PART5.猫
「オウマせんぱ~い。一緒に行きましょう!」
「お前に恥じらいというものはないのか………?」
「私にとってこれは恥ではありません!」
今日は何事もなく授業が平坦と終わりさあこれから部活に向かおうと廊下を歩いていると遠藤に見つかった。
遠藤が大きな声を出すために周りの視線がこっちを向く。
この前の今日であんまり目立つ行為はしたくないのに……。
ほら、なんか聞こえてくる。
「あいつって確かこの前二原様と話をしていたやつだよな……?」
「クッソリア充が………!」
好き放題言ってくれるなおい!
そこへ美季がやってくる。
「あ、風ちゃんも一緒だったの?」
「宮斗先輩の隣には常に私がいると思ってください」
「授業というのがある時点でそれは難しいと思うけどな!」
彼女は学年という隔たりがあることを知らない。
周りの男どもの妬みの視線を俺だけが浴びながら部室に辿り着く。
いつも通り鍵を開けて室内へ。室内に入るといつもとは若干違うところがあった。
「あれ?窓開いてる」
いつもは部活動が終わったあと必ず窓を閉めているのだが開いていた。昨日は閉め忘れたのだろうか。
とりあえず今日は閉め忘れないように気を付けいつも通り椅子に座る。美季と遠野も定位置に座る……と思いきや遠野が俺の左隣の椅子に座ってきた。
「遠野?なんで俺の隣に座ってんの?」
「世の中には気にしたら負けという物があるんですよ」
「これは気にするところだろう!?」
「風ちゃん……何をしているのかな?」
「上原先輩には譲りませんから!」
「……………っ!」
美季が顔を真っ赤にする。
美季と遠野が話すといつもと違う美季が見れて新鮮なんだよなぁ。なんでいつもと様子が違くなるのかわからんけど。
俺は美季と遠野のやり取りをスルーし、鞄から勉強道具を
「ミャアァ~」
取りだそうとした瞬間鳴き声が聞こえた。
美季と遠野も会話を止める。
今聞こえたらおかしい鳴き声が聞こえた気がするんだけど……気のせいか?いやでも美季と遠野も反応しているということは気のせいじゃないんだよな………?ということは残りうる可能性は………。
「遠野、声マネ上手くなったな」
「今のを私の声マネと判断するんですか!?」
「さすがだよ。次は犬の声マネかな」
「上原先輩まで!?」
「ミャアァ~」
「「「………………………」」」
恐る恐る鳴き声が聞こえた方向を見る。そこには、棚の隙間から這い上がってきた猫がこっちを見ていた。
「ミャアァ~」
「「「なんで猫がここにいる!?」」」
鳴き声の元凶は紛うことなき本物の猫だった。
なんで猫が室内に!?誰かが連れてきたとか!?
その猫は白色の体で少し土がこびりついてる。
「もしかして窓開いてるからそこから入ってきたのかな?」
「あぁ、マジか。校内をよく誰にも見つからずに通れたな」
「首輪が無いということは野良猫でしょうか?」
3人寄れば文殊の知恵ってね。3人集まって対応策を考える。少なくとも飼い主がいるって訳ではないのは確かだ。
とりあえず……………
「猫さ~ん、こっちおいで」
「宮斗先輩ダメですよ。そんなやり方じゃ怯えますよ」
「野良猫はそんなヤワな根性は持ってない!」
「猫に感情論押し付けたらダメですよ!」
必死にこっちに来るよう呼び掛けるが警戒をしているのかあまり近寄ってこない。ぐぐぐ………!物分かりが悪い猫だな。
あれ?心無しか猫が少し遠ざかった気がするぞ。
今度は美季が歩み寄っていった。
「猫さん、怖くないよ~こっちにおいで」
「(シュバッ)」
「きゃっ」
美季が呼び掛けた瞬間猫が美季の胸にダイブ。
美季は優しく猫の頭を撫でると猫が気持ちよさそうにする。
「…………………泣いてもいい?」
「だ、大丈夫ですよ!私がいますから!」
次の瞬間今度は遠野の胸にも飛びこんだ猫。
遠野は慌てながらもそれを受け止め表情を和らげる。
猫は今度は俺の方を見た。
そして猫は俺に向かって飛びこんだ。……………顎に向かって。
見事に顎にクリーンヒットし痛がる俺。猫はいつの間にか美季に抱かれていた。
「俺もう帰る!(ダッ)」
「あ、ちょっと!」
俺絶対嫌われてる!顎に頭突き食らわせる猫なんて聞いたことねぇよ!
