表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷走部は今日も騒がしい。  作者: りん
第1周期
5/11

PART2.勉強会(2)

俺は思いっきり叫び心を落ち着かせたあと再び部室に戻る。もとろんトイレには行かない。もともと行くつもりはなかったから。

そして部室のドアを開けると、そこには最後に見た光景とは違う様子が見てとれた。

皆が座って勉強していたはずの机には峰入と遠野が向かい合って座っている。その目の前にある机には紙が裏返しに置かれていた。他の相川と阿賀野先輩、鈴姉さんは別の丸テーブルに3人で囲って勉強しており美季はまるで監視員のように立って峰入と鈴姉さんを見下ろしている。



「え~と美季、これいったいどういう状況?」

「あ、宮斗君。要約するとね、静香ちゃんと遠野ちゃんがずば抜けて頭悪いということがわかったから」

「「うぐっ!」」



美季のさりげない言葉のナイフに見事心臓を刺されたバカトップ2。美季の何気ない毒舌、これぞ美季クオリティー。



「とりあえず簡単なテストをして実力を計ろう、ということになったの」

「テスト問題なんてどっから?」

「問題用紙に出題されてるのを引き抜いて10問だけ。ちなみに科目は歴史」

「なるほど。主にどういった問題が苦手なのかを把握しようということか」



納得いった。そして二人の監視役に天才の美季が任命されて残りの3人がまた変わりなく勉強再開って流れね。

それにしてもその解く側の二人が心臓を刺されて顔を青ざめているが大丈夫なのだろうか。

…………うん。大丈夫だな。この二人だし。体力は無駄に持て余してるはずだし。

美季がストップウォッチを構える。



「それじゃ、開始するよー。制限時間は15分間。始めっ」

「「………(バッ)」」



二人同時に問題用紙を捲った。

10問で15分間、バカの二人なら一般より時間がかかるだろうことを見越しての時間だろう。

二人とも問題用紙を表にしたあとシャーペンを手に取り構える。そして同時に名前の欄に一筆目を書こうとした


ボキッ


が、力の入りすぎか芯が折れて床に転がった。

部屋に何とも言えない沈黙が訪れる。



「……………思いっきり出鼻挫かれたなぁ」

「「…………!(カチカチ)」」



二人とも顔を羞恥で一瞬赤くしたが気を取り直してシャー芯を出して再び書き出す。今度は芯を折ることもなく順調に進んでいく。むしろ若干ながら自信ありげに見える。

そういえばどんな問題をやっているのだろうと思い余ってる問題用紙を手に取る。そこでザッと問題を読む。

そこで用紙の一点に目がいく。



『中学で習う歴史』



中学生の問題を必死に解く高校生を俺は始めて見たかもしれない。

いやよく考えてみよう。この二人はバカだ。それは間違いない。なんたって片方は三角形の面積すらできないのだから。

だからわざと問題の難易度を低くしたのかもしれない。

俺は問題の1問目を見る。



『推古天皇の摂政となり、政治を行った人物を答えなさい。』



普通に考えて答えは『聖徳太子』だろう。というかそれ以外の答えが見つからない。でもこの二人のことだからなー。もしかしたら



「『織田信長』なーんて書いていたりして――――」

「「………………………!(消しゴムを手に取る)」」



なぜ自信満々にその答えを書いたのか非常に気になった。

まず時代さえ違うだろうに、どんな思考回路を持ってるんだろうな。将軍と摂政は別物だぞ。

二人は消しゴムで消したあとペンを持ったまま固まった。

おー悩んでる悩んでる。

そんな風に高みの見物を決め込んでいると隣の美季に責めるような目で見られた。

うんテストの邪魔をしたのは悪かったと思ってる。でもいくらなんでも織田信長は無いんじゃないかな?



