PART6.猫(2)
次の日――――――
「猫?」
「そ、どうかな?」
昨日捕獲した猫について峰入に飼えるかどうか訪ねてみた。というのも昨日は峰入はテニス部の助っ人に行って部活に来なかったためノラのことを知らないからだ。
案の定峰入は悩む素振りを見せる。
それどころか顔が真っ青になっている。
「……………」
「どした?」
「実は私、猫が苦手なんだ………」
「え、そうなの?」
「猫だけではなく獣類全般……」
「そんなに!?」
峰入が顔を真っ青にしながら言うため迫力がある。
獣類全般ダメって…………。さすがに初耳だ。よく生きてこれたな今まで。
ちなみに俺と峰入が話している場所は普通に人通りがある廊下で峰入が顔を真っ青にしているため通りすぎる人たちが不安そうに見てくる。
「なんで七城が峰入と話をしているんだ………!」
「俺が先に目をつけたのに…………!」
中には恨み丸出しで睨んでくるやつもいるけどな。
忘れているかもしれないが峰入は充分美人だから目立つ。というか迷走部は俺を除いて全員美女子。
ただ峰入はなー、スポーツ万能(超)だけど成績優秀(WORST)だから完璧超人というわけにはいかない。
まあそこまで高望みするのは欲張りだろう。
「まあ無理ならそれで構わないけど」
「すまん。役に立てそうにない………」
「気にするなって。峰入弱点帳に記入することが増えたからむしろプラスだ」
「ちょっと待て!なんだそれは!?」
「さーて、あとは誰かアテいたかな?」
「ちょっー!?」
慌てる峰入はスルーして逃げる。
大丈夫だ峰入。弱点帳は嘘だから。
弱点見っけやりー、とは思ったのは内緒。
その後葛城や田村にも声をかけてみたが見事に空振り。
だがその中で有益な情報を入手できた。
田村曰く、【動物愛護部】が存在するとのこと。
この学校は部活がバカみたいに多いから定かではないが聞いてみるにこしたことはないな。
というわけで放課後、部活に遅れると最初に美季に伝えておき、田村から得た情報を頼りに校舎内を歩く。
そしてしばらくして、迷子になった。
いや言い方が違う。正しくは動物愛護部の部室が見つからなかった。こんなことになるならクラスメイトに心当たりある人、もしくは部員だと言う人に話を聞いておけばよかったと後悔する。
少し項垂れていると誰かが声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫で―――っ!」
顔を見た途端声が詰まる。
俺に声をかけてきた人物は【非公式美少女ランキング1位】【蘇りし大和撫子】など数々の異名を持つ女性。
人見知り(コミュ障ではない)の俺でも知っているその女性の名は綾岸早苗、我らが学園の誇る生徒会長だった。
「こ、こんにちは。こんなところで何を……?」
「少々近くを通っただけですよ。そのときにあなたを見かけて」
思わず声が高くなるのは許してほしい。
そりゃそうだ。学校一の美女に声をかけられたんだ。声が上擦るのは当然と言えよう。
そんな俺の異常事態もわかっていながら嫌な素振りを見せない彼女は本当にすごいと思う。
「こんなところで道に迷ってるようにさ迷われては声をかけざるを得ないということですよ七城さん」
「す、すいません……。……………あれ?なんで俺の名前を………?」
「久美子さんから聞いてるんですよ。面白い2年生がいると」
そういえば阿賀野先輩はなんでか知らないが生徒会の仕事を手伝ってるとは聞いたな。その伝で聞いたのだろうか。
正直言ってこんな美人さんに覚えてもらえているのは嬉しいことだ。もちろん表面には出さないけどね!
……阿賀野先輩には後で面白いとはどういう意味なのか問いたださなければならないな。
「実は動物愛護部の部室を探していまして」
「七城さんは迷走部では?」
「動物愛護部に用事があるんですよ」
まさか野良猫が侵入しているなんて言えまい。
「動物愛護部ならば外部室棟にありますよ。あそこは外部の人たちが主に使うので分かりづらいですからね」
「あ、ありがとうございます!」
これ以上話していると俺の紳士を保っている糸が引きちぎれそうだったから足早にその場を去る。
少しは美人耐性が出来てるかなと自負してたんだけどまだ甘かったか……。
――――――
「ここが動物愛護部……?」
とりあえず部室棟から動物愛護部の名前がある部室を見つけ出した。
俺は少し逡巡するも部室のドアを押し開ける。
――――――そしてその瞬間、頭に激痛が走った。
「痛ぁぁあ!?」
頭に何かが当たり痛みが来たことを確認すると同時に頭を手で抑える。
いきなり何!?新作の防犯システム!?