俺が頭を抱えてどうしてやろうかと悩んでいると部室のドアが開いた。振り返るとそこには阿賀野先輩と鈴姉さん、相川がいた。
困惑した表情で阿賀野先輩が聞いてくる。
「その猫どしたの?」
「開けっ放しにしていた窓から入ってきたみたいなんですよ」
「あぁ、あれね。昨日皆が帰ったあと一人で毒物作ってたら匂いがすごいことになったんで丸一日換気しようと思って窓を開けっ放しにしたときね」
「昨日何してんですか!?」
「半分冗談よ」
「どこまで冗談で!?」
「『毒物作ってたら』の部分」
「それが冗談なのは知ってたけどそれはそれで昨日いったい何をしてたのかすげぇ気になる!」
窓が全開になってた元凶が目の前にいた。
逆にその匂いの中よく猫は入ってきたもんだ。猫にとってはいい匂いだったってことだろうか。
そんな中、相川は遠野と一緒に猫を覗いているが鈴姉さんはずっと固まっていた。
「鈴姉さん?」
「…………………ね」
「ね?」
「猫だぁぁあ~~~!」
鈴姉さんは叫んだと思ったら猫に抱きついていった。
美季から横取りした猫を胸に抱きよせ幸せそうな表情をする。そんな中俺たちは突然の鈴姉さんの行動に目を丸くしていた。阿賀野先輩だけは溜め息をついている。
「阿賀野先輩。鈴姉さんっていわゆる」
「She is like 猫」
「せめて猫も英語にしてください」
「そう、猫フェチよ!」
「フェチの使い方間違ってます」
この会話で理解出来たのは鈴姉さんが恐ろしく猫好きだということ。意外だ。ものすごく意外だった。
あのいつもの年上の風貌をしていた鈴姉さんが今では幼い子どもに見えてきた。
今も鈴姉さんは猫に頬擦りしている。
そんな鈴姉さんが突然こっちを見てきた。
「この子、ここで飼うのはアリかな?」
「どんだけっすか……」
鈴姉さんの普段見せない上目遣いに俺と阿賀野先輩はたじろぐ。破壊力がありすぎでまともに見れない。
きっと鈴姉さんはこの部室で飼いたいと言っているのだろう。でもここは仮にも校舎だ。それはかなり難しい。
「鈴姉、いくらなんでも部室で飼うというのは難しいわよ」
「それなら、私の家で……!」
「鈴姉のお母さんが獣嫌いじゃなかった?」
鈴姉さんのキャラが壊れてきてる気がする。
それにしても鈴姉さんのお母さんて獣嫌いだったのか。それじゃあ飼うのは難しいだろうな。
その現状に肩を落として悲壮な表情をする鈴姉さん。
今日の鈴姉さんは表情豊かすぎる。
「七城君はどうかな?」
「こっちはペット禁止のマンション暮らしですから無理ですよ。美季もお隣なんで無理です」
「そっかぁ、私の家もちょっと難しいのよねぇ。遠野さんと相川さんは?」
「私は既に犬を飼ってるので厳しいですね」
「…私も先輩と同じマンションだから無理です」
ということは全員無理だということになった。
どうするかなこの猫……?
あれ、そういえば相川なんか言わなかった?
「相川、お前同じマンションだったのか?」
「です」
「初めて知った………」
「それじゃ他の人に引き取ってもらえないか聞くのは明日にして今日はノラちゃんにじゃれますか」
「ノラちゃんとは」
「野良猫だからノラちゃん」
「めっちゃ単純!」
「それにほら、もうすでに………」
阿賀野先輩が指したほうを見るとそこでは猫とじゃれあってる鈴姉さんの姿がいた。
この光景を世のモテない男どもが見たら猫を羨ましがるという珍しい様子が見れただろう。それは猫を呪いたいほどに。
ちなみにもちろん俺は呪う側。猫だからと言って優しくなると思うなよ!
そんな俺はさておき阿賀野先輩が行動を起こす。
「というわけで恵さんカモン!」
「何ようでございましょうか」
「うおっ!?なんかメイド出てきた!」
「リアルメイド来たぁ~!」
「…風は反応しなくていい」
「実那ちゃん厳しくない!?」
阿賀野先輩が指をパチンと鳴らしたと思ったらどこからかメイド服を来た女性が現れた。それも金髪美人+巨乳。どこのパーフェクトメイドよ。
そのメイドに対して遠野が過剰反応を示していたのが少々気になった。てかマジでどっから現れたメイド。
「紹介するわ私のメイドの恵さんよ!」
「お嬢様のご友人の方々ですね。白石恵です」
「こ、こちらこそ……」
「よ、よろしくです」
本物のメイドについ他人行儀になってしまう。まさかリアルで味方拝める日が来ようとは思わなかった。
忘れがちだけど阿賀野先輩ってホントにお嬢様なんだな。普段の行動が全然お嬢様じゃないもんだから忘れてしまう。
「というわけで恵さん、猫用の……」
「お手入れ、トイレ、食事等の物は全てご用意しております」
「さっすが!」
「メイドすげぇえ!」
恵さんはどこで聞きつけたのか阿賀野先輩に頼まれる前に既に準備が出来ていた。
能力高いなおい!
そこで美季が阿賀野先輩に質問をする。
「メイドってこれぐらい出来て普通なんですか?」
「どうだろ?ただ昔は恵さんに家庭教師して貰ったりクルーザーを運転してもらったり不良に絡まれた時は全滅させたりしたわねー。あと料理は超絶品!」
「お褒めに預り光栄です」
「それはメイドの限界越えてるんじゃないですか!?」
美季のツッコミには俺も大賛成だ。
どこの完璧超人メイドだよ!人間離れしてるぞこの人!
実は人外でしたパターンは無しの方向で。
鈴姉さんが猫じゃらしを持ってノラに近づく。
「は~いノラちゃん。魔法の杖ですよ~」
「俺には猫じゃらしにしか見えないのは果たして幻覚でしょうか。そこのところどうですか美季」
「え?え~と、照れ隠し……とか?」
「何の!?」
鈴姉さんがすっかり脱力しきった顔をする。
こんな鈴姉さんを他のやつらに見せる訳にはいかない。
なんで、と言われたら貞操の危機、と言っておこう。
「こりゃあ早く飼い主見つけないといけないな」
サブタイトルに私怨があったりなかったり




