おかまと話した
カミシロはそれから何度もおかまの店へ行った。店のドアを開けるとおかまは、ボックス席で煙草をふかしていたり、舞台でポールダンスの練習をしていたり、または居なかったので呼びかけてみるとはーいと奥から出てきたりして、ともかく、いつでも居た。そうして、何度も一緒に酒を飲み、話した。ガイドのやつが、クリーナーがさ……クリーナーってのは……ええ、知ってる……おれは前の世界でも……それってわかるわ……いつからここに? ……覚えてないわ……そういう時間を何度も過ごした。その事をクリーナーBにバックギャモンをしながら話すと、ああ、おかまか。あいつ、おれたちの事も嫌ってるみたいで、掃除しにいくと、このままでいいって追い返すんだよな。あんまり深入りしない方がいいぜ。と言った。ガイドとはめっきり会わなくなっていた。姿が見当たらず会えなくなったという言い方もできたが、ガイドと比べるとおかまはわかりやすかったし、いつでも会えたので、カミシロもガイドを真剣には探さなくなっていた。
そうしてカミシロは、起きている事がうんざりしてきた時に眠るのだけども、その前におかまの店に顔を出す事が日課になっていた。カミシロちゃん、とおかまがラムコークをすするカミシロに呼びかけた。
「どうして、こう頻繁にあたしに会いに来てくれるの? 」カミシロは驚き、ラムコークを少し上着にこぼしてしまった。どうして驚いたのかはわからなかった。
「さあ、わからない。君と居ると楽なのかもしれない。」
「まあ、嬉しい。ガイドちゃんやクリーナーBちゃんは違うの? 」
「うん、違う。彼らはいまいち、理解しきれない部分がある。君は、なんでもおれに話してくれるから。」そうなの、とおかまは言った。
ねえ、カミシロちゃん。あたしの事好き? おかまはカミシロにそう聞いた。カミシロは答えに急した。少し考え、こう言った。好きかもしれない。ふーん、とおかまは煙草の煙を吐き出し、いつも飲んでいる透明な液体を一口飲んだ。二人の間に沈黙が流れた。カミシロはグラスが置いてあったテーブルに垂れた水滴を見つめていた。
「ねえ、あたしとセックスしたい? 」おかまがそう聞くと、カミシロは動揺し、口の中に含んでいたラムコークをグラスの中へ勢い良く吐き戻した。そうして、それを悟られないために、何事もなかったかのように、また飲んだ。
「なんでそんな事聞くんだ? 」カミシロはそう聞いた。
「やあねえ、好きっていったら、それしかないじゃないの。」おかまはそう言った。出来ないだろう、おれと君じゃ。とカミシロは言ったが、あら、おかまにも穴はあるわよ、とおかまは言った。
少し考えさせてくれ、今日は帰るよ。とカミシロは言った。あら、そう。とおかまは言った。そして、こう付け加えた。
「ひとつ、条件があるの。」なに? とカミシロが聞き返すと、おかまはこう答えた。ガイドちゃんを、殺して欲しいの。