第16話
「クスクス、まあーー」
「本当に?」
「やはり、あの姫は厄介事しか引き起こさないのねーー」
殺せ!!
あの、災いの皇女を殺せっ!!
雷が鳴り響く。
嵐が近付いているのだろう。
高倉にある窓の一つを開け、外を眺める。
高い位置にあるそれは、私がつま先立ちしてようやくのぞき込めるかどうかだった。
同じ年頃の少女よりは少しだけ背丈の高い私は、そこから流れ込む風の冷たさに体を震わせた。
「雨が入る、閉めろ」
「……」
いつの間にか高倉に入って来ていた神の声を背に受けたが、私はそのまま黙って外を眺め続けた。けれど、結局近付いてきた神によって窓を閉められる。
「こっちに来い」
腰に手を回され、そのまま引きずられる様にして部屋の中央に引かれた敷物の上に座らされた。その隣に、神があぐらをかく。
「また食事をしていなかったのか?」
「……」
「だんまりか。一体何が気に食わない?」
それでも話をしようとしない私に、神が室内に居た侍女達を高倉の外へと下がらせた。
「言わないなら言わなくて良い。だが、食事は取れ」
「……都の人達と怪我をした人達は大丈夫ですか?」
「……ようやく口を開いたかと思えば」
その言葉に、私は更に項垂れた。
あの化け物の襲来から、既に三日。
その間、私は高倉から一歩も外には出られないで居た。
襲撃に巻き込まれた者達の中に死者は居ないと聞いたけれど、民達を守ろうとした兵士達に負傷者は出たという。
私を化け物が狙ったせいでーー
「前に話したとおり、死者は居ないし、民に怪我人も出ていない。兵士が怪我をしたが、それは兵士という職業に就いた時から予想されていた事の一つだ」
「それでも、避けられるべき物は避けるべきです。兵士だからといって、傷ついて良いものじゃありません。彼らにだって、彼らの身の安全を願う人達が居るんです」
「ーーご高説だな。自分の身一つ守れない皇女の言葉とは思えない」
「っ……」
「皇女でありながら、一人で勝手に走り出して迷った挙げ句に化け物に襲われて。確かに、王都への化け物の襲来は避けられなかったとしてもだ。お前があそこで走り出さなければ、戦力を二手に分けずとも済んだ」
神の言い分は最もだった。
化け物の襲来が無かったとしても、皇女である自分を見失ったとなれば騒ぎが起きるだろう。
いやーー
私の中に反抗心が芽生える。
「化け物さえ現れなければ良かったですね」
「なんだと?」
「そうすれば居なくなるのは私だけ。傷つく人は居なかった。貴方が罰せられる事だってないです。だって、貴方は神だもの。神を罰する事は大王でさえ出来ない」
「こちらの心配をしてくれているのか?無用の長物だ」
「化け物達も、しっかりと私の所に来れば良かったのに。本当に、愚かだわ」
私だけを狙えば、それで済んだ筈だ。
私の居た所には、あの時周りに人が居なかった。
焼け落ちた小屋も、農具が置かれただけの小屋だった為、少なくともすぐに人命に関わるといった事はなかった筈だ。
「……でも、良かったですね。私の中の神の力を奪われずに済んで」
「ーーああ。それに、色々と事が進む」
「……そうですか」
何がどう進むのか分からない。
けれど、きっと良いように進むのだろう。
ただ、私のせいで巻き込まれた人達の事だけが心配だった。
「私は……居ない方が良いんですね」
あの事件、いや、その前からずっと聞こえてきた声。
何の力もない皇女。
何の利用価値もない皇女。
そんな皇女に何の価値があるのか。
「大王にお伝え下さい。今回の事で巻き込まれた者達に少しでも手厚い保護がある様に」
きっとあの兄の事だから、私が何も言わなくても既に被害を受けた民達への補償は行なっている筈だ。
「その事については、お前は心配する必要はない」
突き放された様な物言いに、私は唇を噛み締めて涙を堪えた。
「……髪を伸ばせ」
「え?」
髪?
