いよくリングを飛び出して壁にぶち当たった
壁には多少ヒビが入っていた
捨て身での攻撃だった、グスタフ自身もダメージはあるだろうが
バニアルドの方がでかいだろう
そう感じるのだが
『ふん!!!』
グスタフが一瞬力が抜けた隙に引きはがし
回し蹴りでグスタフをリング内に蹴り飛ばした
力なくグスタフはリングに体を打ち付けて倒れた
すぐにバニアルドもリングに戻る
司会もいろいろ白熱して話してはいるがこの2人には聞こえてはいない
バニアルドは肩で息をしつつ口を開く
『もし体の正面で壁にぶち当たってたら危ないのはこっちだったな、それでもかなりのダメージだが』
『・・・・』
グスタフはゆっくりと無言で立ち上がる、隙だらけだった
だがバニアルドは攻撃をしなかった
興味があったのだ、中位職なのにここまで登り詰めてきた彼を
話で聞いたように上位職のような存在に近い彼を
バニアルドは興味を惹かれていたのだ
『立つか』
グスタフは両腕をブラブラさせながら姿勢を低くし
目だけはバニアルドを見ていた
だが彼の体は左に傾いている、折れたせいで姿勢がとれない
睨み合いも数秒でありすぐにバニアルドはグスタフが今の状態では反応が遅れる速い速度でグスタフの腹部に右手で殴る
グスタフは拾った大剣で抵抗しようとはしていたのだが
力が入らない、ガードできず大剣を吹き飛ばされながら蹴られたのだ
また数メートル地面を滑り倒れこむ
バニアルドも構えを解かない、彼の評価を変えたのだ
何をしてくるかわからない獣だ、攻撃するために防御を簡単に捨てる獣
『・・・』
『起き上がるか、やめろ・・・どうみても貴様の引き出しは使えないと気づいたはずだ』
『立てるから・・立ってん・・だ』
虚ろな目でそう答える、両足はもうガタガタだった
その状態を見てバニアルドは彼に歩いて近付く
グスタフも身構えるがふらついている
また軽くグスタフが頬を殴られる、だが殴られた瞬間に殴った右手を掴む
『無駄だ、もう見た』
『ぐっ』
掴まれた瞬間にグスタフを一本背負いで投げた
受け身も出来ずにドカんと音を立ててリングに再度倒れた
『くっ・・・投げる瞬間に背中蹴りやがって・・』
バニアルドが背中の下あたりをさする
グスタフは背負われる時に膝蹴りで背中を蹴っていたのだ
多少なり攻撃できた
もう立てまい、だが彼は強者だったとバニアルドは思っていた
中位職では彼の右に出る者はいないとまで言えるくらいに
だがグスタフは立った
ゴロンと半回転し、うつぶせになり無事な右手をつき
上体を上げて膝をつき、体が震えててもゆっくりと立ち上がった・・・
その様子を見て正気じゃないとバニアルドは思った
何をそこまで・・・彼を動かすのかと考えさせる
普通じゃない、タフ過ぎる
いや違う、そういう次元じゃない
『何故立つ?お前は強い、俺が認める・・・刃の付いた武器ならお前は即死んでいた』
『死んでねぇ』
『むっ』
『倒れてねぇから・・・立っている』
『貴様、プライドは無いのか?』
バニアルドはそう口を開いた
何を言いたいかはわかる、木の大剣でもグスタフの脇腹を抉ったのだ
普通ならこれで負けを認めるのが常識じゃないのかと思ってだろう
それをグスタフは子供の意地のように返事をしたのだろう・・
『プライドか・・・まだそんなもの持ってねぇ』
『子供みたいな言い訳はやめろ、お前の今までの努力が泣くぞ?』
『いつも泣いてるさ』
『は?』
そういいつつバニアルドは一瞬で間合いを詰めてまたグスタフに近付く
グスタフは大きく左腕で体の正面をガードするが
バニアルドは姿勢をさらに低くしグスタフの正面で軽くジャンプし
