魔王への道
作成日:2013年 08月01日
いい加減編集中小説溜まり過ぎなので、投稿。
ボツネタです。
ネタを使いたい方はご自由に。
設定やらストーリーを膨らませてください。
世界の果てともいえる寂れた辺境に、工場があった。騒音もしない、廃工場のような佇まい。けれども実態は、二十四時間稼働していた。
プシュップシュー―
プシュップシュー―
ベルトコンベアの上に、まるで生クリームを搾るように、ジェル状の何かが絶えず落ちる。
無色透明、豆腐一丁程の大きさのものがボトン、ボトンと落ちては流れ、落ちては流れる。
もし工場見学する人族が、この場にいたならば「スライムや!」と叫ぶであろう。そう、ここは辺境の地にあるスライム工場なのであった。
プシュップシュー―
プシュップシュー―
今日も工場は平常稼働。注文通りに納品できそうだ。
極まれに、生産量と出荷量が異なる事もある。スライムは簡単な材料で、失敗しないで作れるにも関わらずだ。
不思議である。
不思議があった。
今日もまた、不思議にも自我あるスライムが誕生した。スライムにあるのは、食欲だけ。生まれたてのレベル1スライムに、自我は存在しない。
しかし生まれたばかりなのに、彼はベルトコンベアから飛び出した。無色透明であるが故に、誰も気づかない。
床に着地して、自然と己が何者か疑問を抱く。するとステータスが、彼の思考に流れ込む。
ステータスが示す内容はよくわらからない。けれども本能的に今必要なスキルを見つけだす。
瞬く間に床と同じ黄緑色に変化したスライム。スキル《擬態Lv.1》が発動したのだ。
スライムは何らかの無機物や生物に擬態し、捕食する魔物である。 レベル1スライムが、最初からもつスキルは4つ。自分の意志で発動するアクティブスキルが、全身硬化・擬態・空間把握の3つ。自動で発動しているパッシブスキルが、意志疎通だ。ただし意志疎通は、スライム族限定という狭いものだったが。
(……ギャッ!)
空間把握を使えば察知できたであろう、工場の従業員が近づいていた。巡回にやってきた従業員に、彼は踏まれた。
生まれたてのスライムなら、即死級の衝撃を味わう。しかし不思議なことに、彼は生き残った。彼には、彼唯一のユニークスキル《悪運》があったのだ。例え即死級の攻撃を受けても、生命力の1割は残るという。
動きは遅いが、のそのそと工場の出口に向かって進むのであった。
工場を脱出した時には、彼はレベル2になっていた。食わず嫌いのないスライムは、どんなものでも食べる。生物でなくても、価値の高い物を食べれば経験値を積めるのだ。
レベル2スライムになって、新たに《衝撃軽減》のパッシブスキルを得ていた。衝撃軽減を育て続ければやがて、物理攻撃無効を得られる。スライムも成長すれば、強くなる。
(ドコ、イク)
空間把握でわかるのは、周囲は荒野。ポツリポツリと木々があるだけ。心の中で呟いただけの声に、意志疎通で何かが聞こえた。はっきりしない意志に、彼は引っ張られるように向かった。
「こっち、こちらへおいで。迷える同族よ」 いくつかの木々を通り過ぎると、草原にたどり着く。ようやく聞こえた意志は、彼とは違い滑らか声で語りかける。
「生まれたての坊や、草原を進みなさい。そして、車にまたがり、洞窟へ」
草原には見たことのない生物が、あちこちにいた。レベル2スライムでは、草原の奧へ進むのは不可能だった。
(ムリ、ススメナイ)
ふと空間把握を使うと、バッタが近づいていた。丁度草に擬態していた彼は、自分の上に来たら食べれるよう、より土に近い草に変化した。しめしめ、と待っていたがバッタのが上手だった。バッタはバッタでも、昆虫ではなくキラーバッタという魔物だった。
敵の気配を察知したキラーバッタは、スライムの待つ方向へ頭の触角から針を飛ばす。攻撃を受けてスライムの擬態が解ける。バッタは格下と判断し、助走をつけてキックした。思わぬ攻撃だったが悪運のあるスライムは、弱ったふりをしてキックを受ける。と同時に、全身を広げてキラーバッタの頭を包み込んだ。キラーバッタは針で抵抗するも、彼の消化速度に敵わなかった。キラーバッタは、スライムの血肉となったのだった。
――――――これが、暴食の魔王の旅の始まりだった。