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●マホロバTS ~岩の美女に転生した男、魔法カードで最強の存在となる~  作者: 葦原エイ(旧・ラボアジA)


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#21 【廟/Shrine】

 激しく泣き腫らした梛だったが、さながら驟雨しゅううのごとし。あっという間に泣き止むと、晴れて・・・満面の笑みとなっていた。

 Rに視線を送ったランペルが、梛を指差してぐるぐる回す。


「んじゃあR、このオニャノコは妹さんなんだね?」

「ああ、だから既に巻き込んでるも同然だ。実力の方も、なんら問題ねえと思ってくれ」

「お、お兄ちゃん……。エヘヘ……」


 頬を掻いてはにかむ梛に、Rは深々と溜息を吐いた。5年ほど前まではずっと後をついてきて、誰憚ることなく「お兄ちゃん大好き」と公言していた梛だったが、すっかりその頃に戻っている。


「それでだな、梛」

「なあに、お兄ちゃん」


 さっきから、妙に「お兄ちゃん」という言葉をくっきりと言う梛。違ったときの落差を考えると騙しているようで辛いが、いちいち訂正するのも時間の無駄なので今は無視する。


「お前は生憎、御園居みぞのいからの招待を受けてないんで入れねえが、先導なら出来る。俺の呪文が稼働次第すぐさま突入したいから、梛が斥候をしてくれ」

「ラジャッ!」


 梛は緑の天然パーマにシュタッと敬礼の手を添えた。二度ほど手首を捻ってからやるあたり、お調子者の地が早くも出ている。

 ――まあ、喧嘩別れでそれっきりよりは、遥かに良かったよな、うん。Rは自身にそう言い聞かせつつも、再度溜息を吐いた。


 ※  ※  ※


【廟/Shrine】

白/レベル6/ハイクラス

分類:ドメイン

準備時間:2秒

射程:20m

効果:【廟】内にいるキャラクターはダメージを与えないし、また、受けない。

効果:アバターに悪影響を及ぼす効果が不発となる。

発動条件:ユニットを使役した状態では【廟】を準備できない。

維持条件:術者が以下の行動をひとつでも取った場合、【廟】は破壊される。

・【廟】を張った場所から10m離れる。

・呪文を準備する。

・ダメージが発生する行動をとる。

「自分のことに情熱を傾けるのも結構ですが、こちらの話にも耳を傾けてくださいね」  ――ジャスティアの導師

283/365

収録版:DS、改訂版


 ※  ※  ※


「ンじゃ、さっきの続きネ」


 ランペルは、コホンと咳払いした。


「クミンっていうのは御園居研究所の所長で、呪文開発に携わっていた主任でもあるんだ。所員を大切にする人らしいんだけど、最近は彼らを遠ざけてたみたい」

「ほお」

「元々は、ボクらの依頼主だった商社・カショーの子会社みたいな扱いでサ。浅からぬ因縁があったの」

「初耳だな」

「ぶっちゃけ、身内のイザコザだからね。データが盗られたことは事実だから、その辺は特に言わなかったんだって。あの後で、みっちり聞いたら教えてくれたの」

「なるほど」


 あの後……すなわち、馬鹿な吸血鬼が灰になった後、つぶさに聞いて回ったのだろう。

 Rはゆっくりと腕を組んだ。


「子会社時代の御園居は、何をやってたんだ?」

「業務自体は同じだよ。マホロバの変則呪文イレギュラー……、当時は違法呪文イリーガルと呼ばれてたっけね、それをバンバン作ってたの」


 当時、大会社が違法呪文イリーガルを作っているのは、いわば公然の秘密だった。無論、悪事を働くためではなく、むしろ、巷に蔓延はびこる致命的な脅威を取り除くための呪文開発だったのだが、正規会社であるOK社が作ってない以上、厳密にはそれもまた違法呪文イリーガルだ。


「あの頃はボクも違法呪文イリーガル退治によく駆り出されててね。いや~、ホント大変だったよ」

「凄ぇな、ランペル。いま何歳だよ」

「えいえんのよんさい!」

「精神年齢は聞いてねえよ」


 Rはバッサリ切り捨てた。

 水脈が手招きしてくる。


「ねえR、なんでOK社は取り締まらなかったの?」

「ああ、本来はそれがスジだったんだろうが、昔はOK社の基盤が弱くてな。悪質な呪文への対策が遅れちまったんだ」

「そーにゃノ」


 ランペルも腕組みして頷いた。


「だから、OK社たんがヘロリンプーだった間は、大会社が率先して環境を整えてたってわけ」

「ま、旨みがあったからだけどな」


 当時のOK社は、単に仮想現実というフィールドを提供するだけの、「仕事をしない審判」と見做されていた。実際は、総動員で事にあたっていたものの、全く足りていなかっただけなのだが、事実は事実だ。

