#37 【無敵の盾/Aegis】 ●琥珀
「なにって、感謝しろよ? テメーのしてェ事を、大々的に手伝ってやるって言ってンだからなァ」
Rはひときわ冷めた眼差しを琥珀に向けた。
「迷惑を掛けてェンだよな、テメーは? どういう経緯があってテメーと鴉身の親子関係が拗れてるのか、俺にゃア正直どーでもいー。だがな、そのヤケッパチな態度で他人様に迷惑を掛けンじゃねえよ。マホロバに男女の別なく入れたっつーことは、もう18超えてンだろ? はぁ~あ、なっさけねーよなー。こんなコッ恥ずかしい事件起こして、惨めったらしく親呼び出されるなんザよォー」
「Rーーーーーーッ!!!!!」
両手を放した途端、憤死しそうな勢いで殴り掛かってきたが、【廟】のおかげでノーダメージだ。
ちっ……。相変わらず、憎らしいほどのタイミングだぜ。
カウンター狙いの握り拳を緩めたRは、ロシナンテに軽く頭を下げた。向こうも気付いたらしく、会釈に応じる。
「オマケのRーッ! お前を狙う奴は山ほど出てくるぞーっ!」
再びガラを押さえるや、琥珀は喚き散らした。
「いやっ、お前だけじゃないぃ! お前の守りたいものを狙う奴だって次々出てくるぞッ、強ければ強いほどなあ! 一度に何人も狙われたら、果たしてお前はどうするかなッ!? フハハハハハハハーッ!!」
発狂したかのように嘲る琥珀に対し、Rは周囲の面々を見渡した。
「助けてもらうに決まってンだろ」
「ハッ……?」
「一人で出来ることにゃ限界があるぜ。だから、助けてもらう」
「ははっ? はははははっ……!」
腹の皮が捩れたかのごとく、琥珀は大口を開けて笑った。
「む、無敵のRさんともあろうお方が、助けを求める? はははっ、恥ずかしいねぇ……。無双もできない貧弱さは、やっぱりコッペパンマスターか……」
「助けを求めず死なせる方が、余程恥ずかしいぜ」
Rは挑発をピシャリと撥ね付けた。
「もちろん、寄り掛かるって意味じゃねえぞ? 持ちつ持たれつだ。助けを乞われたら救助に向かう。これで何も問題はねえな」
Rは琥珀の腕を掴むと、人垣の奥へと連れて行った。自然に道が開いていった先には、ガッチリとした体躯の大鴉がいる。連絡を受けて、すぐさま【開始】したのだろう。
鴉身は、Rを認めるや、前方に体を深く折り曲げて最敬礼を示した。
「大変済まなかった、R」
「いいのか? アンタにゃ釈迦に説法だと思うが、こいつの処分で後々面倒臭ェことになるぞ?」
「ああ、大丈夫だ。――ありがとう、R」
鴉身は再びゆっくりと頭を下げたのち、琥珀を預かった。
「この度は、私の息子が大変な不始末をしでかしました。全て、私の不徳の致す所です。皆様、誠に申し訳ございませんでした」
「ぐっ……! と、父さん、やめろ……!」
鴉身は、有無を言わせず琥珀の頭を押さえ、自分と一緒に頭を下げさせた。その後、衆人監視の下、真ん中まで歩いたのちに180度反転し、もう一度同様のことをする。
「来い」
周囲からの【精神感応】で全ての事情を把握したのだろう。琥珀の首根っこを捕まえた鴉身は、人型になった水脈の前まで連れて行くと、そこでは自分と共に土下座をさせた。
「水脈・シエーナさん。馬鹿息子がまたもや卑劣な行為に及びました。謝っても決して許される行いではございませんが、それでも謝罪をさせて下さい。二度とマホロバには来させません。厳しく躾け直します。だから、どうか……。どうか、命だけは……!」
水脈は腕組みをして、叩頭する両人をじっと見下ろしていた。
先ほども、「必ず殺せ」と告げたスライムである。二度も命を脅かされた被害者が、憎い加害者を誅するのは極めてマホロバの理に適ったものだが。
「分かりました」
水脈は冷静に告げた。
「鴉身さんの誠意と、そして、私がまだ生きているという事実に免じて、ソレの命を助けます」
「ありがとう……。本当に、本当にありがとうございます、水脈・シエーナさん……」
鴉身は、地面に頭を擦り付けるかのように再び土下座をした。
「――父さん」
琥珀は不貞腐れた様子で立ち上がった。親の心子知らずにも程があるが、反省の思いなど微塵も無いらしい。
「どうせ、帰ったら当たり散らすんだろ……? 僕が迷惑だったもんな、散々怒鳴って……」
「瑪瑙」
鴉身の重低音の声に、琥珀はビクッと全身を震わせる。
「【終了】しろ。終わりだ」
「な、何を言って……」
「終わりなんだよ」
琥珀は忌々しそうに見下ろしたが、鴉身は意に介した風もなく受け止めた。しばらく気張っていた琥珀だったが、根負けしたかのように頭を振ると、さも、「自分の方が折れてやった」かのような態度で【終了】する。
――これで、見納めだな。
Rはそっと首の後ろを撫でた。
「皆様。この度の御無礼、慚愧に堪えません。重ね重ね、申し訳ございませんでした」
鴉身は再び土下座をすると、ゆっくりと上体を起こし、正座の姿勢のままで【終了】していった。
無辜の市民に刃を向けた狂者である。始末したところで誰も文句など言うまい。むしろ、粛清した方が後腐れは無いだろう。
だが、己の子供だからというだけで、Rに助命を乞うた。年も立場もかなぐり捨て、一人の親として頭を下げた。
――あのクズ野郎は、俺だ。
Rは奥歯を噛み締めた。
イキがって、暴れて……、なんでも出来ると万能感に浸っていた頃の……、親父やお袋に散々頭を下げさせた、サイバーギャングの俺の姿だ……!