と、同時に床に転がった物を見る。
→猫の人形
何故にこんな物が!
「あぁ、大丈夫!?」
心配する声が聞こえ正面を向くと女子生徒がいた。
三つ編みのその女子は俺を不安げな表情をしていた。
「一応だいじょ……」
「壊れてないよね?タマちゃん」
そう言うと目の前の女子は落ちている猫の人形を抱え上げた。
どうやら猫の人形はタマというらしい。
人より人形が優先されたよ!?
「あの~~」
「えっと、誰ですか?」
天然なのかは知らないが先程の出来事が無かったかのような反応は若干イラッときた。
だがそこは大人の対応で何事も無かったかのように話す。
「ここは動物愛護部でいいんですよね?」
「困りました……。まさか迷子だなんて………て、いきなりどうしたんです?壁に頭を叩きつけて」
人の話を聞けやぁぁあ~~~~!
何!?天然なのこの人!?いや違うね。ただバカなだけだねこれは!まず人が目的あって来てる時点で迷子という選択肢が無くなるはずだぞ。
…………よし落ち着け俺。ここは大人の対応が大事。
「迷子ではないんですけど、少々ここに用事が……」
「その、頭からそれなりの量出血してますが大丈夫ですか……?」
「そこは2次元クオリティーでしばらくもつ設定なはずなんで大丈夫です」
「はぁ……?」
いくら大人ぶっても俺の体は正直だった。
それに俺に2次元クオリティーは受け付けないらしい。普通に痛いし視界が赤くなっていくのがわかる。でもここで逃げたら一生うまくいかない気がするからあえて逃げない。
自分でも何を言ってるのかわからんけど逃げない。
「ちなみにその人形結構固いですね」
「あ、はい。合金製なので。入手するの大変だったんですよこれ」
かわいくねぇぇえ!!!!!
可愛い顔しておいて合金製の猫人形愛用とか可愛いくねぇえ!!!!!
「それで、用件というのは……?」
「実は校内で野良猫を見つけまして「どこにいるんですかそれ!?」………迷走部部室にいます」
目の前の女子は頬を紅潮させて俺に顔を寄せてくる。
ここは女性の顔が近くなり緊張するパターンかもしれないが俺は耐性があるからそんじょそこらじゃドキドキはしない。
………ほんと俺何を言ってるんだろう?
「それでその野良猫をここで預かってもら「預かります!」………アザっす」
この人反応良すぎない?てっきり動物愛護部って名前だけの部活だと思ってたけどそうでもないみたいだ。
俺の赤く染まった目の片隅になんかハムスターやら蝙蝠やらいるし。…………深くツッコんだら負けだぞ俺。絶対にツッコむな……!
「とりあえず部室に来ます?」
「はい!」
勢いに乗せられたまま迷走部の部室へと向かう。
――――――
「失礼しまーす」
「どこ!?可愛い猫ちゃんはどこですか!?」
部室のドアを開けると同時に室内に乗り込もうとしてくる。
この人見境ないな!
室内を見渡すと峰入と遠藤以外の全員が揃っておりこちらを呆然とした顔をして見てくる。
まぁ言いたいことはわかるけどさ……。
「七城君が女を連れ込んでる………」
「まさかのそっち!?」
阿賀野先輩がボソッと呟いたセリフは部屋に響き渡った。
俺が女子を連れてくることがそんなに意外か!