 かくして、マホロバで儲けたいがために治安の改善を目論む大会社チームと、暴れ回ってマホロバをブッ壊したい闇チームとの開発合戦の幕が、切って落とされたのだった。その熾烈な戦いは、朝な夕な、表に裏にと際限なく続き、物騒な呪文が席巻するたびに、「マホロバは終わった」「早くも世紀末」「肩パッドの用意」などと囁かれたものであった。


「んでネ、流石にそれじゃマズいって思ったOK社が、最初のエキスパンションの発売前に、呪文開発の一部を大会社に頼むことにしたわけ」

裏社会アングラに縛りを入れつつ、大会社を体制側に組み込んじまおうっつー、窮余の一策だな」

「せめて一石二鳥って言おうよ、あ~る……」


 OK社は、違法呪文イリーガルを全面規制するという理想を捨て、【強欲の宝石ジュエルオブグリード】の導入という現実策を採った。MP版にこそ明文化されなかったが、どんなにブッ壊れたクソ呪文だろうと、スロットに一枚だけは「認める」という方向に舵を切ったのだ。そのため、当時は裏社会から絶賛され、表社会からは猛バッシングを受けた。社長のカルイザワなど、本気で命を狙われた回数は両手でもきかないだろう。彼は言動については無頓着に受け流しつつ、実行犯は悉く返り討ちにしていった。

 後に、OK社本部から申し訳程度に、「新呪文を開発する際、どうしても既成以外の呪文枠が一枚必要だった」という声明が発表された。おそらく言った会社側ですら信じてないであろうアナウンスは、大勢の人間に様々な憶測を呼び、「不用意に全面規制したら、ルールごと卓袱台返ししようとする輩に耐えられないからだ」だとか、はたまた、「OK社の社員だけが使える裏コードを起動させるための枠だ」などなど、凡百な噂が飛び交ったが、実はアナウンスされた時点で、一撃必殺の魔法は激減していた。

 考えてみれば、それまで無尽蔵に入れていた違法呪文イリーガルを1枚のみに絞ったのだから、減るのは至当といえた。

 反面、違法呪文イリーガルという仕組み自体は、「お墨付きをもらった」扱いとなり、摘発は不可能となった。以来、OK社の正規呪文レギュラーに対し、違法呪文イリーガル改め変則呪文イレギュラーと呼称されるようになったのである。なお、それでも違法と呼ばれる呪文は、【O-Penゼロペン】のようにマホロバ当初から存在が確認されていて、未だに改変と規制を繰り広げているものや、【DD】などのように、悪質すぎて個別に対策を打たれたものに限られている。


「Rだって、規制した方が良かったと思うでしょ?」

「まあ、そりゃあな。OK社の呪文がバカ売れ過ぎて損するとか、笑える事態も拝めたしよ」

「あ~る……、口はわざわいかどだよ?」


 OK社は、【強欲の宝石ジュエルオブグリード】の他にも、全部を一回止められる盾の【無敵の盾イージス】や、一部の呪文に対する許可権限の見直しを組み込んだ【許諾】パーミッションなど、対策に力を入れた合計82枚のカードを採用し、最初の拡張セット「慈悲と祈マーシーアンドプレアー」として発売した。脳死事件の発生から5年後のことである。

 しかしそれは、裁判で「拡張パックを販売したら1パックにつき罰金500円」と決まった中で売り出された、曰く付きのエキスパンションだった。ちなみに、「慈悲と祈マーシーアンドプレアー」の販売価格は1パック8枚入りで5テール。日本円で500円である。そのため、「売れれば売れるほど赤字」というヤケクソのようなキャッチフレーズが公式プロモに赤文字で書かれた。それがまた、嗜虐心を煽り立てたのか、みんな挙って・・・・・・買い漁った・・・・・。なお、実際有用な呪文が多く、7割近くが改訂版に再録されている。

 ランペルが、体格に比して大きな人差し指で、ツンツンとこめかみを突いた。


「ンでね、OK社たんが大会社に委託するってなったとき、違法呪文イリーガルをコッソリ作ってないかっていう調査が入ることになったの。いついつに入るよーって、事前に知らせてね」

