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後編

 詩歌いの話を聞いた王様は、また国中の人を集めて、こんなことを言いました。

『我が国を春へと運んだ者には、望みの褒美を取らせる』

 国中の人々は、どうすれば春に行けるのかを話し合いました。

 紐を付けて引っ張ってみようと言う人も居れば、羽を付けて飛べばいいと言う人も居ます。しかし、どれも本当に出来るとは到底思えませんでした。それに、春がどこにあるのかもわからないのです。

 大人達がみんな困っていると、一人の子どもがこんなことを言いました。

「今まではどうやって動いていたの?」

 その一言で、大人達は国を動かしていたものを探し始めました。これだけ大きな国を動かしていたのだから、どこかに大きなカラクリがあるに違いないと思ったのです。しかし、山を登っても、海に潜っても、一向に大きなカラクリなんて見つかりませんでした。

 困り果てた人々は、また詩歌いにお願いすることにしました。

「冬の女王に、どうすれば春に行けるのかを聞いて来てはくれないだろうか」

 町の人々に見送られて、詩歌いはもう一度旅立ちました。しかし、以前に城があった場所に付いても、そこには何もありません。

 困った詩歌いは、また不思議な詩を歌い始めました。

「冬の女王、教えてお~くれ」

「ユキとダルも、で~ておいで」

「どうか、どうか私を、助けておくれ」

 歌い始めてからしばらくすると、聞き覚えのある声が聞こえてきました。

「ユキとダルはここにいるよ」

「女王様にお願いしたよ」

 それは、ユキとダルの声でした。詩歌いの詩に合わせて、ユキとダルも歌っています。そして、詩歌いの前に、大きな城が姿を現しました。

「また会えた。嬉しい」

 城が現れると、そこには喜んでいるユキとダルの姿がありました。

「ダルが女王様にお願いした」

「ユキだってお願いしたよ」

 ユキとダルは、詩歌いのことが大好きになっていました。

「ユキもダルもありがとう。おかげでまた会うことが出来たんだね。また、冬の女王の所へ連れて行ってくれないか?」

 詩歌いに褒められて、ユキとダルはとても嬉しそうです。そして、そのまま冬の女王の所まで案内してくれました。

「人間よ。一度ならず二度もわららの元を訪れるとは、一体何用じゃ?」

「私達は、今までどのようにして国が動いていたのかを調べています。冬の女王は、何かご存知ではありませんか?」

「そのようなことか。なれば、そなた達の住む土地に尋ねればよかろう」

 冬の女王は当たり前のことのように言いましたが、詩歌いにはわかりませんでした。

「土地に尋ねる?」

「そのようなことも知らずに暮らしておるのか。生き物が生きていけるのは、自然の恵みがあるからであろう。それを与えているのは、大地の女王であろう? それを知らぬと言うのであれば、付いて来るがよい」

 冬の女王はそう言うと、詩歌いを連れてバルコニーへと向かいました。

「ここからは、わらわの世界に入り込んだ者達がよく見える。そなた達には決して見れぬ者達が、ここからは良く見えるぞ」

 冬の女王に言われて、辺りを見てみると、そこには普段見ている景色とはまるで違うものが広がっていました。辺り一帯は雪や氷に囲まれていて、そこを大地が船のように進んでいるのです。

「これは一体?」

「皆、わららの愛する者達じゃ。どれ、そなたの大地に住まう女王を覗いてみよう」

 そう言って冬の女王は、指で大きな丸を描きました。すると、そこには大きな鏡のようなものが現れ、映っている世界は、望遠鏡で覗いたように、大きく映されています。

「なんと哀れな。そなた達は、我々には感謝をするわりに、恵みを与えてくれた者には何もしておらぬのか?」

 鏡には、とても苦しそうにしている少女の姿が映って居ました。

「これが大地の女王……。我々はなんと言うことを……どうか、この場所をお教え下さい」

 詩歌いは、居ても立っても居られない気持ちになり、今にも走り出してしまいそうです。

「そう慌てるでない。人間が行った所で、かの者は姿を現さぬであろう。ユキとダルを連れて行くがよい」

 冬の女王はそう言うと、少し寂しそうな顔をしました。

「そなた達は、また旅立ってしまうのじゃな」

「私達も、この美しい世界をとても気に入っています。ですが、我々の力では、ここに留まり続けるのは難しいのです。季節を巡り、作物を育て、貯えることで、この世界に少しだけ留まることが出来るのです」

