キャラメルを賭けてポーカーをする
カミシロは自分の部屋にいた。畳の上で胡坐をかき、目の前にはトランプが広げられていた。その向こうにも胡坐をかいているやつが一人いて、そいつは真っ白い頭陀袋を全身を覆うように被っていて、背中の所で麻縄をくくっていて、こちらを向いている側にガイドと同じ仮面がついていた。頭陀袋といっても、見た目がそういう風に見えるだけで、完全な正方形ではなく、広げると人型になっているようで、手足が生えていることはわかる。頭はわからない。だから、胡坐をかいていることはカミシロにもわかった。
「さて、おれはコール。クリーナーはどうする? 」カミシロがそういうと、頭陀袋は少し考え、その胸のあたりについた仮面から声を漏れ出させた。「いい手が入ってるんだ」クリーナーは全員で三人いて、この頭陀袋はクリーナーBという。クリーナーはこの世界に迷い込んだ人間がめちゃくちゃに散らかして居なくなった後片づける役割を担っていて、本当は人間の前に姿を現してはいけない。普段は、その人間が住処にしている家の天井裏に潜んでいて、8時間シフトの3交代制で人間を見張っている。ガイドがそうカミシロに説明し、壁に立てかけてあった箒で天井をたたくと、頭陀袋が天井裏の板を1枚外し、顔を出した。これが、クリーナーBとカミシロとの出会い。
「レイズ、レイズだ! カミシロ、こりゃお前、勝てないぜ。キャラメルは足りんのか? 」クリーナーBは普段はまったく喋らない。ただ、こうしてゲームを介しているときだけ、饒舌になる。カミシロとクリーナーBは賭けをしている。クリーナーは8時間の掃除時間以外は眠っている。だから、甘いもの、中でもキャラメルが好きなのに、取りに行くことすら出来ない。クリーナーは人間にどこまでも着いて行って掃除をするから、この世界について詳しい。たとえば、珍しく若い女が入ったまま時の止まった銭湯だとか。
「おれだって今日はツイてんだ。この間の、あのなんとかいう美人と油ぎったおっさんの……」「セックス現場? 」クリーナーが下品に笑う。「そう、それ。それ以上のもの、持ってきてんのか? 」「お前が勝ったらわかるこった。」
カミシロの手はフルハウスだった。十中八九……いや、勝てるさ。カミシロはそう踏んだ。「オーケー、乗ってやるよ。開けな! 」いつか見た西部劇のガンマンを真似した芝居がかった言い方でカミシロは言った。クリーナーBはへっ、へっ、へっ。いいのかよ? と笑い、手札を広げた。「ストレートフラッシュ? おい、またやりやがったな」と、カミシロが言った。「言いがかりはやめろよ、カミシロ。お前は? 」「フルハウスだよ、クソッタレ。」カミシロも札を表にすると、頭陀袋は背中をそらせて喜んだ。「キャラメル8個だ! 毎度あり! まだやるか? 」「いや、いい。もうキャラメルがない。」カミシロがそう言ってトランプを集めはじめたときには、頭陀袋は立ち上がっていた。ケースに直すころには、天井裏へと入りはじめていた。相変わらず、変わったやつだな。とカミシロは思った。