私の髪を玩びながら、神が耳元で呟いた。
今現在、私の髪は肩を少し越えたばかりだ。
斎宮になる前は腰ぐらいまで伸ばしていたけれど、斎宮として生活している時は、既に今ぐらいの長さだった。
この国では、女性は長い髪が美しいとされている。
大王の宮殿に連れ戻されてからしばらく経つので、本当ならもっと伸びている筈だが、磐を妃にした兄への抗議の為に、引き離された磐の様子を聞いた瞬間、私自身の手で髪を切り落としたのだ。
その時も肩を少し越えたぐらいの長さだったが、それより更に短く切ってしまった。
皇后付き侍女長と宮殿の女官長が揃って悲鳴を上げた様な気がしたが、当時はそれどころでは無かった。
いわゆる、ザンバラ頭並の不揃いな髪だったが、今ではまた髪が元の長さまで伸びてきていた。
因みに、年頃の少女で髪が短いというのは酷く注目を集めるが、普段は高倉暮らしだし、外に出る時は常に顔に布をかぶせられていた。
王都で、あの化け物に襲われた時もそうだ。
薄い布で顔を覆われていた為、道行く人々は気づかなかったのだろう。
神も顔を隠していたので、二人揃って顔を布で隠して歩くとなればそれなりに目立っていただろうと普通は思うだろう。
けれど、あの化け物襲来の後に宮殿に連れ戻される私が黙ってしまった事に対して黄牙が気を利かせて話し続けてくれた中で、教えてくれたのだ。
王都の場合は、貴族の姫君は別としても、その姫君付きの侍女達や皇族の子女の侍女達が顔を布で画して買い物に出る事は珍しくない事なのだと。そしてそれは、王都の者達にとっても周知の事実であり、下手な詮索さえしなければ金払いの良い顧客として持ちつ持たれつな関係が出来上がっているらしい。よって、私と神が顔を布で隠していても、それ程目立ちはしなかったと思われる。
まあ、顔を隠した女性ともなれば、高貴な身分に連なるものとすぐに分かるだろう。
そして下手に詮索すれば、身を滅ぼす可能性がある事も。
他の町や村ならまだしも、王都なのだ。
ある程度考える力がある者であれば、それは当然考えつく事である。
「……髪なんて短い方が楽です」
普通の王侯貴族の姫ならば到底言えない言葉だ。髪が長いのは美人の証。逆に言えば、髪が短いのは不細工の証とも言える。
年頃の少女であれば、年頃でなくても不細工扱いされるのは心に刺さるものがある。
けれど、私の場合は髪の長さ以前に顔の造形が不細工なのだから今更髪を伸ばしてもどうにもならない。
ああ、王都で顔を隠していて良かったと思う。
そこで私の顔を晒して歩けば、「魔物が出た!!」と騒がれたかもしれない。
「駄目だ、伸ばせ」
「伸ばすか伸ばさないかは私の勝手です」
そう言って神の手から私の髪の毛を引き抜こうとしたが、逆にその手を掴まれた。
「っーー」
「反論は許さない。髪を伸ばせ」
「ーーっ」
そのまま床に押しつけられ、口を塞がれる。
全てを奪い尽くすような荒々しい口づけに、私の頭がぼんやりとしてくる。
けれど、その耳に聞こえてくる物があった。
まあ見てーー神もお可哀想に
まるで美女と化け物だわーー
本当に不似合いね
この世の絶望とも言える光景ですね
なんて、気持ち悪いーー
可哀想
化け物
不似合い
絶望
気持ち、悪いーー
「俺を拒むな」
「やだ、離してーー」
涙をボロボロと流し、力の抜けた体で神を拒む。
けれど、神の手が緩む事はなく、その美しい顔が私の乱れた胸元に埋められる。
また、体の内が熱くなる様な感覚を覚えた。
「拒むな、俺を拒むな、こっちを見ろっ!」
両手で顔を覆えば、手を引き剥がされる。
強引に泣き顔を晒される。
「……どうしたら」
気持ち悪い
気持ち悪い
気持ち悪い
気持ち悪い
気持ち悪い
醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い
化け物っ!!
