草原の歪み
場所はいったんかわる。
火山の国、大海の国に次ぐ、もう一つの大国。草原の国。
国の大部分が草原であることから、草原の国という名がついた。フェーユ家が統べる王国である。
国王が病になってからというもの、この国は荒んでしまった。
もともとは緑あふれ、花々が咲き誇る、豊かな大地であったのにも関わらず、今は見るかげもなかった。
格式高い国の誇る城も、どこか寂しげで暗い。
しかし、第二王子であるローレルの足取りは軽かった。
自分に恭しく礼する使用人たちを後目に、ある部屋の戸を勢いよく開けた。
「フキノトウ!伝説の鳥の羽が見つかったというのは本当か?」
ローレルが入ったのは、宰相フキノトウの部屋であった。
まだ若く、青臭さの残るローレルとは対照的にフキノトウは宰相らしい風格漂う男だ。
彼の独特な雰囲気は目を奪われる所がある。
そんなフキノトウはローレルにそっと礼をした。
「形式的な挨拶はいい…それで、羽は…。」
「そんなにあせらないでください…正確には伝説の羽自体ではなく、その手掛かりを見つけたのですが…。」
あせるローレルを落ち着かせるためか、簡単に作られた応接コーナーへの着席をすすめる。
一瞬迷ったローレルだったが、逸る気持ちを抑え、素直に座る。
テーブルの上のアロマキャンドルの匂いがきつい気がして、顔を少し歪めた。
ローレルが着席したのを確認すると、ゆっくりとフキノトウは語った。
「…古くから、伝説の鳥は同族の匂いがする場へあらわれるといいます。」
部屋中に山積みになった本の中から一冊の本を探し出し、めくるフキノトウ。
「同族の匂い…?」
「はい。同族達が死んだ場所。同族達が過ごした場所。そして、同族達が託したものから香る匂い。」
「もしかして…はるか昔、三大国が伝説の鳥から授かったという三つの秘宝か…?」
フキノトウは本のページを一枚ずつゆっくりとめくり、目的のページをローレルへみせる。
「我らが草原の国の『橙の心臓』、火山の国の『橙の瞳』…そして、大海の国の『橙の翼』…それらに惹かれるように橙の鳥は現れます。…王子、草原の国の『橙の心臓』はどこに…?」
「わからない…『橙の心臓』は草原の国の国王が代々継承されるものだ…王位継承権は兄上にある。だから、私は知らされていない…」
自分の言葉に、頭を強く打たれるような感触を覚えた。
分かってはいることだが、自分ではなくネジが抜けた兄が王位を継ぐことが悔しく情けなかった。
「そうでしたか…火山の国の『橙の瞳』も手に入れるのは難しいでしょう…あの国はつい先日まで内乱の起こっていた国。秘宝の行方を探るのはなかなか骨がいるかと…。狙うべきは…大海の国の『橙の翼』…」
ローレルは呼吸を整えると覚悟をしたようにフキノトウを見つめた。
「フキノトウ…『橙の翼』を手に入れろ…どんな手を使っても構わない…はやくしないと…父上が…。」
フキノトウは丁寧に礼をし、部屋をあとにした。
静かに微笑み、自分の上司のための策を巡らせた。
一人になった部屋で、ローレルは考える。
もしかして、自分のしていることは間違っているのではないか…私利私欲のために他国のものを盗むなど、父が知ったら悲しむのではないか…。
ゆっくりと深呼吸をする。
ふわりと香るアロマキャンドルに心が落ち着く。
間違ってなどいない。
「私には、第二王子として、この国を守る使命がある…。」
彼の歪みはここから始まったのかもしれない。




