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ガイドを殺した

 そうして、何日か過ぎた。「なんでそんなことを? 」「あらぁ、あたしが、ガイドちゃんを嫌いだからよ。」


 まったく、眠れなかった。時計はいつまでも9時35分をさしていた。どうして、時計だけは動かないんだろう。カミシロは安っぽい赤い毛布にずっと包まっていた。「できないよ。やり方がわからない。」「簡単よ。あたしたち、姿は違うけど、人間と同じだもの。包丁で胸のあたりを刺せば、死んじゃうわ。」


 おかまの店に行くようになってから、カミシロは髭を剃るようになった。顎をさすると、少しだけ無精ひげが伸びていた。「よくわからない。なんで、おれと、きみと、セックスの間に、殺しが入るんだ? 」「あたしが必要だからよ。あたしがガイドちゃんを、それぐらい、いらないと感じてるの。」


 布団から手を伸ばすと、酔っぱらって帰ってきたとき脱ぎ捨てた革ジャンが手にあたった。「いらないって、それって、つまりどういうこと? 」「あなた、質問ばっかりねえ。わかるでしょう。ガイドちゃんがいると、あたしはあたしでいられないのよ。」


 カミシロは革ジャンに手を通し、台所に向かった。シンクには酒瓶が無造作に投げ入れられていた。シンクの下には戸があり、そこを開けると、野菜を切るときにくっつきにくくするために穴があけられた包丁が三本あった。カミシロはそれを一本抜いて、ベルトの後ろ側にひっかけた。「わかった、わかったよ。少し、考えさせてくれ。わからないんだ。」「いいわよ。あたしはいつでも、ここに居るんだから。」


 カミシロはシンクの上に置かれていた、まだビンに半分ほど残っていたウオッカを飲んだ。喉が焼ける感じがした。これをペニスに感じさせられたらどれだけ慰めになるだろうと思った。


 スーパーのロゴが入ったビニール袋をぶらさげた中年の女、楽しそうに話しながら、その口を開けたまま固まっている小学生らしい男児数人、同じ格好をしたティーンエイジャーの女数人、いかにも忙しそうにブリーフケースを抱えたスーツのサラリーマン。そういうものの横を潜り抜け、クスノキ商店街へと向かった。ふらり、行く先もなく、頭をからっぽにして、散歩したかった。クスノキ商店街にも同じように固まった人たちがいる。中年の女はまだ浮いていた。おれもこうなるのかもしれないとカミシロは思った。何かを変えなければいけないと思った。クスノキ商店街を抜け、十字路を右に曲がった。公園につくと、ガイドが股を広げて座っていた。おれを探していたのか? とガイドは言った。うん。そうなんだ。おまえを殺さなきゃいけない。カミシロがそういうと、ガイドは笑った。そうか、それがお前のしたかったことかよ? とガイドは言った。ああ、そうかもしれない。そうしなきゃいけない。そうしなきゃ、おれも固まっちまう。カミシロがそういうと、ガイドはまた笑った。そうじゃないだろう、お前はただ、セックスをしたいだけなんだろう。おかまに唆されたんだろ? なぜ? とカミシロが聞くと、だいたいわかるさ。とガイドは言った。


 やれよ。ガイドは両脚と同じように、両腕も広げた。右腕と左腕が垂直になり、まるで羽ばたこうとしているようだった。いいのか? とカミシロが聞くと、いいさ、それがおれの仕事なんだ。とガイドは言った。

 

 カミシロはガイドに一歩近づいた。ガイドは少しも動かなかった。ディフォルメされたダチョウの顔から息がかかった。ジーンズの尻側から包丁を引き抜き、狙いを定めた。仮面を刺すと包丁が折れそうだったので、その横を狙った。そうして、そのまま突き刺した。冷凍の鶏肉からブロックを切り取るとき、こんな感じがしたなぁ、とカミシロは思った。血が肉と包丁の隙間から垂れてきて、地面に落ち、広がった。赤というよりは、黒かった。カミシロが包丁を引き抜くと、血がどろりと流れ出た。ガイドはその間少しも動かなかった。しばらくして、両腕とダチョウの頭がだらりと垂れ下った。

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