「お前は、俺をーー」
両手で耳を塞ぎ、私は全ての音を拒絶した。
このまま消えて無くなってしまえば良いのにーー
「……未緒が?」
「ええ。体調を崩されまして」
斎宮の宮で私に仕えてくれた未緒付きの侍女が一人、高倉を訪れた。監視役付きの中での謁見だったが、久しぶりに違う人と会える事は私の気分転換にもなった。
ただ、その彼女からもたらされたのが、斎宮の宮に居た未緒の体調不良と聞かされ、私は思わず立ち上がろうと膝をついた。
「まあ姫様、お行儀が悪いですわ」
私付きの世話役の侍女達から非難の声が上がる。けれど、それはすぐに収まった。未緒付きの侍女が、厳しい目つきで彼女達を睨んだからだ。
「っーー」
くすくすと笑う気位の高い侍女達でさえも震え上がらせる視線は、けれど私に向けられると同時に優しい物へと変わる。
「音羽姫様も、あの襲撃よりまだ時間も経過しておらずお体もお辛いかと思います。けれど、どうかーー未緒様は既に食事を取られなくなって数日経ちます。また熱に魘され、そのお小さい体がこのままでは危ないと意思が申しております」
「……私は、何をすれば良いの?」
「会って頂けるだけで構いません」
「未緒に、会えるの?」
「ええ。大王陛下には許可を頂きました。本来ならば未緒様をこちらにお連れ致すのが礼儀ですが、到底移動に耐えられるお体では……」
「医師はなんと?」
「心が弱っていると言うのです。最初は何かの病かと思いましたが、感染する物ではなく、心が疲弊した事によるものと」
心が疲弊ーーそれは。
けれど、私は言えなかった。
斎宮の宮での生活を取り返してくれたら治るかもしれないーーなんて。
斎宮の宮に仕えていた女性達は皆、一人残らず彼女達を欲する者達に下げ渡されたと言う。未緒も同様で、彼女は叶斗の下に引き取られた。
詳しい事は教えて貰えなかったけれど、ただ叶斗という青年は未緒を大切にしていると聞く。
「……分かりました」
「ーーありが」
「ですが!」
私はこれだけは伝えた。
「大王陛下から許可を得ているのであれば、心配ないとは思います。ですが、先の件は貴女も知っている筈です。あの、化け物襲撃事件は。その時に狙われたのは……私です」
あの日、化け物が私を狙った際に、多くの者達が巻き込まれた。
その時の化け物達は全て倒されたと言うが。
「ですが、一度化け物に狙われた身。同じ事が今後起きないとは限りません」
神に言われた。
あれらは、私の中に埋め込まれた神の力を狙って来たのだと。
そして今も神の力は私の中に埋め込まれたままだ。
堕神がどれだけ居るのかは分からない。
けれど、あれらで最後で無い限りは、私を狙う新たな堕神が現れるかもしれない。
それに、父王の様に、人の身でありながら神の力を狙う不届き者だって現れないとも限らない。まあ父王は、既に人を捨てては居たけれど。
いや、今は父王の事は良いのだ。
言いたいのはただ一つ。
もし私が未緒の所に行くにあたって、私を狙う者達が未緒達にまで被害を及ぼしたらーー。
「それにはご心配は及びません」
「え?」
「確かに一度は侵入されましたが」
あの日、私を襲った蛇の化け物は私の住む高倉にまで侵入していたという。ただ私を害するまでに至らなかったのは、高倉に張られた結界のせいだったとか。
「結界が新たに張り直され、それは先の結界よりも強力になっていると言います。それに、未緒様の住まう宮にも、同様の結界が張られております。ですから、何の心配もございません」
