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神から昔話を聞いた

 神はおれの主観だから事実かどうかは知らないが、とつけたし、ぽつりぽつりと話し始めた。この世界ではカミシロは常にひとり居るんだ。そうして、そのカミシロがやりたいこと、つまり、ポップ、いや、ガイド曰く、だけども。 と、神は笑った。 まぁ、ともかく、それを見つけると、カミシロは着ぐるみを被っちまう。そうして、世界に対する認識なんかが変わっちまうんだなあ。新しいカミシロを見ても、かつての自分だった、ってわからなくなるんだ。


 ああなると、やりたくなることはひとつ。メシを食うわけでも、眠ることでも、セックスをすることでもないんだ。ただ、自分の職務を全うすることだけが喜びになるんだ。なんていうんだろう、あの喜びっていうのは、温かいんだよなあ。共同体に自分が居るっていうのはすごくいいもんなんだよ。すっぽり自分がパズルの一ピースになってしまったような感じ。まわりを暖かい、分厚い白いゴムに包まれてる感じ。すごく、温かいんだよ。


 おれは、最初のカミシロだった。それで、世界を見て周ったんだ。そうして、色々とものがわかって、人にそれを教えたくなったんだな。そうしたら、おれは神になったらしい。そうしたら、次のカミシロが現れた。そいつはたしか、ポップかフューラーになったと思う。いや、よく覚えてないんだ。何分、白いゴムを通してみるようなものだからさ。自分の眼で見てるわけじゃないんだ。


 おれはそれを何年も繰り返した。何千年も繰り返した。何万年も繰り返した。それで、気づいたんだ。おれはもしかしたら、神じゃなかったかもしれない、と。おれはそうして、ふらふら、山に登ったんだ。一人着いてくるやつがいてね。そいつは今、麓で鍛冶屋をやってるよ。おれの事が好きらしいんだ。おれは別に、何も言う気はない。ただ、おれは、違うんだ。おれは、もうそういうものが、嫌になったんだよなあ。


 山へ登って行くうち、途中に山刀があった。何気なく手にとって、振り回したら、楽しかったよ。自分で腕をふると、枝が切れるんだ。それがすごく、うれしくって、楽しくてね。


 山頂、今おれたちがいるここに、おれは着いた。いまと同じように、陽の光がきれいだった。地面に影が映ったんだ。そうしたら、そのおれは、なんだかばかみたいに髪の毛が長くて、天使のわっかまでつけてた。だから、うっすらと、記憶をたどりに、山刀で削り落としていったんだ。すごく痛かったし、一度、一度切る毎に、また、何もない寒い風のふくどこか知らないくらい所に戻っていく気分だった。でも、おれは、おれに戻りたくて、続けたんだな。


 そこまで話し、神は少し考え込んだ。そして、最後まで話すよ。と言った。


 一番みじめだったのはさ、陽の光とは別に小さい光源があったんだけど、それ、おれの背中についてて、思うと、後光、ってやつを演出するためのものだったんだなぁ。それを切ってる時が、一番みじめだった。なんだか自分がチョウチンアンコウみたいに、そんなためだけに、光ってるみたいでさ。みじめで、いじらしくて、ちっぽけだった。


 なんとか、記憶を辿りに、線をあわせて、正面が終わったら、横、それが終わったら、ななめ、って感じで、どんどん、どんどん、削っていったんだ。血は出なかった。不思議と、死ぬこともなかった。そうしておれは今の、この、肉塊みたいな、みじめで、恥ずかしく見えるような姿になった。


 でもな、こうなるとさ、風がすごく気持ちいいんだ。自分の肌で風を受けるっていうのは、すごくいいもんだぜ。


 神は、話はこれで終わりだよ、と言った。最後まで嘘をつかなくて良かった。嘘をつくと、また少しずつ、神だった時の姿に、肉が戻っていくんだ。それを削るのはすごく痛くてね。すごく勇気がいる。それで、削ってる最中に山刀が切れなくなったりしたら最低さ。また、麓までいって、鍛冶屋に研いでもらわないといけない。そうなると、途中でまた、完全に、神の姿に戻ってる。鍛冶屋に、おお、純朴なる仔羊よ、善く生きておるか? なんて言ったりしてね。最低だよな。


 カミシロはありがとう。と言った。この事を覚えておきたいと思った。もう帰るのか? と神に聞かれ、そうする。と言った。助けになったか? と神が聞いたので、わからない、とカミシロは答えた。


 カミシロが山を降りていくとき、ふと振り返った。神は別れた時こそこちらを見送っていたが、今では日を見て、座り込んでいた。太陽に見とれているようだった。

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