拳に力がこもる。
ガキは嫌いだ……、大っ嫌いだ。あぁ、くそっ!
過去の自分をまざまざと見せつけられてるようで、虫酸が走るんだよ……!
「Rきゅん、やっぱり成長したんだね」
傷を全快にしてもらったランペルが、仁愛に満ちた顔で歩いてきた。堂々たる足取りには大人の面影を見るが、完全に近寄る頃には、こまっしゃくれた笑みに変わっている。
「にゅふふっ。更生したのは、先生達の指導が良かったからかな?」
「――だな」
穏やかに返されるとは思わなかったのか、ランペルはつぶらな瞳をパチパチと瞬かせた。ぴょんと【跳躍】し、Rの両肩へと器用に跨がる。
「先生達の言う事を、お弟子さんが素直に聞いたのも良かったよね」
ランペルはRの銀髪をよしよしと撫でつつ、念話を飛ばしてきた。
(あの子ぐらいに荒れてたよね。コソ泥Rきゅんって)
(ああ、そうだな)
ヒーラーをやる親父がダサく見えて、あれよりも自分の方が上手くやれると、慢心していたRはホザき倒した。親父に叱られたが、自分の方がよっぽど助けられるのに、絶対救いまくってやれるのにと、苛立ちは募る一方だった。
11の時、初めてマホロバのフルダイブを行った。敵と交戦したさいはガチガチに震えたが、相手はてんで弱く、己の強さを過信した。MP版が出て即死魔法が駆逐されていたのも幸いしたのだろう、Rは一匹狼を気取りつつ、独自のコンボ開発へとのめり込んでいった。DRLコンボもその一環で誕生したものである。
小悪党をセコセコ倒して悦に浸ってはいたが、どんどん心は荒んでいった。「初心者を鍛える」という名目で、素人連中をイビり出したのもこの頃である。駄賃としてアイテムをかっぱぎ、良い事をした気になって自惚れてはいたが、反面、初心などすっかり忘れ去っていた。
そんな折、〈猿人〉の葦原英と出会った。苦もなく捻られて、ヤケになって襲おうとするが、返り討ちに遭って華々しく散りたいというのを見透かされると、途端に気持ちが萎えた。
年齢のおかげで仮処分という扱いに収められたRは、ショコラを紹介されて無理矢理組まされた。イモ臭いヤンキー女というのが第一感だったが、実際は、情に脆くてすぐ絆される、ウェットでホットな姐御だった。仕事の当初は散々足を引っ張ってしまい、「オマケのR」という不名誉な渾名を賜ったが、甘んじて受け止めることにした。新しい愛称で必ず払拭してやるという意気込みは、今も変わっていない。
紆余曲折の末、ショコラがOK社に就職し、今度は「歩く18禁」ことランペルと組んだ。葦原の甥っ子という触れ込みで、実際呆れるほどに強かった。Rが「無知デッキ」や「LoVE百花デッキ」などと対戦したとき、あわや完封されそうになる寸前を救われるなど、ランペルによって死を撥ね返した回数は片手ではきかない。また、接近戦の肩代わりや死角からの防御など、細かな救助に至っては枚挙に遑がないほどだ。
(ねえ、R。ボクを助けたのって、負い目から?)
(バカヤロウ。両方死ぬぐらいなら1人の方がマシ。そう思っただけだ)
Rは、死ぬ間際の記憶を取り戻していた。「見えざる手」として仕事をこなしていく中で、心の傷は癒えていったが、依然、ランペルという存在には助けられてばかりだった。――いや、それだけではない。蔑んでいたハズの大人達は、誰しも皆、誇らしくて立派だったのだ。
それぞれに光彩を放つ彼らのように、自分も過去の負債を返済して、真の意味で活躍したい。気が逸りつつも、鋭意依頼をこなしていった。
そんな中訪れた、吸血鬼としての最後の仕事。依頼内容には微かな違和感を覚えたが、Rはこれも経験だと引き受けた。地下の奥底で【速射】を見つけて届けるという、簡単なハズの任務。提供された詳細な地図のおかげですぐにブツを発見したまでは良かったが、タイミング良く出現した敵に部屋へと閉じ込められてしまう。
【大海嘯】を連発されて視界が青く染まった時、Rは覚悟を決めた。
(あの時点なら、ランペルの方が生き残れる確率が高かった。――合ってただろ?)
