第三部 〈不意打ちの言葉〉
二学期最初の登校日。
始業式はつつがなく進み、今期から新しく着任するという教師の紹介に移った。
『えー、今学期から、戦闘訓練を専門に教えて下さる先生に来て頂きました。——では、お願いします』
カンペをガッツリ読む教頭に自己紹介を促された女性が壇上に立つ。それと同時に、「おぉ……」という歓声が——主に男共の中から——挙がった。
艶やかな長い黒髪を腰のあたりで束ね、口元を固く結んだ、いかにも有能そうな美人。スラリとした体躯に、引き締まったくびれ。そして、異性のみならず同性の視線までも惹きつける程のサイズを誇る胸。
そして黒羽の後ろで興奮するケイ。
「うおー! やべぇ、何あれ! 典型的なクールキャラなのに、いや、だからこそ良い! 黒羽! 見ろってあれ!」
場に配慮して声を抑えてはいるが、周囲には聞こえている。
「眼鏡を教室に忘れた」
だから姿が良く見えない。そう続けようとして、
『——私の名前は北条千春。戦闘訓練を専門に教えることになった——』
「——っ!?」
思わず顔をしかめる黒羽。
「……なぁ黒羽、あれ、もしかしてお前の姉ちゃんか?」
「い、いや、違う」
「そうか、苗字が同じだけか。お前一人っ子だったしな」
そうこうしてるうちに話は進み、新任の教師は自己紹介を終えようとしていた。
『——と、いうわけで、これからよろしく頼む』
そこでふと、思い出したかのように言う。
『あぁ、それと、私の息子がこの学校に通っているはずだ。ぜひ、仲良くしてやってほしい』
まさかの言葉に驚愕し、目を見開くケイ。
「んっ!? おい黒羽、もしかして……」
「やめろ……何も言うな……」
バレるのは時間の問題だとは思ったが、まさか自らバラすとは思いもしなかった。
少なくとも今後しばらくは、「誰が息子か」もしくは、「新任の教師は既婚者である」という話で持ち切りになるであろうことは、周囲の生徒の反応を見れば明らかであった。
配分を間違えて短くなってしまいました。申し訳ありません