「宮斗君、できるだけ静かに」



とうとう美季に注意されてしまった。すんません。

そうして待つことしばし。峰入と遠野が問題を解き終わる。

ときどき白目を向いていたりシャーペンを使っているのにサイコロみたいに転がしていたりしていたが大丈夫だろうか。

聞くまでもないな。明らかに大丈夫じゃない。

美季が二人の答案用紙を回収している間峰入と遠野は目を瞑って正座して(椅子の上)まるで判決が下るのを待ち構えているかのようだった。



「美季、答案用紙プリーズ」

「見るの?」



美季が不安そうに答案用紙を俺に渡してくる。

俺は見てたぞ。答案用紙を見た瞬間顔を歪めていたのを。

嫌な予感を抱きつつ答案用紙を見る。

そして目を通しているとある部分で目が止まる。



「まず遠野からいこうか」

「ど、どうぞ」



遠野が目を閉じながら答える。どうやら覚悟は出来てるらしい。

よし、ならば残酷な現実を突きつけてやろう。



「猿野 風って誰?」

「……………はい?」



遠野が予想していなかったのか素っ頓狂な声を出す。

俺が持つ答案用紙には自分の名前を書く欄があり、二人ともご丁寧に記入しておりました。ただし、『猿野 風』と書かれていたが。



「見ないでくださぁあい!!」



遠野が俺から答案用紙を奪って隅で縮こまる。何も養護できねぇな……。

と、そこへ相川が近づいていく。お?慰めるのかな?と思い目の前で繰り広げられるであろう青春を傍観する。

相川が猿野、いや遠野の肩を叩いた。遠野が救いを求めるような表情で相川を見る。



「み、実那ちゃん…………!」



なんだこれ。なんのドラマでしょうか?

相川はそんな猿…遠野に慈悲の心で一言告げた。



「ドンマイ猿野(・・) ()ちゃん」

「実那ちゃあぁぁあん!?」



違った。慈悲なんて一ミリもなかった。

相川の貴重なSを見た件については俺の心の内にそっとしまっておこう。

見事に止めを差した相川は満足げにテーブルに戻り勉強を再開する。一方遠野は止めを差されて地にひれ伏した(比喩表現)。

すまん遠野よ。俺はフォローできそうにない。俺もさっきまで名前をわざと間違えていたからな………!

さてと、遠野は後回しにするとしてまだ一人残っているんだよな。



「次は峰入か」

「わ、私は名前を書き間違えていないぞ!」



さっきの光景を見て峰入は必死に訴えてくる。…………必死だなぁ。

でも確かに峰入は名前を間違えていなかった。

だが忘れてはいないだろうか。名前は大前提であって、本命は別にあるということを。

俺は問題を読み上げる。



「『1853年にペリーが黒船で浦賀に来航してきました。その翌年に日本は開国することになりましたが、その時に結んだ条約を何と言うでしょう』」

「ピレネー条約」

「んなわけあるかぁぁあ~~~!」



驚いたよ!いったいどこからそんな条約出てきた!?