「関係を清算させるための猶予ってやつか」

「うん。それで、カショーにも調査が入ったの。そのさい、カショーは違法呪文イリーガルの開発会社を切り離したってわけ」

「御園居からすれば、切り捨てたって話だよな」

「そこは立場によるね。いつまでも無法状態じゃダメってのは、みんな分かってたし」

「割り切れた奴ばかりじゃねえだろ」

「ん……。まあ、それでもね」


 珍しく歯切れの悪くなったランペルは、そっと指を組んだ。


「んで、それから10年経って、もう一度組もうって申し入れたわけ」

「ほとぼりが冷めたから、再び取り込もうとしたって翻訳したぜ」

「あ~る、勘ぐり過ぎ」

「そういうランペルは、性善説すぎる」


 ったく、孟子の信奉者め。Rは顎に手を当てた。

 デカい企業の側にさぞかし都合のいい話だが、寄らば大樹の陰とでも言うべきか、結局は呑むことになるだろう。まあ、彼らがどんな判断を下すかには興味がない。


「問題は、そこで御園居の呪文パクリが発覚したってことだよな」

「そうなの。でも、カショーはなるべく穏便に済まそうって気持ちがあったんだろうね。パクリ呪文を押収しても、制裁を加えるのが目的じゃなくて、どこまでの進捗状況なのかを見たかっただけなんだってサ。カショーの都合で御園居を切り離パージしたのは事実だし、辛い思いをさせたのは分かってたんだろうね」


 折角開発が進んでいるのなら、不問にするからそれごと取り込んでしまおうというハラだ。


「汚いというか、合理的というかだな」

「みんながハッピーになるならイイコトだと思うけどネ」

「パクられたカショーも、切られた御園居も、感情の痼りはあるだろ」

「その辺は、みんな立派な大人だし。相手の立場も分かってる人達だと思うよ」


 タチの悪い会社の中には、下請けを強引にツブしたところもあると聞く。社会的、経済的、あるいは物理的……。それに比べれば、商社カショーは甘っちょろいほどクリーンな対応だ。


「あとネ、クミン所長には、サフランっていう共同開発者がいたんだって」

「……過去形だな?」

「うん。その人も、悪辣な違法呪文イリーガルに対抗してたんだけどね。悪者側が、サフランさんを人質に取って開発を止めるように脅迫したの」

「だが、譲らなかったんだな」

「そうなの。で、違法呪文イリーガルでロストさせられちゃったってわけ」


 軽妙な語り口だが、流石にランペルの表情も険しい。


「MP発売前の話だから、もう10年は前になるかな」

「同志を亡くして、更に思い詰めちまったってトコかねぇ」


 テロには屈しない。人質に取られた時点で、すでに死んだものとして扱う。この判断が、結局は次の犯罪を抑止することに繋がるのだが、被害者と親しい者からしたら思いは複雑だ。


「あの、ひょっとしたら……」

「む?」


 胸の前で手を挙げる水脈に、視線が集まった。


「クミンとサフランっていうのは、恋人だったのかもね。クミンがその『叔父様』なんでしょ?」

「多分な」

「以前バジルから、許嫁の件で聞いたことがあるの。叔父様は昔、愛し合ってた人がいたけど、十年ほど前に亡くなったって。死亡理由までは分からなかったけど」

「ふむ」

「だからクミンは……、サフランを蘇らせるための研究をしてたってことじゃない? その実験が成功して、Rが復活したのよ」

「――なるほど」


 常識が裸足で逃げ出すような話だが、Rがここにいるよりは辻褄が合う論理である。

 Rは険しい顔で腕組みをした。同志であり、また、恋人でもあった二人。一人はこの世を去ったが、それ故にいよいよ頑なとなった想いが10年経った今も維持されているとしたら、クミンの決意は生半なまなかなことでは覆るまい。


「まァ、動機を探るのは警察に任せるさ。あれこれ悩んでタイムアップじゃ世話ねえぜ」


 心慮を打ち切ったRは、さっと立ち上がった。


「それじゃあ水脈、お前を連れて行く以上、巻き添えでクタばっちまうほど弱いのも困りモノなんでな。戦いに際しての立ち回り方を伝授するぜ」

「え、格闘って20分でマスター出来るの?」

「出来るわけねえだろ」

「じゃあ、無理じゃない?」

「ところが……ってやつだな」


 ニヒルな笑みを浮かべたRは、首の後ろを撫でた。


「マホロバ特有のクセは詰め込み教育ができるんだよ。一撃の最大ダメージは31点までとか、ユニットでアバターにトドメは刺せないとかな」

「うっすらと耳に残ってるわ」

「そりゃ良かった。じゃあ、今からお前に関係ありそうなダメージの軽減ルールだけ叩き込むから、スライムのおつむにしっかりと吸収しといてくれ」


 色々言ったところで水脈はパンクしてしまうから、Rは吟味して伝えることにした。



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