26話 【いつも通りだ】
ナッツ『ボクゥ!』
ジャフィン『はよこいや』
『おにょ!?』
『少ぉし動きがよくなったな?いいぞ』
ルルカとグスタフが2回戦前夜に特訓をしていた
明日は大事な大会の筈なのだがグスタフはいつも通りの生活をしている
肝が据わっているというか、何も考えていないのかは見た人次第だ
ルルカの剣術レベル上げの特訓である
互いに剣が交わり金属音がする、勿論ルルカはそのたびに弾かれている
『力が強ぇ奴ほど受け流すタイミングが重要だ、覚えときゃ確実にためになる』
『グスタフは馬鹿力過ぎなのですよぉ!?』
受け流す隙を伺うルルカだが単純な力で振り落とされたグスタフの大剣はその隙を作らない
『おらぁ!』
『あー!』
少しルルカが足で踏ん張りつつ2メートルくらい吹き飛びながら踏みとどまる
その様子を見てグスタフが目を細めて頷く
肝心のルルカは肩で息をする状態だった
グスタフは腕を組み何かを考えながらルルカに近付く
少々やり過ぎな気もするのだがこれくらいが良いのだろう
彼もがむしゃらに考えてはいないと思える
その様子をルルカは両手をダラリとさせてグスタフを見て口を開く
『手加減を覚えるのですグスタフー!』
ルルカは不満があるようだ、言いたくなる理由はよくわかる
その言葉にグスタフは少し苦笑いしてご自慢の大剣を肩でトントンと叩きながら答える
『これから俺たちが目指す場所の魔物はこの先殆ど筋力が人間の比じゃねぇ奴がごろごろいやがる』
彼は大剣をドスンと地面に刺してルルカの両手を掴んでブランブランと揺らし強張った筋肉をやわらげながら続けて言う
『そこにお前もいくんだ、手加減してくれる魔物はいねぇ・・・着いてくるんだろ?』
『・・・うむ』
ルルカは下をうつむく、少し機嫌が悪そうだ
その様子をグスタフは困った顔で眺める
グスタフが困り顔というのも何かと珍しいだろう
そんな一面もある、いつもは諸突猛進なイメージを皆は抱いているだろう
彼も曲りなりにも人間なのだ
そんな一面は当たり前にする
『たく・・まぁた色々考えてやがる』
無抵抗にグスタフの両手ブラブラ療法をされながら無言で俯くルルカ
彼女も色々成長するには良い歳だろう、ルルカは軽く頭を左右に振る
『どこまで強くなれるのか不安にならないのですかグスタフ?』
その言葉にグスタフは首を傾げて手を止める
『俺馬鹿だからよ、先のことわからねぇんだ』
その言葉にルルカは顔を上げてグスタフを見る
難しい事を考えてるかのような顔を彼がしているのに気づく
ルルカからすればグスタフはセンスの塊だ
やれば何でもできる男みたいなイメージだろう
苦労人だというのも知っている、それでも・・・
『俺ぁまだ強いとは思ってねぇ、先の事を考えるのは色々やってからだ・・・おめぇもだ』
グスタフはルルカの両手を離し、腕を組んで話す
『無理やり背伸びしたってどうしようもねぇんだ、そんな位置に俺たちはいる・・・頑張るしか今はないと思うぞ?』
『今は頑張れてもこの先頑張れるか心配にならないのですかグスタフは?』
『心配だから馬鹿みたいに特訓すんだ、叶えるまでは泥試合だ』
ルルカは首を傾げるが理解が出来ていないだろう
それを感じてグスタフが言葉を砕いて口を開く
『都合のいい様に上達はしねぇよ、俺は特訓以外の時間でも色々考えてるだけだ、満足いく結果が出るまでは惨めな思いをすることが多いという事だ、綺麗に物事は進まねぇ』
『なんとかく理解できるのだ!』
『ケッ』
いつもの笑いでグスタフは反応する
ルルカは少し考えてから彼に質問をする
『2人を見ると着いていけるか不安になるのだ』
『はぁ・・・置いてかねぇから心配すんなよ、考え過ぎだ』
そう言いつつ彼は膝を曲げてしゃがむ
