おかまとヤッた
やった、やったよ。おれは、やったんだ。カミシロはガイドを殺した。これまで何も成し遂げられなかった。それで、何かひとつでも物事を成し遂げられたことか、または別のことかは知らないが、何か達成感に満ち溢れていた。ストリップクラブに行き、重いドアを開けると、おかまは煙草をふかしていた。カミシロが煙を目で追うと、煙はゆっくりと細い蛇のように立ち上っていき、消えた。
「おかま、やったよ。おれ、やったんだ。ガイドを殺した。」カミシロがそういうと、おかまはカミシロをちらと見た。彼女には目がついていないので本当に見たかどうかはわからないが、カミシロにはそんな気がした。
「あら、カミシロちゃん、ほんとう?」おかまはどうでもよさそうにそう言った。なんだこいつは、おれは、おまえのために、ケガレを背負ったんだぞ。とカミシロは思った。
「何か飲む? 」おかまがそう聞いてきたので、カミシロはラムコーク、と言った。一杯目を飲んでもまだ全然酔えなかったので、二杯、三杯続けて飲んだ。
「ねえ、カミシロちゃん、あなた、約束覚えてる? 」カミシロが六杯目をシャツに半分以上こぼした時、おかまはそう言った。「ああ、お前とヤる約束だろ。」「ええ、そうよ。どうする? 」「もういい、なんでもいい。ヤッちまおう。」おかまが店の奥を指差した。カミシロは起き上がりそちらへ向かおうとすると、床と壁がぐらぐら揺れた。酔ってるの? とおかまが聞いた。カミシロは、酔ってない。と答えた。
ストリップクラブの奥にはドアがあった。それを開けると、悪趣味なベッドがある部屋があった。床は真っ赤で、壁はピンク色。悪夢だな、とカミシロは思った。カミシロがふらつきながらベッドにやっと腰かけると、おかまが後から入ってきて、緑色のラメが入ったドレスを脱いだ。おっぱいも尻も真っ白だった。「さあ、ヤリましょう。」
おかまがベッドに倒れこみ、カミシロがその上にのしかかる。のした白いヒキガエルの干物。そうして、何か穴に入れた。もっといっしょになりましょう。カミシロは満たされた感じがした。家の中で亡くしたジッポライターを三か月ぶりに発見したときのような、子供の時に亡くしたおもちゃを見つけた時のような、まるで、自分の取れた腕がまたくっついたような、今まであったものが無くなって、それが満たされたような感覚。もっといっしょになりましょう。何かの神話にあった、私にはあるものがあなたにはない、そこに私のものを入れてみましょう、というばかげた話もまんざら嘘ではないな、と思った。もっといっしょになりましょう。溶け合って、ひとつになりましょう。カミシロはその時もラムコークを煽っていた。
行為が終わり、カミシロは少し眠った。何も恐れるもののない、胎内に帰ったような感覚だった。起きるとまだ二日酔いが残っていて、頭が痛んだ。煙草をひっぱりだし、吸った。おかまは横で眠っていた。真っ白いおっぱいと尻を持っていた。
その時、ドアが蹴破られ、二人の人影が中をのぞいた。その物音でおかまは目覚め、布団を胸までかけ裸体を隠した。
「カミシロだな」その内の一人が声を出した。カーキ色のトレンチコートを着て、カーキ色のハットを被っていた。カミシロが頭をあげ顔を見ると、顔はビデオカメラの形をした被り物を被っていた。
「お前がガイドを殺した事はわかってる。お前には黙秘権があるが、おれたちに着いてこないことは認められていない。とっとと服を着て立ち上がれ。」その人影はそう言った。低く響く声だった。おかまが、あら、あたしじゃなかったのね。と言った。