PART1.勉強会
お題は「勉強会」です。
ちなみに自分は全日全力勉強派です。
皆いつも通り迷走部の部室で各々好きに過ごしている。
俺と美季は教師に出された課題をやり、遠野と相川はテレビゲームに夢中になり、今日は珍しく部室にいる峰入はパイプ椅子に座ったまま俯いて居眠りをしており、鈴姉さんはパイプ椅子に座って読書をしている。
……………本当にこうして見ると迷走部って暇人の集まりだよなー。
まあ部活名からして暇人なのはバレるのだが。
こんな感じでまったりしていると突然部室のドアが勢いよく開いた。
「ゴメン!皆遅くなった!」
いきなり大声で入室してきたのは阿賀野先輩だった。
まあ阿賀野先輩が若干ながら遅いのはいつものこと。なぜなら生徒会の仕事を手伝わされてるらしいからだ。
一見関わりなさそうに見えるのになんで生徒会の仕事やってんだろうな?
「久美子さん、静かに」
「あ、ゴメンなさい………」
うん。これが3年同士の会話なのだから不思議だ。
まるで子どもを咎める母親のようだ。
だが阿賀野先輩は即効で立ち直り皆に向けて問う。
「皆、来週テストがあるのは知ってる?」
「そりゃあもちろんですよ」
「それがどうかしたのですか?」
実を言うと来週中間テストがある。それを忘れてはいないからこうやって課題を終わらせてテスト勉強するつもりでいたのだ。
だが阿賀野先輩の発言にビクッと肩を震わせた人が約2名。
一人は突然肩を震わせた衝撃でコマンドをミスり相川のキャラに倒された遠野。
もう一人は寝ていたはずなのに阿賀野先輩の発言に思いっきり反応を示して起きた様子を見せる峰入。
「来週テストあるの………わかってるわよね?」
「も、ももももちろんじゃないですか!」
「そ、そうです!忘れてるわけないですぞ!?」
「ゲームをしたり寝ている人に言われても説得力ないわよ」
動揺に動揺が重なり口調がおかしくなる峰入。
峰入は運動センスは抜群なのにな……。運動能力に偏って勉学が疎かになってるんだよな。
遠野は単純にバカなだけ。これ以外に言い様がない。
「と、言うわけでそんな皆さんにご提案が」
「「「「「「提案?」」」」」」
阿賀野先輩はいつものように今日の部活動内容を言う。
「テスト直前迷走部勉強会を開く!」
直前ではないだろ、と思ったのは俺だけではあるまい。
――――――
俺たちは長机にそれぞれ座りノートを開く。
席位置は俺の左隣に美季、右には遠野、その隣に相川が座っている。俺の正面には鈴姉さん、美季の正面に峰入、そして遠野の正面に阿賀野先輩が座っている。
ここで1つ疑問に思ったことが。
「遠野よ。俺なんかより美季の隣のほうがよくない?」
美季は大人しいが成績1年トップの実力を誇る。折角そんなお方がいるのだから美季の隣に座ればいいのに。
そう聞くと遠野は不満そうに言った。
「確かに上原先輩は頭がいいかもしれませんが私は宮斗先輩の隣がいいんです!」
「はぁ……。まあ教えられるところは教えるつもりだけど俺にも限度はあるからな?」
「大丈夫です!宮斗先輩に教えてもらえればきっとテストで一位とること間違いなしですから!」
「随分と大きくでたな!それ全部俺次第じゃね!?」
これは信用されてると受け取るべきか他力本願と受け取るべきか。正直言って俺自信頭いいというわけではない。あくまで平均をさ迷ってる程度。最低限必要な点数しかとっていない。
だから俺が教える立場というのは如何なものかと……。
「静かにして。勉強進まないわよ」
そこへ鈴姉さんの叱責が。そうだ、変なところで時間を食うわけにはいかない。というわけで俺も鈴姉さんに習ってペンをとり勉強を始める。
俺の左では美季が峰入に勉強を教えていた。
「それでね、この点Pが2㎝動くから……」
「むむむ。本当になんなのだこの問題は。なぜ点Pを動かす必要がある?意味のないことをして何が楽しいんだ!」
「問題にケチをつけるのは止めようよ!意味のないことって言っても私たちが言えることでもないと思うよ?」
峰入が全国の学生たちの思いを代弁した気がする。
でも気持ちはわかるぞ。現実であり得ないことをして何の意味があるんだろうな?
見かねた鈴姉さんが峰入の隣から口を挟む。
「それなら峰入さん。この点Pが自分だとするでしょ?その自分がここから決められたルートを走ってるとして………」
「あぁ、なるほど!よくわかりました!」
峰入が感激に浸る。
さすが鈴姉さん、教えるのもうまいときた。
美季を天才とするなら鈴姉さんは秀才。やっぱり教えるというのは天才よりも秀才のほうが上手なのかもしれない。
「宮斗先輩、ここ教えてほしいんですけど」
「ん?どれどれ」
遠野がノート上の一点を指差す。
そこには、図形の問題があった。
「それはまずこの三角形の面積を」
「すいません、三角形の面積の求め方をお教えください」
「…………………Pardon?」
「今やってるのは数学ですよ?」
うおぉい!遠野よ!お前は何年生レベルなんだよ!三角形の面積がわからないって相当だぞ!?それはまだ数学を算数と呼ばれているあたりじゃないのか!?