「未緒と、宮の方々に、私の件では迷惑がかからないという事ね」
「その様なもの等、微塵もかかりませんわ!」
そう叫ぶ様に未緒付きの侍女が宣言する。
「ああ、なんとお優しい姫様でございましょう!ああ、本当に貴女様の様なお方がーーありがとうございますっ!」
未緒付きの侍女は歓喜して頭を下げる一方で、私付きの侍女達はくすくすとあの嫌な笑い声を上げたのだった。
未緒の住まう宮は、大王の宮殿の敷地内にあった。
斎宮の宮の女性達を引き取った者達の本邸は王都にそれぞれあると言うが、警備上の問題から大王の宮殿内にそれぞれが賜った土地に離宮を建て、そこに彼らは住んでいた。
それは、私が眠らせていたとされる、同じく罪人にされた男性達を引き取った女性達も同様で、それぞれの屋敷が建ち並ぶ。
広い広い大王の宮殿とその敷地。
それだけで、都一つに匹敵するとさえ言われていた。
ただ私の住まう場所は、大王の宮殿の中心地から離れている。
皇族や大王の妃達が住まうのは宮殿の中心地で、斎宮の宮の女性達や、私が眠らせた元罪人扱いされた男性達を引き取った者達の方がその中心地により近い場所に住んでいる。
輿が用意され、それに乗り込み暫く進んだ後、私は未緒のいる宮へと辿り着いた。
そこは、私の住まう高倉よりもよほど立派な建物だった。
「どうぞ、こちらですーー」
布を被ってはいるが、足元が全く見えない訳では無い。それでも、私に懇願に来た未緒付きの侍女に手を引かれて、私は宮の奥へと進んだ。
すると、廊下の向こうに一人の青年が佇んでいるのが見えた。
叶斗ーー
「これは、音羽姫様。まだ体調も整わない中、よくいらして下さいました」
「私には崩す様な体調はないです」
別に嫌味ではない。
斎宮の宮に居た時は、風邪一つ引かなかった。
とはいえ、神との交合に疲れて床についた事はある。それでも、だいぶ体の体調は戻っていた。
嫌味にも取られそうな私の返答に、叶斗は苦笑する。けれど、彼は怒りを見せたりはしなかった。
「本当は準備が出来てから妻と共に挨拶に伺うと思っていたのですが」
「……妻」
「もちろん、未緒の事ですよ。それ以外に誰が?」
しっかりとやり返された私は、唇を噛み締めた。
「未緒は」
「どうぞ、こちらです」
叶斗に案内され、室内に入る。
未緒の姿は敷布の上には無かった。
代わりに、中庭に面しているだろう縁側に腰をかけ、柱に体を寄りかからせていた。白い寝間着が、一瞬花嫁衣装にも見えた。
「未緒、寝ていろと言っただろう?」
未緒は歌っていた。
振り返る事なく、辿々しく歌い続ける。
その背中は全てを拒絶していた。
その断固とした拒絶に、私が立ち止まる。けれど、その横を叶斗は歩き去り、未緒の肩に手を置いた。
「未緒」
「ーー、ーー」
気づかないわけがない。けれど、未緒は何度声をかけられても揺さぶられても、反応しないとはしなかった。
体調不良ーー
違う
私の瞳に、涙がこみ上げてきた。
未緒は心を病んでしまったのだ。
熱が下がらないのも、全てはそれからくるものだ。
「……未緒」
私は未緒に駆け寄り、その体を抱きしめた。
未緒はされるがままだった。
その形の良い唇から歌が紡がれ続ける。
「ーー、ーー」
それは、夜が恐いと泣く、まだ斎宮の宮に来た頃に良く歌ってあげた歌だった。私が母から残された物は殆ど手に残らなかった。
残ったのは、母から教えられた皇女としての生き方の指針と、幾つかの歌だった。
夜に怯える未緒に添い寝して、私は歌い続けた。
この幼い子がよく眠れるように。