絶対に日本に関わりのない物であることは確かだな。



「確か1659年のフランス・スペイン戦争の終戦条約だっけ?」

「なんで知ってんの!?」



およそ高校生でも習わないようなことをなぜかこのお方美季様は知っていらっしゃった。

逆によくそんな条約を峰入は知っていたな。ある意味凄いよホント。ちなみに誉めてはいないから峰入はドヤ顔しなくてよろしい。

むしろ美季があたふたしてないでドヤ顔してろ。



「………これは根本からなんとかする必要があるんじゃないか?」




――――――




とりあえず採点を終え無理矢理立ち直らせた遠野と峰入を加え再び勉強会を再開する。正直言ってひどかった。

どれくらい?と言われると見たら人生の汚点になるよ、と返せるくらいに。

だから今度は勉強法から変えてみよう、ということになった。



「二人ともノートを見せてくれない?」



美季の代わりに今度は阿賀野先輩が二人にノートを要求する。

美季は今テーブルの方で相川と鈴姉さんと一緒に勉強中。

驚くことにノートの整理をしようという提案をしたのは阿賀野先輩だった。

今まで落書きしていた人がまさかちゃんと考えてくれていたとは夢にも思わなかった。…………この人自分の勉強は大丈夫なのだろうか。

で、話を戻すとこの提案をしたのには理由がある。

それはノートの書き方やまとめ方を改善すれば見やすくなってより頭に入ってくるのではないかということ。

早速二人からノートを受け取り阿賀野先輩は峰入のノートから見た。

そしてなぜかすぐ閉じた。



「阿賀野先輩?」

「まず遠野ちゃん、このノートは歴史のノートでいいのよね?」

「はいそうです」

「これは何かな?」



そう言って阿賀野先輩はノートを開いて見せてきた。

ノートには歴史だけではなく数学やら古文やらとにかく複数の教科が入り交じっている。

あぁこれはあれか。いわゆる何でもノートってやつだな。

バカがよくやるやつ。ノートを提出するときに先生に怒られるやつな。



「何でもノートは厳禁…………ね?」

「ひぃっ!」



阿賀野先輩の顔が一瞬般若になってたように見えたのは気のせいだろうか。気のせいではないな。遠野がすんげぇビビってるし。

ただ遠野のノートの場合それだけじゃなくて内容が薄っぺらい。ところどころで寝たと思われる痕跡も見られるし明らかに手抜きだ。



「で、次は峰入ちゃんなんだけど……」

「(ビクッ)」



おー峰入がビビってる。これは貴重な光景が見られた。

ごちそうさまです。

まぁさっきの様子を見たらそうなるわな。というか自分のノートが異常だという自覚はあったのな。

あ、峰入が睨んできた。人の心を読めるのかね君は。



「これは何?」



そう言って阿賀野先輩が見せたノートには………とりあえず落書きだった。なんか天皇っぽいやつに卑弥呼っぽいやつとか曖昧な絵ばかり。一応歴史に沿ってはいるからセーフ……になるわけないな。

峰入は体育以外は手抜きだなぁ。



「ノートは落書きする物ではないことは知ってる?知ってるよね?」

「は、はい………」



阿賀野先輩の般若再降臨。

阿賀野先輩は人のこと言えないと思うんだけど!

さっきまで落書きしてたのどこの誰だっけ!?

恐ろしいほどに自分のことを棚に上げてる阿賀野先輩にある意味戦慄する。



「これは二人とも意識の改善からしないといけな……」

「(ドサッ)あ、」



阿賀野先輩の説教タイムが入る直前、何かの音がした。

その音のほうを見ると立った状態で固まっている相川と地面に落ちているノートが。どうやら相川が立った時にノートに引っ掛かってノートが落ちたみたいだ。

まあ特に何も問題ないだろう。



「ごめんなさい……」

「今度からは気を付けてね」



鈴姉さんが言いながら落ちたノートを拾う。

あれ?阿賀野先輩がなんか絶句してる。どうしたのだろう?

あ、そういえば………あのノート阿賀野先輩のじゃね?

落ちたノートはちょうどページが開いている状態。

鈴姉さんは何気ない動作でノートを拾ってノートを閉じようとして………止めた。ノートの中身を見て動きを止めた。



「………………久美子さん?」

「あ、そういえば今日は急用が………!」

「………………久美子さん?」

「はいぃ!」



逃げ出そうとした阿賀野先輩を鈴姉さんは声だけで制する。

あ、ヤバい。鈴姉さんのバックに般若と阿修羅が見える。人が怒ると般若やら阿修羅やらが見えるというが両方同時に見えたのは初めてだぞこれ。何も嬉しくねぇ。



「そこに正座してください」

「……………………はい」



鈴姉さんの説教タイムは部活終了時刻まで続き勉強会は無事(?)に終わった。今度のテスト頑張らないとなぁ……。






















今日、俺勉強したっけ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