(R……)
敵の大呪文を食らう寸前、普通なら自分に撃つ【無敵の盾】を、Rはランペルに放った。その後も、己の身を挺してランペルの姿を遮蔽したのち、散々引っ掻き回した挙げ句に投降した。鴉身の指揮だからほとんど効果はなかったものの、ランペルが辛くも脱出できた程度には役に立てたらしい。
Rは、肩車状態だったランペルの両脇を持ち上げて、前方へと投げた。ランペルは華麗な捻りをくわえてRと相対する。
(幸運にも、俺までマホロバに戻ってこれた。ご覧の通り、見てくれは変わっちまったが、これからも宜しく頼むぜ)
(うぇ~? オバケ怖~い)
(このガキャ)
(にひひっ、ウソウソ。――こちらこそ宜しくネ、相棒)
ランペルはRと握手を交わした。
※ ※ ※
【無敵の盾/Aegis】
銀/レベル2/ロークラス
分類:防御
効果:【無敵の盾】が付与されたキャラクターへのダメージか魔法を防ぐ。その後、【無敵の盾】は消滅する。
「すぐ消えちまうのに、無敵とはおこがましいな」
「いや、そうでもないさ。――守ろうとする意志は砕けない」
――ジャスティア城下、治療士と憂国の士の会話(改訂版)
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収録版:MP、改訂版
※ ※ ※
チームJの面々は、【衛星球】の撮影データを詳細に確認していた。数人が慌ただしく「門」へと飛び、撮影者の猿鹿カップルが両手で大きく「○」のサインを見せる。
「琥珀たんは追放だね」
「ああ」
目撃者が多数いるオープンスペースで、殺意を持って一般人を亡き者にしようとした事件。その一部始終を、バッチリ押さえてくれたらしい。
「ランペル。そっち陣営も、随分念話が多かったみたいだな」
「うん、ベストな作戦を練ってたの。瞬間魔法を飛ばしまくる案も出たけど、お互いの呪文干渉が怖いじゃない? それで、誰を主体にするかって色々と案が出てさ。そしたらQさんが一言、『Rに任せなさい』って」
RがQに目をやると、チャーミングに笑って指をひらめかせた。
「花を持たせてくれたのか」
そのおかげで、味方の瞬間魔法を気にする事なく動くことが出来た。もちろん、水脈を助ける際に最良と踏んだからこその提言だろうが、それをQが切り出してくれた事が嬉しかった。
「でもサァ、これってそもそも、Rきゅんの引き受けた仕事だもんネ」
ランペルは、憎体な面構えで見上げてきた。
「迷惑かけて好き勝手にハシャげるのは、お子チャマの特権かな?」
「この野郎」
Rは小突こうとしたが、ネズ耳を押さえて怖がる演技のランペルを目にして、優しい表情で手を開く。
「今日は無しだ。――こどもの日だもんな」
「ん。5月5日のね」
Rとランペルは、小気味よいファイブタッチをしたのち、皆の待つ方へと戻っていった。
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次回が1章の最終話です。
オマケで、名も残さなければ皮も留めない未熟者を載せておきます。
#エネミーデータ09:琥珀
名前/Name:琥珀・ロースル
種族/Race:〈虎牙/Tigerfang〉
形態/Form:部分型/Partialtype
筋力/Strength:3
機敏/Dexterity:5
容貌/Looks:気高い/Noble
年齢/Age:18
身長/Height(cm):170
体重/Weight(kg):60
領土/Domain:【百花繚乱/HAND-GREEN】
デッキ名「ダンディ百花 with イリス」
レシピ
才能 2枚
《疾風迅雷/Lightning Speed》
《魔力視覚/Mana Sight》
緑3+2 23枚
【百花繚乱/HAND-GREEN】
【野薔薇/Wildrose】4
【山査子/Hawthorn】4
【薊/Thistle】3
【森の戦術/Sylvan Tactics】4
【木の葉の盾/Leaf Shield】2
【生の躍動/Eros】4
【中和/Neutralize】
茶3+1 16枚
【牡丹一華/Anemone】2
【仙人掌/Cactus】4
【まさかさ/nwoD-edispU】
【砂嵐/Sand Storm】
【永遠の砂/Eternal Sand】2
【瞑想/Meditation】2
【飛行/Flight】
【振り解き/Breakout】2
【頑健/Robustness】
銀1 1枚
【遅発/Delay】
紫1 1枚
【魔力の盾/Mana Shield】
茶緑 5枚
【蒲公英/Dandelion】3
【飴と鞭/Carrot and Stick】2
緑紫 4枚
【月見草/Evening Primrose】4
紫銀 4枚
【花菖蒲/Iris】4
特技 6枚
【呪文の達人:緑/Spellmaster:Green】2
【魔法熟達:緑/Magic Adept:Green】2
【呪文の達人:茶/Spellmaster:Brown】
【高速準備/Quick Draw】(短剣)
特殊 2枚
【開始/Start】
【終了/Quit】
計64枚 (精霊ユニット28枚)