彼女の涙が止まるように。
「未緒、どうしてーー」
ほっそりとした体は、私が最後に見た時よりも成長している。正確には、大人の女性の色香を纏い始めていた。
匂い立つ様な色っぽさは、斎宮の宮に居た時の未緒には無かったものだ。そして、彼女が時間をかけてゆっくりと備えていくものだった筈だ。
こんなーー
未緒に触れた事で、その香りがより強く感じられる。
叶斗に部屋まで案内されるまでに薫った香り。
それが叶斗が纏う香りで、それが彼女に移るという事はーー。
私はもう、生娘ではない。
だからこそ、分かる。
綺麗にされてはいるが、男の欲望に染められた体は確かに女のそれだった。十三は結婚には決して早すぎる年齢ではな。けれど、実年齢よりも中身が幼い未緒が結婚を考えるまでにはもう少し時間を要するはずだった。
「未緒、未緒ーー」
全てから守る様に、叶斗からも未緒を守る様に彼女を抱きしめる。
「どうして?静かに暮らしていたのに」
私達が何をしたと言うのだろうか?
「静かに、暮らしていた、だけなのに」
どうして、この子が心を壊さなければならなかったのだろう?
未緒に触れた瞬間、彼女の悲しみと苦しみ、そして葛藤と混乱が流れ込んできた。もう、決して珍しくもないそれに、私は彼女の心の痛みを感じ取った。
叶斗は未緒を大切にしている。
けれど、同時に何の反応も示さない彼女に苛立ちを覚え、手酷くも扱った。
整えられた室内。
広くて綺麗で。
生活に必要なものが全て揃っている。
そして、縁側から見える中庭は見る者の心を和ませようとする気持ちで溢れていた。
例えそれが、限られた場所だとしても。
高倉に居る私には、決して手に入らない物だ。
見上げれば、青い空が、白い雲が見える。太陽の光が温かく、吹き去る風は心地よい。
花と緑の匂いが懐かしい。
外に連れ出される様になり、最初の頃に比べれば外の空気に触れられる様になった。けれど、あの化け物の襲撃が起きて以来、また高倉に閉じ込められた。
どうして私ばかりーー
けれど、実際には違った。
私よりはずっと外の空気に触れられるけれど。
未緒もまた、閉じ込められていた。
未緒付きの侍女は、私の所に懇願しに来た者を含めて数人居るが、彼女達は優秀な侍女であると同時に監視役でもあった。
今も、隙無く私達を監視している。
そして、私はよく知らなかったが、兄が大王になってからは女武官達の数が増えていた。女武官は、大王の妃達や皇女達を守る者達で、男達を近づけない為に生まれた役職である。
それが、大王以外のーーいくら高官とはいえ、その者達の家にも配置されている事には驚いたが、彼女達もまた未緒をしっかりと監視している。
更に何よりもーー
「未緒、まだ体調が優れないのだから中に戻ろう」
叶斗の存在が未緒を縛る。
彼が居る限り、未緒は決して解放されないだろう。
私は手を伸ばす叶斗の手を拒否した。未緒をより強く抱きしめる。
「音羽姫様」
「未緒の所に来てくれと頼んだのはそちらでしょう?なら、しばらく放っておいて下さい」
叫び出しそうになる自分を抑え、私は叶斗に強い口調で言い放った。そんな私に、叶斗は怒ろうと思えば怒れたはずだ。
現大王の妹姫とはいえ、何の力もない穀潰しよりも、大王の寵愛深い優秀な高官の方が余程立場は上だから。
それでも、叶斗は溜息を一つつくと、寒くないようにかける物を侍女に命じて持ってこさせ、それを私達にかけて離れた。
だが、そのまま部屋の隅でこちらを監視する視線を向けられ、私の唇はわなわなと震えた。




