ハンバーガーをたべた
ガイド、随分探したんだぞ。どこに行ってたんだ? とカミシロが聞くと、ガイドは悪びれもせず、お前は探してなかったんだろう、と答えた。カミシロはそんな事はない、と言おうとした。しかし、言葉を発する前、音として世界に反映させる前にガイドがこう言った。「今日はメシでも食べに行こう」そんな事をしてる場合かよ?
ともかく、やれる事も、できることもないので、カミシロはガイドに、黙ってついていった。ここはよ、ハンバーガーがうまいんだ……ガイドの言葉が耳を通り過ぎ、カミシロは腹も減らないのにメシなんて、と思った。そのハンバーガーを出す所は、中古車ディーラーの店舗にあった。「ここだよ」ガイドがそういう。カミシロは目を疑う。中古車ディーラーの店でどうやってハンバーガーを食うっていうんだ? ガイドが自動ドアの前に立つと、開かなかったので、彼は手でドアを開けた。ドアは引き戸の動きをした。前着た時は動いてたんだけどな、とガイドは言った。「なあ、ガイド、ふざけてるんなら……」カミシロがそこまで言う前に、ガイドはおい、やってるかい? と店の奥に呼びかけた。そうすると、はい、ガイドさん。少々お待ちください。という声が聞こえてきた。カミシロは自分の思っている事が言えなく、晴れない気持ちのままで居ると、奥から湿った雑巾を床に当て引きずるような音がして、大きなナマズが出てきた。ナマズは顔の所にメアンドロス模様、ラーメンの器に書いてるような渦巻きを書いた祇をはりつけて、顔は見えなかつたが、口は見えた。
「コック。ご無沙汰だね。新しい奴を連れてきたんだよ。」ガイドがそういうと、ナマズはカミシロの方向を向いた。「やぁ、人間さん。私は、コックといいます。」ナマズがそう言ったので、カミシロは、ああ、そうなんですか。おれは、人間のカミシロです。みたいな、そういう事を言った。おれはチーズーバーガーとフレンチフライ。お前は? とガイドがカミシロに聞き、カミシロはよくわからないのでおれも同じものでいいと答えた。「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」ナマズが床に雑巾を引きずるような音を鳴らし厨房に引っ込んでいく。なぁ、ガイド、どういうつもりなんだ? とカミシロが聞いた。ガイドはまあ食べてから考えようや。と言った。肉が焼ける臭いが漂い、カミシロは久々に腹が減る感覚がした。
「お待ちどう様。チーズバーガーとフレンチフライ、二人前です。」ナマズはヒレにうまくトレーを乗せてテーブルまでそれを運んできた。トレーの上には湯気のたったチーズバーガーが乗っていた。それが机の上に乗せられ、ガイドはうまそうだ、と言うと、一気に食べ始めた。仮面にくっつけるだけでチーズバーガーは一口かじられたように消えていった。カミシロもそれを口に運んだ。肉汁がたれ、チーズの酸味と甘味が口の中に広がった。おいしかった。フレンチフライも、芋の味が感じられた。「いかかですか? 」ナマズがカミシロに聞いた。おいしいです、とカミシロが言うと、ナマズは祇に隠されて見えない顔から口の端をはみ出させ、顔にしわを作り、笑顔を作っていた。
食べ終わった後カミシロが腹をさすっていると、ガイドがもう行こうか、と声をかけた。ああ、そうだねとカミシロが返事をすると。もう一度ナマズがいかがですか? と尋ねてきた。おいしかったですよ、本当に。とカミシロは答えた。ナマズはそれを聞いて、口が張り裂けそうなほどに笑顔を作った。
「どうだ? 」店を出た後ガイドがカミシロに声をかけた。「どうって……うまかったよ。」カミシロはそう答えたが、ガイドはそうか、とだけ言い、前を向いてスタスタ歩いていった。カミシロはなんとか着いて行った。カミシロは暖かい気持ちになっていた。店を出る時にも、ナマズはカミシロとガイドの後についていき、店の外に立ち、カミシロが見えなくなるまでずっと立っていた。カミシロは暖かい気持ちになっていた。ふと着ている革ジャンの袖口を見ると、ぬるぬるした鱗が一枚ついていた。それを払い落とすと、カミシロはどうでもいい気持ちになった。