「私をなめてもらっては困りますよ。なんせこの私ですから」
「なんでそんな堂々と胸張って言えるのかが不思議でならん!」
「見た目はJK、頭脳は子ども、その名も迷探底トオノ!」
「いったい何の薬飲んだんだ!?」
おっと、遠野のペースに飲まされて全然勉強が進んでない。
おかしいな。勉強会のはずなのにむしろいつもより勉強が進まないぞこれ。
そのころ相川と阿賀野先輩は真面目に真剣に取り組んでいた。
少しはこっちを手伝ってくれ!
「遠野、あれだ。もう少し真面目にやれないか?」
「これでも真面目なんですよ?」
「マジかいな!」
あ、無理だこれ。俺の手におえない。
真顔で返されたら俺に反撃の手段は残されていないわ。
俺が諦めかけていると遠野が突然思い付いたかのように言い出した。
「あ、そうだ!もし今回のテストで全教科赤点免れたらお買い物に付き合ってくれませんか?」
「突然何を言ってんの!?」
「こういうのは成功報酬があるとやる気が出てくるんですよ。…………ダメですか?」
遠野は表情を一変させて悲しそうな表情で上目使いで俺を見てくる。うぐっ………!俺のガラスのハートが砕け散りそうだ………!
「そ、そもそもなんで赤点免れたら、なんだよ。それじゃ楽勝すぎるだろ」
「歴代連続赤点最多記録保持者である私をなめてませんか?」
「学校生活において一番いらない称号をお持ちでいらした!?」
ようするにテストでは赤点しかとらない、と。
………………よくそんなんで入学できたよなー。なんか部活動でいい成績を残してたのか?一応この学校の性質上部活動で実績がある人は評価に繋がる、とは聞いたことはあるが。
「……………はぁ、わかったよ。それくらいでいいのなら」
「え?いいんですか!?」
「遠野が言い出した話だろ。というか俺が買い物に付き合うだけって、ご褒美なのか?」
「私にとってはもったいないくらいです!」
そう言い出した途端ノートに向かって真剣に取り組み始めた遠野。何が彼女をここまで奮い立たせたのだろうか。
あ、もしかして買い物で重い物を持たせる気なのか?自分じゃ難しいからと。別にその程度なら報酬とか関係なく付き合っていいんだけど。
どうせ俺は暇人だし。
そして俺も勉強しようとペンを持った瞬間、左側から鋭い殺気を感じた。おそるおそる左を見るとジト目で睨んできてる美季の姿が。
「ど、どしました?美季」
「…………なんでもないよーだ」
俺が問うと機嫌悪そうにそっぽを向く。
いつもはほんわかなのにたまにこういうときあるんだよな。主に遠野が同席しているとき。
そんなに遠野と仲悪かったっけ?
ここからは特に問題なくしばらくは勉強が進んでいく。
やっと勉強会らしくなったな、と思った矢先、右の席にいる遠野から何かの紙が渡されてきた。
それを誰にも見られないようにコソッと取って机の下で確認する。
『鈴姉の誕生日がもうすぐ来るからバースデーパーティしよう!詳しくは後日に By部長』
阿賀野先輩のほうを見ると部長はペンを走らせている。
どうやら阿賀野先輩がこの紙を書いて順々に手渡されてきたらしい。それにしても阿賀野先輩もなかなか粋なことを考える。正直言って誕生日パーティとか高校生になってすんの?とか少し思ってしまったが人の誕生日を祝う、というのは悪くない気分だ。
たぶんあとでLINEかなんかで連絡がくるだろうからまたそのときにってことだな。
………………ん?
ここでふと考える。ある1つの考えに行きつきチラッと阿賀野先輩を横目で確認する。
阿賀野先輩はひたすらにペンを走らせていた。
だがそのペン先はまるで文字を書いているように見えなかった。
ガタッ
「あれ宮斗君どうしたの?」
「ん、少しトイレに」
俺の言葉を聞いた瞬間美季は顔を赤くしノートに向き直る。美季ってそういう耐性まだついてなかったんだなー。
という考えは頭の隅に追いやりドアの方に歩く。俺の席は部室のドアからは遠く阿賀野先輩が一番近い位置にいる。
そして俺が阿賀野先輩の横を通る寸前にノートを盗み見る。
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俺はまるで何も見なかったかのようにドアを開け部室を出る。そしてそのままトイレには行かずに玄関を出て外に出る。
そして大声で叫ぶ。
「勉強しろやぁぁあ~~~!!」