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準備

ロットは怒りに満ちていた。

それもそのはずだ。同盟を結び、共存していこうと思っていた国から裏切りを受けたのだから

自国へと戻ってきた彼はすぐに王の待つ執務室へ足を進めた。


「失礼する!」


ロットは勢いよく戸を開けた。そこにいたのは国王ジルベルと文武に優れた親衛隊長サランだった。


「どうしたんだ…ロット?お前らしくないぞ、少し落ち着いたらどうだ。」


「そうですよ、ロット様。いったいどうしたのか、なるべく分かりやすく、手短に、簡潔に述べてください。」


二人の言葉にロットは大きく深呼吸し、息を整えた後、言い放った。


「橙の羽を盗んだのは、大海の国かもしれん」


一番驚いたのはジルベルだった。

そして、サランはジルベルの代わりのように妙に納得した面持ちで言った。


「なるほど…確かに、言われてみれば、大海の国かもしれませんね。刺客が自らの身元が分かるような物を残すのは、妙な話しです。それならば、他国―大海の国が草原の国に罪をなすりつけるため、緑毛を残したと考えてみると、納得できます。」



サランの言葉にロットが頷く。

それに―。と、サランは付け足した。


「火山の国と草原の国が戦った後、大海の国が全てを掌握しようとしているという考えは、変な話ではないでしょう」


「…だが、腑に落ちないこともある」


今まで黙っていたジルベルが声を漏らした。


「ウンディーネ姫のこと…ですね?」


「あぁ、いくらなんでも、火山の国と草原の国が目的ならば一歩間違えれば…ばれてしまえば、その火の粉は自国に飛ぶことになるんだぞ?何故、娘を敵国に送り込んできたんだ?」


ジルベルの疑問に口を開いたのはサランだった。


「絶対にばれないという自信があったのか、あるいは、彼女の命は大海の国にとって、それほど重要ではないのか…。」


「…!」


「どちらにしろ、ウンディーネ姫への監視の目を強めることに致しましょう…。」


サランはそういってこの場を去った。




対する大海の国イリゲート王は、玉座の間で怒りにふるえていた。

手には一枚の手紙、火山の国からのようだ。


「全く謂われないことですね。お父様。」


彼の右側から手紙を覗きこんでいた第一王子オンディーヌは穏やかにそういった。


「あ、いけない。ここにいるときは、国王って呼ぶようにってミストに言われてたんだった。」


いたずらっ子のように微笑む。その笑顔はより一層ウンディーネを思わせた。

オンディーヌはウンディーネとよく似ている。

二人もそれを意識してか、髪の長さも揃えていた。

同じ服を着ていれば、見分けることは指南の技だろう。


「そこに書かれていることは、僕らには全然覚えのないことだけどさ。はやく何とかしないと、ウンディーネの命、危ないんじゃないかな?」


ウンディーネとよく似た、いや全く同じ顔でオンディーヌはイリゲート王に問い掛けた。

イリゲート王にはそれが、ウンディーネが言っているように思えた。

ウンディーネが自分に必死に助けを求めているように思えた。


「すぐに火山の国を迎え撃つ準備を行え、いくら私がエストレザーの人間でも、人質をとられ、盗みの罪を着させられたとなっては…黙っておれぬ。オンディーヌよ」


「分かってるよ。お父様、僕に任せてよ」


オンディーヌは腰に携えていた剣を抜き、イリゲート王がつかんでいた手紙を一刀両断した。


「奴らはきっと、知らないんだね。優しい人間ほど、怒らせてはいけないってことにさ」


髪の色よりも青く透き通った瞳を光らせて言った。




火山の国は騒然としていた。

戦が始まろうとしていたのだ。

城内はいつにもまして騒がしい。

そんな中、一人静かに佇む男がいた。

漆黒の鎧に身を包んだ、ジルベルだった。


「ジルベル。」


やってきたのは彼の友、ロット。

彼は幼い頃からジルベルと共に武術と戦術を叩き込まれていた。

丞相とはいえ、ロットの実力はなかなかのものであった。


「ロット、俺は何だか嫌な予感がするんだ。」


「なんだよ。弱音を吐くなんて、お前らしくないな。」


ロットは笑って肩を竦める。


「悪いが、俺はここに残らせて貰う…ここが気がかりだ…。」


「…わかった。橙の羽の一件は俺が片づけておくよ…」


そういってほほ笑むロットにジルベルもつられて力なく微笑んだ。




草原の国の城内を慌ただしく駆けるものが一人。

すれ違う使用人たちは、みな一礼する。

彼女の名はサイプレス。草原の国の第一王子専属メイドに選ばれたものである。


「王子!大変です!戦争ですよ!火山の国と大海の国が!!」


扉を開けると同時に部屋の中で優雅に紅茶を飲んでいた主に向かって叫んだ。

怒るでもなく、のんびりとサイプレスを見ると、はっとした顔をする。


「なんだって!?どうしよう…ねぇ、サイプレス。ローレルは何かいってたかい?」


第一王子スリジエの問い掛けにサイプレスは素直に答えた。


「ローレル王子は放っておけ、我々に害はないはずだって!言ってましたよ」


「そうか…ローレルがそういうのなら、大丈夫だよね…あーびっくりした」


サイプレスは不思議に思った。

メイドという肩書きはただの飾りだった。彼女の本当の役職は暗殺部隊。

彼女の真の仕事はスリジエ王子の護衛だった。


―不思議だな。なぜローレル王子はこんな人を守れとおっしゃったのかしら

 任務だから、仕方ないけれど、こんなタイプの人間は一生守りたくないわ。


「ねぇ、サイプレス。」


「なんでしょうか?王子?」


「お茶が切れたから、新しいものを淹れてきて。それと、美味しいお菓子も食べたいな。」


「はい、王子。では、すぐにご用意いたします!」


愛らしいエプロンドレスをひるがえして言った。






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