プロローグ
授業が終わり、クラスにいる生徒たちが談笑しながら教室を出ていく。だがそれは決して帰宅するためではない。
全員が部活に向かうのだろう。
この学園は死ぬほどバカみたいに部活動が活発すぎて帰宅部という存在は前世紀に消え失せている……………というレベルで存在しない。
俺ももちろん部活には所属しているわけだが…………俺が所属しているのは部活と言えるのだろうか。
部活に向かおうとする俺に声をかける人物がいた。
「宮斗くん、一緒に部活行こう」
声をかけてきた人物は上原美季。
俺の幼馴染みだ。
「おー、いいよ」
一緒に教室を出て部室に向かう。
廊下に出てしばらく歩くとそこにはカップルが見てとれる。
なぜかこの学園は部活動が活発という以外にカップル率も高かったりする。
それすなわち俺の敵というわけで…………
「全国の男どもを敵にまわすということがどういうことか教えてやろうか……………!」
「宮斗くん。全国の男性の何割かカップルだと思うんだけど」
「つまり全国が俺の敵なわけだ」
「いや違うと思うよ!?」
幸せそうにイチャつきやがって!
消ーえーろ。消ーえーろ。
「もう、恥ずかしいから行くよ?」
「バッグを持たずにどこ行くんだ?」
部活行くのになぜか手には何も持たず丸腰で行こうとしているから若干不思議だったんだけど…………。
そんな俺の発言に美季が一瞬呆けたあと、顔を真っ赤にした。
「え?あ、い、いや、その………こ、これは、あとで持っていこうと思っただけで、そ、その、決して忘れてたとかじゃないからぁ~~~~!」
そう叫んだかと思うと走っていった。
うん。あぁいう反応はなんか癒されるね。
そう思いながら部室へと向かう。
「みーやと先っ輩♪」
「オフゥ!?」
俺の背中に何かが直撃する。
いったいなんだと思い振り向くと
「なんだ。また遠野か」
「むぅ、なんだとはなんですか。折角愛しの風ちゃんがわざわざ愛に来たんですよ?」
「ちょっと待て。『会いに来た』の漢字がおかしいぞ。というか別に愛しのというわけでもない。それに部室でどうせ会うだろ?」
「ハッ。もしかして………これはいつでも会えるよ、という意で?」
「全然違うけどな!?」
背中に突進してきたのは遠野 風。
こんな感じでいつも忙しない子だが………こういうのはスルーするに限る。
そんなことをしていると美季が戻ってきた。
「今度は何も忘れていないっと………て、遠野ちゃん!?なにやってるの!?」
「ダメです!宮斗先輩は渡しません!」
「おかしい。会話が繋がってない気がする」
「ダメよ!さっさと離れて!宮斗くん迷惑してるでしょ!」
「あれ!?もしかして会話繋がってたの!?普通に会話続いてるんだけど!?」
「べーだ。宮斗先輩行きましょう。上原先輩は嫉妬してるんですよ」
「遠野ちゃあぁ~~~~ん!?」
もう俺はどうにもなれとヤケクソになりながら部室を目指す。
――――――
部室には『迷走部』と書かれた札がある。
間違いなく『迷走部』の存在をしらしめる物だが…………無くてもいいよなー。
そう思いながら入室する。
「あ、先輩方」
「おー。相川は相変わらず早いな」
部室には先客がいた。
名前は相川実那。1年生だ。
「実那ちゃん。今日も早いねー」
「いえ、先輩も早いと思いますよ」
「あれ!?実那ちゃん私は!?スルーしなかった!?」
これはいつものやりとりだから深くは突っ込まない。
相川がいつも早いのには理由がある。
それは……………。
「今日はモンハンか?」
「正確に言うとモンスターズハントです」
彼女が早く来る理由はゲームかテレビ、漫画等々。
重度のオタクで学校よりネトゲ、授業よりPUPという残念な女子高生だ。
ちなみにPUPというのはPlay Ultimate Portableの略。
この部室は広さもあり無駄に設備が整っているため高画質テレビも置いてある。
全ては我らの部長様がもたらした物だがいったい何やっでだろーねー?
「それじゃー私と対戦しよー」
「オーケー」
遠野と相川がゲームしている間に俺と美季は長机に移動。
いつも通りパイプ椅子に座り明日提出する課題に手をつけようとしたらドアが開いた。
「よー、峰入。いつも通りで何より」
「七城か。いつも通りとは?」
「いや、平和だねーと」
部室に入室してきたのは峰入静香。THE体育会系女子だ。
こいつの場合はちょっと他より動ける、とかそういうレベルではない。マジでプロレベル。
なんで運動部に入らずにこんな(自分で言うのもあれだが)異常な部活にいるのかが不思議である。
「峰入先輩こんにちはー」
「峰入先輩ちっす」
「静香ちゃん、今日は早いね」
「そう毎日毎日あったらキリがないけどな」
なぜこんな会話が発生するのかと言えば峰入は運動能力が超絶レベルであるがためにあらゆる運動部から助っ人として呼ばれることが多々あるからだ。そのせいで遅れてきたり酷いときで部活に来れなかったりするときもあった。
「峰入も断ればいいのに。めんどくさいなー」
「それは、頼られたら断るにも断れないだろ………」
「だから課題を提出し損ねる、と」
「よし遺言を言う時間をくれてやる。言え」
「いやいや事実だろ!?」
どこから持ってきたのかバットが俺の肩の上に乗せられた。
やめようか!勉強できないのは自分のせいだろうに!
どうにか説得しようと四苦八苦しているとまた部室の扉が開いた。
そして呆れたような声が聞こえる。
「…………あなたたちはいったい何をしているの?」
「いつも元気ねぇ」
「あ、阿賀野先輩に鈴姉さん。今日も遅かったっスね」
現れたるは我が迷走部の部長の阿賀野先輩と副部長の鈴姉さんだった。
ちなみに皆副部長に関しては先輩とは呼ばずに鈴姉さんと呼んでいる。その理由とは……
「皆さん元気なのはいいですけど、騒がしいのもほどほどに……………ね?」
ひえぇ!鈴姉さんの顔が般若になっとる!
そう。普段は頼れるお姉さんだが怒らせると怖いです。
「イエス、マム!絶対に迷惑をかけません!」
「もちろんですよ鈴姉さん!」
この怖い姉さん的存在からこうなりました。
ど、どうにかしてくれ…………!
そんな光景を微笑ましそうに眺める阿賀野先輩。
助けてくれよ!?
そんな俺の懇願が通じたのか阿賀野先輩は手をパンパンと叩いた。
「はい、それじゃ皆、今日も部活動に勤しみましょうか」
部長の言葉を皮切りに今日も迷走部の慌ただしい日々が始まる。