両足で蹴りガードしていた彼を吹き飛ばした、受け身は出来ていない
蹴った時の反動を使い回転してバニアルドは着地するがグスタフはただ地面を滑っていた
『ふぅ、俺も体術が得意なんだよ』
そう言ってバニアルドは立ち上がりそうなグスタフを見つめていた
グスタフは頭に力を入れてうつぶせから上体を持ち上げて無事な腕をついて立つ
もう限界な筈なのだが彼は何度も立ち上がる
その様子をバニアルドは少し恐怖を感じた
グスタフが口を開く
『格好よく・・いくなんて・・思ってねぇさ』
『なに?』
息も絶え絶えにグスタフは答えた
体全体で呼吸をしていた、満身創痍とは事の子だろう
虫の息に近い
『毎日上手くいくと・・そう思ってない、こんな無様な時もある』
『・・・・』
バニアルドは無言で彼を見つめた
『お前ぇは・・強い、俺より・・・も・はぁ』
『素直に負けを認めた方がいいぞそれならな、わかっていて向かってくるなど愚か者だぞ』
『愚か者で何が悪い』
『なんだと?』
バニアルドは少し彼を睨みつけた
グスタフはヘヘヘと彼の様子を見て笑う
足元が千鳥足になるグスタフは続けて口を開いた
『俺もなぁ、上手くいくとは思ってねぇ・・・たまにこんな日もあってもいいだろう、グホッ』
グスタフは膝をつくがまた踏ん張り立ち上がる
言葉は終わらない
『まだ弱ぇ癖に・・・恰好つけたいなん・・て思ってねぇ、最後に自分が求めた理想にいけりゃ・・いいさ、途中の事なんて気にしてねぇ』
『ふん、まぁ理解はできる』
『・・・恰好つけるなら、最後で良い・・・あいつの言う通りだ、無様でもいい・・・途中の人生が綺麗でも結果…が・・・駄目なら、俺は嫌だぜ』
グスタフはバニアルドに近付く、のそりとゆっくり足を引きずりながら
『だがこれ以上は無意味じゃないか?とうにお互いの強さがわかったろう』
バニアルドはそう言うとグスタフは彼を野獣の如く睨みつけた
歯をむき出しにし、噛みついてくるかのようにだ
そして彼は言った
『俺は勝ちに・・ぐ・・来たわけじゃねぇ、俺の生き様を見せに来ただけだ』
『目的の違いか、だから立つと』
『ああ』
『そうか、そらっ』
『がっ!?』
グスタフはバニアルドに近付いていた
目の前にまで来た時に胸の中心を左足で蹴られた
ただただ地面に倒れるグスタフ
だが彼は立つ、もはや意味が無い様に思えるほどに
獰猛な目で彼に睨みつけながらだ
グスタフはバニアルドと距離を取った、理由はわからない
ヨロヨロとしながら後ろ向きで歩き、下がる
バニアルドは苦笑いした
大剣は捨てていた、グスタフ同様におまけ武器だからだ
彼は腰に両手をつけて質問してみたのだ
『なんで立とうとする?気になるぞ?』
グスタフはこの言葉を聞き、優しく笑った
一瞬だが獣としての顔がその時無くなって笑ったのだ
とても穏やかな顔でグスタフが言ったのだ
『自分の為・・に自分なりに妥協しねぇ為・・と・・あいつに追いつくの・・と・・うぐ』
グスタフは呼吸を整えて再度バニアルドに近付きながらこう答えた
『俺を過大評価してるじゃじゃ馬娘にも俺が苦労してるとこ見せときたくてな、無駄に不安しかしねぇからなあいつ・・・心配せずとも皆苦労してるんだ』
『くだらん色恋か?ならば無様に這いつくばって負けろ』
バニアルドは両手に闘気を込めた、初めてこの戦いで技スキルを使う
両腕に闘気を溜めた瞬間にグスタフは身構えた
そして身構えた瞬間に声が聞こえた
『お兄ちゃん負けるなーーー!!』
『グスタフ勝つのだーーー!!!』
グスタフは小さく笑った
いつもの様にケッと
バニアルト『倒れて?』
グスタフ『やぁだ』