「問題です。」
「多少の脱線はありましたが、おおむね予定通り。いえ、予言通りですね」
ジルベルの背後である男が呟く。
ジルベルは不審に思い、振り返ったが、そこにいたのは古くから良く知っている男だったので、安堵の溜息を漏らした。
「なんだ。お前だったのか…脅かすな」
「申し訳ありません、王。…ところで、これはいったいどういう状況なのですか?何故ウンディーネ姫が二人も」
その質問にジルベルは困り果てた様子で答える。
「…一方は弟君のオンディーヌ王子だ。俺の命を狙いに来たらしい」
「そうでしたか。それは恐ろしい…」
苦笑し、戦闘を繰り広げている二人を見つめた。
「予定通りとは、何のことだ?」
「ふふ…言葉の通り、作戦通りという意味ですよ、王。ですが、予定外な存在が一人現れているようでしたので、私自ら、乱れた道をもとに戻すことに致します。」
「それは…どういう…?」
「国王、ここで一つ問題です。…私は誰でしょう?」
国王ジルベルは言葉が出なかった。
今まで知りあいだと思っていた男は、自分の全く知らない男だったのだから。
「お前は…誰だ?」
バンッ!!
国王の謁見室の戸が勢いよく開けられた。
息絶え絶えにやってきたのは知将二人、ロットとミストだ。
ミストはこの場の現状を把握すると、溜息をつく。
「捜しましたよ、王子。それに姫も、ご無事で何より」
「あれ?ミスト?」
ウンディーネと闘っていて、全く周りを気にしていなかったオンディーヌははじめて手を止めた。
「ジルベル、すぐにその男から離れるんだ」
ロットはジルベルの隣にいた男を指差す。
「お前は、誰だ?」
先程ジルベルの投げかけた問いをロットは反芻して問い掛けた。
男の口角は上がり、月のようになる。
「…ふふ、そうですか。術が解けましたか。まぁ、良いでしょう。何故なら羽はこちら側にある。」
「こちら側…?草原の国のことですか…?」
槍を向けて問うのはミスト。
「そう思うのでしたら、そう思えば良いでしょう。私たちは何も困りませんしね。」
「ほう、“私たち”ということは、あなたには仲間がいるのですね。」
一瞬顔を歪める。
些細なことでも敵に素性を知らされたことが悔しくてたまらなかった。
「…大海の国の策士殿は、誘導することがお得意なのですね。…それでは、もう一度名乗らせて頂きます。我が一族の高貴な名を良くお聞きください。…私はサラン、術師サランです。」
内緒ですよ。
そう言わんばかりに人差し指を唇にあて、サランはすっとどこかへ消えていった。
残された面々が辺りを見渡すが、もうサランの気配すら感じられない。
知将二人は悔し気に唇を噛むと、すぐに自らの主の安否を確認するために駆け寄る。
「無事か?ジルベル、それに姫も。」
「俺は大丈夫だ、だが…。」
ジルベルとロットの視線に気づいたのか、ウンディーネは元気よく答える。
「ご心配には及びません。こいつの相手なんて、いつものことです。」
こいつ呼ばわりされたオンディーヌは少々びくついていた。
「ロット殿、あのサランという男を野放しにしてはいけません。羽も取り返さなくては…。」
「あぁ、俺もそう思う…何とかしなくては。」
「それに、我らが大海の国を苔にしたことを後悔させねばなりませんね。王子、姫、首謀者は草原の国にいると思われます。私はすぐに出撃の準備を致します。」
ミストは素早く状況を主二人に伝える。
「待て、ミスト殿。」
すぐさま自分の軍に戻ろうとしたミストをロットは止めた。
「確かに、先ほどのあやつの言い方からして、敵は少なくて二人…多く見積もったら、草原の国中が敵になってるかもしれない。それにこちらには負傷者も多い。俺たちに分が悪い…。」
バサッ
窓の外にいた、数羽の鳩が飛び去った。
鳩の代わりに舞い降りたのは一匹のオウムだ。
「なんでこんなところに…オウムが…。」
一同不思議に思ったが、ミストは一度溜息をつくと、オウムに近づく。
オウムも人に慣れているのか、怯えることなく自らミストに近づいた。
このオウムは誰かに飼われているのだろうか、銀の足輪がついている。そこには何やら紙が結ばれていた。
ミストは丁寧にその紙を外すと広げる。
「ふっ…そうか…あの方が…。」
オウムを腕にのせ、振り返る。
「ロット殿、可能性が見えてきました。」
「いったいそのオウムは…?」
「ただの古い友人の使いですよ。」