そうすると丁度身長差がある2人なのでグスタフの頭の高さがルルカの首から下くらいになる
ルルカは腕を組んでしゃがんでるグスタフの真似をし
膝を曲げてしゃがむ
『頑張れる様になりたいのだ!』
そう彼女が言うがグスタフがまた困り顔をする
暫く彼が考えて自信なさげな面持ちで口を開いた
『他人の道を導ける様な力は俺にはねぇさ、だが俺はお前の事を頑張れと応援するぞ?』
そう言うとドッコイショと彼は小さく囁き立ち上がる
グスタフがルルカを見ると何故かポカーンとしか顔をしていた
一体どうしたのだろうか?グスタフはそう思いながら目の高さを合せてルルカを見る
ルルカは少し笑い、口を開いた
『・・・グスタフにそういう言葉似合わないのだ』
『だぁーからなんっでだよ!?』
グスタフは溜息をついて背伸びをするとルルカがまた話しかけてきた
『明日大事な大会なのにすまないのだ、特訓に付き合ってもらって』
彼はその言葉に軽く肩で笑いルルカの肩を叩く
そして刺した大剣を抜いて答えた
『こっちの方が大事だろ?』
『お・・・おう』
『はぁ?』
少し何かに狼狽える様子を見せたルルカだが
グスタフはその言葉に不思議そうな顔で彼女を見つめた
『まぁ今日は終わりだ、明日もやりたかったら言え・・・クラスチェンジまでも少しだ』
『うん、明日は勝てるのかグスタフ?』
『・・・・8割負けるな』
『8割とからしくないのだ!』
グスタフは頭を横に振り口を開く
『2割勝てるんだ、やれることして勝つしかねぇさ・・・明日の相手はマジで強ぇんだ、がむしゃらでもいい、考えて色々試して・・ぶっ倒れても立てばいい』
そういいながら親指を宿がある方向に向けた
ルルカを宿泊施設に送る事にする
そんなルルカは機嫌がいいのだろうか、スキップをしている
グスタフはそれを気にもとめないのだが
収穫があったのだろうか?
グスタフにはただ心配事が無くなってくれたかとだけ思っていた
『ゾンビグスタフ頑張るのだ私は応援してやるのだ!』
『おう』
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『さぁ試合が始まります、スカーレット様!この試合どう予想されますか?』
ゼリフタル武人祭2日目、司会の言葉で彼女は口を開いた
『グスタフさんにとって分が悪い相手です、深紅のバニアルドは私も評価している選手ですね、単調な修行をしていない方です、そしてバウンサーなので剣術も体術も水準は高い・・・正真正銘の上位職ですのでどうグスタフさんが戦うか気になります』
司会と解説が話す中、リングに登った選手2人は互いを見つめていた
ふとバニアルドが口を開く
『よくここまで来たな、半端な上位職で助かったろうが・・・』
『あぁん?』
グスタフはバニアルドを鋭く睨む
そうすると彼は軽く笑い言ったのだ
『悪いが中位職の限界だ、そこまで持っていった努力を認めよう・・・お前はここまでだ』
バニアルドが構える、構えたというよりかは木の大剣を右手首でクルクルと器用に回している
だが姿勢は低い、構えなのだろう
グスタフも構える、額には大量の汗を流していた
彼も感じている、馬鹿だが馬鹿じゃない
グスタフから見て彼は上位職としての力を有しているのだ
つけ入る隙を探せないでいた
その状態のまま始まる事に彼は焦りを覚えた
その様子をバニアルドは口元だけで軽く笑ってみせた
気付いている
『初めッ!!!!!!!!!!!』
司会の言葉で互いが
動かない、試合は始まったというのにその状態で静止している
だがグスタフだけは静止しているが静止なんてしていなかった
彼はバニアルドにバレない様に何かをしていた
ルルカ『おう』
グスタフ『おう』