訂正
ミストは静かに火山の国本陣を歩いていた。
大概の戦争では、おおよその決着がついたと思われたとき、互いの大将が話し合いの席を設けるのが、この大陸のルールだった。
「ごきげんよう。ロット丞相」
「策士ミストか」
ミストはにっこりと微笑むが、すぐに凍てつくような表情になった。
「お聞きしたいことがあります。まずはウンディーネ姫の安否について」
「姫君のことは心配いらない。城で厳重に保護されてる筈だ。」
その言葉に一先ず安堵したのか、ミストは緊張の糸を緩めた。
「では、次にこの手紙のことについて、あぁ、破れているのはお気になさらず」
「…その手紙がどうかしたのか?」
「問題は内容ですよ。我が国を盗賊扱いとは、いったいどういった了見で?」
「了見も何も、君達があれを盗んだのではないのか?」
ガン―――!!
ロットの目の前の机には棒―槍が突き刺さっていた。
「だ、か、ら、私が聞いているのは、どのような考えを巡らせて、そのようなふざけた解答に至ったのか、ということを聞いているのですよ。」
槍を突き刺したのはミスト、無表情な彼女の瞳は怒りで睨み付けるだけで人を殺せてしまうのではなかろうか。
ミストの背後に控えていた水の国兵士たちは、恐怖で数名昏倒してしまいそうだった。
「し、城の中で緑色の髪の毛を発見した。」
「緑?…ふざけないでください。緑ならば草原の国ではありませんか」
「我々も最初はそう思った!」
「では、何故?」
「草原の国のフキノトウ宰相に言われた…これは大海の国が我らに仕掛けた罠なのではないか、と」
ミストは構えていた槍を下ろす。
「大海の国は我々が戦っている隙に、火山の国と草原の国、どちらも手に入れようとしているのではないか、そういわれた、我が国の親衛隊長にもな」
真っ直ぐミストを見据えるロット。ミストはその目を横に反らした。
思慮深く、間を置く。
「違うのか!?」
ロットの問い掛けに、ミストは大きな溜息を漏らした。
「なるほど…そういうことか…草原の国、いや、この場合その宰相か。考えたものですね」
少し思案したあと、すぐに背後に控えていた兵士たちに指示を出す。
「分かったからには、王子を連れ戻さなくては、このままでは罪無き命が失われるばかり、三班から五班でオンディーヌ王子を捜しなさい。三班は大海の国、四班はこの周辺、五班は火山の国へ行くのです。王子を見つけても、無理矢理止めてはなりませんよ。見つけたら、速やかに私に報告してください。」
「はい!!」
大海の国の兵士たちはすぐにその場を離れ、ミストの指示通りの行動を起こす。
戸惑うのは火山の国だ。
「待て、いったいどういうことだ?」
「ロット丞相。賢明なあなたであるのなら、気付いてほしかったのですが、そんなことを言う時間はありませんので、端的に申し上げます。我々は躍らされていたのですよ。草原の国によって」
「…!」
「おかしいとは思わなかったのですか?先日、平和協定を結んだ国が、喧嘩を売るマネをするなどと」
「だから、我らと草原の国を仲たがいさせようと」
「なるほど」
ロットの言葉をミストはぴしゃりと遮った。
「では、お聞きしましょう。あなたの話しの通りであるならば、私たちは草原の国にも喧嘩を売ったことになりますね。でしたら、何故、草原の国は私たちに報復をしてこないのでしょうか?気性の激しいあの国ならば、あなた方よりも先に大海の国に攻め入ってくると、私は思いますがね。」
『犯人確保に我々草原の国も全力で助力致しましょう。』
先日のローレルの言葉が脳裏に過ぎった。
ロットは頭を抱えた。いったいどれが真実で、どれが虚言なのか、分からなくなってしまった。
「…手紙に書かれていなかったのですが、盗品はいったい何なのですか?」
「橙の羽だ…」
ミストの問いにロットは短く答えた。
ふと、何か、ひっかかる。
何かがおかしい。
彼は考えを巡らせた。
先日の草原の国の会談のことを再び思い起こそうとした。
―何故あの男は、フキノトウ宰相は、盗品が橙の羽だと知っていたんだ…?
盗品の話しなど、していないはずなのに、知っていたのは、盗んだのは、草原の国だから…?
急に黙りこんでしまったロットのことを、ミストはいぶかしげに見つめた。
「ところで、ウンディーネ姫とジルベル王の縁談を纏めた、そちらの親衛隊長はどちらに?彼とも話しがしたいのですが」
「え、そういえば…姿が見えませんね…」
ロットは辺りを見回したが、見つからない。手近にいた兵士に捜すよう指示をだそうとした。
「おい、すぐに―――…?」
ロットは不思議に思った。
親衛隊長の名前を、顔を思い出すことが出来なかった。
確かに、居たはずなのに、ずっと一緒に居たはずなのに…どこから?
―まさか!?
「すぐに火山の国へ戻るぞ!」
突然のことに、ミストも驚いた。
「いったい突然どうしたというのですか?」
「嫌な予感とは…このことか…ジルベル…」
出陣の前に彼の言った言葉に悔やむ。
「ジルベルが、ウンディーネ姫が危ないかもしれん!」