……………あ、でも俺知り合い少ないから確かに意外か。
「音猫、どうしたの?」
「あれ?実那ちゃんこそなんでここに」
唯一相川だけが親しそうに話しかけた。ゲームのコントローラから手を離さないが。
とりあえず皆にかいつまんで説明をする。
そのタイミングで音猫(?)ちゃんの紹介がされる。
「申し遅れました。1―Dの倉萩音猫です。なんといいますか……その、お見苦しいところを……」
「いえいえお気になさらず。ちなみになんでここへ?」
「ところで子猫ちゃんはいずこへ」
「無視された!」
うーん。なんというか俺の苦手なタイプだ。
天然系少女といったところか。
「ところで宮斗君。頭から血が出てるけど大丈夫……?」
「今のところは根性で立っているから大丈夫だ」
「うんそれ危ないよね。今すぐ保健室行こう?」
美季の優しさが身に染みる。
だけどそろそろ本気でマズいかもしんない。立ってるとクラクラしてきた。
「ちょっと疲れてきたんで俺保健室行ってるわ」
「お疲れ〜」
薄情な先輩どもめ。
子猫を話題の中心にして女子トークに花を咲かせているのを背中で聞きながらドアノブに「あ、ノラちゃん!」手をかける。
…………足の裾を引っ張られてる感覚がする。
そちらにふと目をやると俺の足の裾を引っ張ってるノラがいた。
「……………え、えぇぇ」
「の、ノラちゃん?こっち来ましょう?ね?」
「ガシッ(足の裾を引っ張ってドアから離そうとするノラ)」
「ノラちゃぁぁあん!!!!!」
なんか知らないうちになついとるっっ……!
倉萩が絶望にうちひしがれてると、その横で何故か鈴姉さんも絶望している。
「鈴姉さんまで何やってんスか………」
「七城君に負けてしまいました……………」
「別にどうでもよくないですか!?」
子猫に執着し始めた女子高生は恐ろしい。
でも困ったぞ。これでは保健室に行くにも行けない。
今も血が床に滴り落ちてる現状、そろそろ貧血で倒れそう。
「あ、そういえば七城君。床が血で汚れてるから綺麗にしといて」
「部長は鬼ですか!」
部長は俺の心配など微塵もしていないらしい。
酷くね?
あ、ヤバい。そろそろ本気で倒れ………
「(バタッ)」
「宮斗君大丈夫!?」
美季の声が遠く聞こえる中俺は気絶した。
あとで部長に仕返しすると誓って。
――――――
目を覚ますと俺は保健室にいた。
頭はまだボヤけているがどうにか危機的状態は乗り切ったみたいだ。
横を見ると美季が椅子に座ってこっちを見ている。
「あ、宮斗君起きた?体調は大丈夫?」
「大丈夫だ。ありがとな心配してくれて。あのあとどうなった?」
「ノラは倉萩さんが引き取るという話で終わったよ。本人曰く部室で多種多様な生き物を飼ってるから猫の一匹二匹なら全然大丈夫だって」
「そりゃよかった」
だいたい予想通りの結果に収まったみたいだ。
全く子猫一匹の飼い主を見つけるために出血多量で倒れるとか割に合わない。
「そういえばさ、どうやって俺をここまで連れて来たんだ?流石に美季が担いだわけじゃないだろ?」
「それはあのあとに静香ちゃんが部室に来てね……」
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『今戻りましたー…て七城どうしたの!?ていうか血だらけ!』
『あ、静香ちゃん!七城君を保健室に連れて行きたいんだけど頼めないかな?鈴姉さんと倉萩さんはここぞとばかりに子猫とじゃれあっているし実那ちゃんはオロオロしているし阿賀野さんに限っては罪悪感のあまり逃げだしちゃって静香ちゃんしか頼りがいないの!』
『えぇぇ何そのカオス!皆薄情すぎでしょう!遠野はどうしたのよ』
『遠野ちゃんは風邪で休みだよ』
『あぁもう!それじゃ背負って行くから私に任せなさい!』
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「え、やだ……峰入イケメン………」
「それ本人に言ったら怒られるよ?」
峰入が部室に来ていなかったら本気で俺の命は危なかったみたいだ。
たまの思うけど皆の俺に対する扱いひどくない?
「でもまぁ美季もありがとな」
「え、私何もしていないよ?」
「ずっと傍にいてくれてたんだろ?見捨てずにいてくれて助かったよ。ホントにありがとな」
「……………う、うん…」
…………は、恥ずかしい…。
こういうセリフはイケメンが言ってこそ決まるのに俺が言っても何も意味が無いだろう。
恥ずかしくて美季の顔見れねぇ………。
「ま、まぁこれの埋め合わせは今度するからさ!待っててくれ」
「………………うん。あ、ありがとぅ………」
このあと30分は気まずい状況が続いたという。
次回 『自販機編』