「さようか。わらわは、またそなた達が訪ねて来る日を楽しみにしておるぞ」

 詩歌いは冬の女王と約束をすると、ユキとダルの所へ急ぎました。

「ユキ、ダル、一緒に付いて来てくれないか?」

「初めてのおでかけ!」

「案内するの!」

 一刻も早く春に向かわなければならないと言うのに、ユキとダルを見ていると、いつまでもこの世界に居てもいいと想えてしまうほどの愛嬌がありました。

「まったく、遊びに行くんじゃないんだぞ。ちゃんと案内してくれよ」

「ユキに任せて!」

「ダルの方が物知りなんだよ!」

「あぁ、わかったから、喧嘩は無し。二人とも頼りにしているよ」

 ユキとダルは、詩歌いに褒められたくて仕方ありません。まるで、お父さんのように、詩歌いのことを見ているのでした。

 それからしばらくして、町が近づくと、ユキとダルが動きを止めました。

「どうした?」

「この先やだ。ユキは暑いの嫌い」

「ダルも嫌い。なくなっちゃう」

「そっか。なら、外で待っててくれるか?」

「待ってる」

 町の中は、人には寒くても、雪だるまには熱く感じるようです。そこで、ユキとダルは町の外に待たせて、詩歌いだけが王様の元へ急ぎました。そして、冬の女王とのやりとりを話したのです。

「何と言うことだ。そなたの言うことが真なら、我々はなんということを……ワシも大地の女神の元へ連れて行ってくれ」

 王様はすぐに支度を済ませ、数人の家臣を引き連れてやって来ました。

 準備が整い、大地の女王を救う為に出発すると、町の人々が何事かと集まって来ました。そして事情を知ると、一人、また一人と行列を作ったのです。

「こんなに沢山の人間、初めて見たよ」

「怖い。こっちに来ないで、なくなっちゃうよ」

 町を一歩出ると、ユキとダルが詩歌いの帰りを待っていました。しかし、あまりにも多くの人がやって来て、ユキとダルは怖がってしまいました。それに、動く雪だるまを見て、人も驚いています。

「ははは、大丈夫。誰も意地悪なんかしないから。みんな大地の女王に会いたいだけなんだ。だから、案内してくれないか?」

 詩歌いがそう言うと、人間に怯えていたユキとダルは、すぐに元気になりました。

「こっちだよこっち」 

 ユキもダルは、詩歌いの為に力を貸しました。

 詩歌いは、町の人々の為に力を貸しました。

 町の人々は、王様の為に力を貸しました。

 そして王様は、みんなの為に力を貸しました。

 長い行列が、ヘビのように進んで行った先は、とても暗い森の中でした。

「ここだよ。大地の女王の場所」

「冷たくて、悲しい。とっても寂しい場所」

 ユキとダルは、案内をしてくれましたが、この場所は好きではないようです。それもそのはず、ここは太陽の光が届かないだけではなく、地面はドロドロのぬかるみになっていて、周りには生き物の姿がまるでありません。そんな、静かで寂しい場所だったのです。

「なんと言うことか……ここに大地の女王が居ると言うのか?」

 王様はこの景色を見て、とても嘆き悲しみました。

「ユキ、何も出来ない。でも、ずっと見てくる」

「ダルも何も出来ない。見られるの辛い」

 ユキとダルは、詩歌いの後ろに隠れてしまいました。それを不思議に思った詩歌いが、じっと目を凝らしてみると、ぬかるみの真ん中に、一人の女性が蹲りながらこちらを見ているのが解りました。

「あれが大地の女王なのかい?」

 詩歌いがそう言うと、ユキとダルは静かに頷きました。

 大地の女王の悲しそうな姿に、集まった者達は息を飲んでいます。

「おお、許しておくれ。我々は季節の女王ばかりに感謝をして、自然への感謝を怠っていたのだな」

 王様は、考える間もなく、すぐに大地の女王が居る場所を綺麗にするように命じました。

 人々は急いで綺麗な土を集め、ぬかるみを埋めたり、光を奪い合っている木々を剪定したりと、大忙しです。

 最初は不気味で大地の女王を恐れていた人々ですが、何日も続けていると、大地の女王が少しだけ微笑んでいるように見えたのです。それを見た人々は、一層やる気を出し、一刻も早く大地の女王を救い出そうとしたのです。

 そんな人々に、王様は残り少ない食料を全て分け与え、みんなが一丸となって力を合わせました。

「なんとありがたい。これでまた、色んな場所を旅することが出来る」

 みんなが力を合わせることで、荒れ果てていた土地は、見違えるほど美しい場所へと変わりました。人々が手を加えたことで、ここだけ春が来たかのように、木々の緑に光が差し込み、雪解け水がキラキラと光っています。そして、力を取り戻した大地の女王は、とても嬉しそうな顔をしていました。

 こうして、四季の変化を楽しむこの国は、再び季節を廻ることが出来るようになりました。そして、いつもの四季の女王への感謝に加えて、季節の変わり目には、大地の女王への感謝を込めた祭りが行われるようになったのです。

 そしてこの国を春に導いた張本人は、王様から褒美を受け取り、すっかりこの町に馴染んでいました。

「この国は、どこへ行くの。季節を廻り廻って元通り、季節の女王ありがとう。大地の女王ありがとう」

 詩歌いは、相変わらず可笑しな詩を歌っています。祭りの時には自分に歌わせて欲しい、と言う望みは叶いましたが、集まった人々は難しい顔をしています。そのあまりの可笑しさに、どこからともなく楽しそうな笑い声が聞こえてることも、しばしばあったそうです。

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