緑色の濡れ衣
―草原の国―
フキノトウの部屋。
部屋の周囲は人払いさせた。
部屋の中にいるのは、フキノトウともう一人、王子ローレルだ。
フキノトウに手渡された箱の中に眠るものから目が離せなかった。
「これが、伝説の鳥の羽…これで父上の病を治すことができるのだな。」
恍惚と喜びに満ちた表情をしたローレル。大切な父の病を自分がなおすことができる。自分がこの国を救うことができるのだ。
「王子、まだでございます。羽はあくまでも、橙の鳥を誘い出す、いわば餌、焦ってはなりません。」
二人の中の緊張感と優越感を壊すかのように、勢いよく戸があく。
息絶え絶えに入ってきた一人の兵士をフキノトウは睨みつけた。
「ここは人払いしていたはずだが…なんのようだ?」
「もうしわけございません…王子…宰相…緊急事態でしたもので…。」
ローレルは怒りの表情を浮かべ、横に携えていた剣をとろうとする。
フキノトウは手をのばし、それを制した。
「構わない…要件をはやく言え。」
「そ、それが…火山の国のロット・フェルゼン丞相が、謁見したいと…。」
ローレルとフキノトウは顔を合わせる。
フキノトウはそっと微笑み、ローレルに一礼した。
ローレルはその様子を見てうなずくと、悪びれる様子もなく、優雅に足を進めた。
ロットは不機嫌だった。
腕をくみ、目は血走って、これ以上ないほど怒っていた。
その様子を察してか、彼の連れてきた近衛兵は彼と距離をとろうとする。
「お待たせしました。ロット殿。」
不機嫌なロットとは対照的に、機嫌よく、ローレルはフキノトウとあらわれた。
「さて、この度はいったいどのようなご用件でしょうか?」
ロットと向かい側の椅子に座り、友好的な笑みを見せるローレル。
笑顔を絶やさず、表情からは思考を読み取ることはできない。
「実は先日、我が火山の国の城に盗賊があらわれました。」
ロットの言葉に、草原の国側の近衛兵たちは驚きの声を漏らす。
火山の国が混乱しているとはいえ、一国の城。
強固な警備を掻い潜った賊とはいったい…。
「なんですって!?それで、盗賊は捕まったんですか?」
ローレルも驚いたが、その大袈裟な態度にロットは怪訝な表情を見せた。
「いえ…お恥ずかしい話、盗賊があらわれたと分かったのは、事が全て終わってから、でしてね。」
「そうなのですか…犯人確保に、我々草原の国も全力で助力致しましょう。」
「…ローレル王子…実をいうと我々、いえ、俺は、犯人は草原の国の者ではないかと思っています。」
一気に場のムード、草原の国側のムードは殺意に変わる。
我々を疑っているのかと、兵士がざわつく。
「…証拠は?」
ロットはニヤリと微笑み、懐から小箱を取り出し、中を開けた。
そこにあったのは、一本の緑色の髪の毛。
「緑色は草原の国特有の色…聞けば、あなたのお父上…フェーユ13世は原因不明の病に倒れたと…伝説の鳥には不思議な力が宿っているという…あなたは、その力を使い、お父上の病を治そうとしているのではないのか!?」
ロットの荒々しい口調にローレルはびくついた。
ロットの言っていることが全て、ローレルのなさんとしていることと合致している。
言い逃れはできない。
「くくく…」
すると、自分の後ろから笑い声が聞こえた。
笑い声の正体はフキノトウだった。
「証拠は何かと思えば、そんな髪の毛一本ですか。ロット丞相、やれやれ、それだけで我が草原の国を侮辱するとは、許せませんね。」
ひとしきり笑ったあと、呼吸を整えるとフキノトウはロットを見つめ続ける。
「良いですか?たかがそんな髪の毛一本、いくらでも偽装することは可能でしょう?あなたは、草原の国に敵意のある者がわざと、その緑毛を置いた。という可能性は考えなかったのですか?それに、火山の国や、大海の国…その他の国にだって、ごく一部ですが、緑毛の者はいるでしょう?ねぇ、あなたや、あなたの敬愛する国王が赤色ではないように。」
ロットは言葉を失った。
言い返そうにも、言葉が続かない。
フキノトウの言ったことは確かに、あっている。
ありえる話なのだ。
「で、では…いったい誰が…?」
「…何をおっしゃいますか。考えられる国はたった一つしか残っていませんよ。この大陸の誇る三大国の一つ、そして盗まれた、橙の羽の元の持ち主」
ゆっくり、ゆっくりとまるで呪文をいうように己の考えを話すフキノトウに部屋にいた者の視線が集まる。
「…!?では…大海の国が犯人だとあなたは言うのか?」
ロットは騙された悔しさで机を殴り付けた。
そして、直ぐさま兵士たちに指示を出した。
「すぐに国へ戻り、大海の国を調べあげろ」
「はっ!!」
火山の国の者が去った謁見の間。
王子と宰相はニヤリと笑った。
「フキノトウ、お前は嘘が得意なんだな。」
「御褒めに預かりまして、光栄に存じます。」
「さて、これからどうする?」
「伝説の鳥があらわれるのをのんびりと待ちましょう。火山の国と大海の国が互いに謂われない戦をする姿を見ながら」
フキノトウの言葉に、ローレルは静かに微笑んだ。




