表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

神から世界の説明を受けた

 カミシロが振り返ると、ピンク色の、肉塊があった。それは、居るようだった。「なんだ、また、新しいやつか。ポップがおれのとこに行かせるとは思えんなあ。フューラーにでも捕まったか? 」と肉塊は言った。肉塊は人の形をしているようだった。血こそ流れていなかったが、皮膚を厚く剥がしすぎた時出てくる若い肉で体ができていた。それは、人の形をしていた。髪もその大まかなシルエットを肉で作り出していた。肉を彫刻したようだった。


 「さしずめお前は今、こう考えているだろう。"この化けモンはなんなんだ!?" わかるさ、それぐらい。」「ああ、いや、ええ。その通りです。あんたが神? 」一応、そう呼ばれてるよ。と肉塊は言った。


 どこまで説明していいもんかなぁ、と神は悩んだ。肉塊と一緒にいる空間に耐えられず、カミシロは話し出した。「その、おれ、ガイドを殺しちまったんです。それで、フューラーさんに捕まえられて、ここに行けって。」と、カミシロは言った。「ほお、ガイド? 今はどいつがやってるんだ? その話しぶりだと、フューラーじゃなさそうだな。おれは、てっきりあいつがやるもんだと思ってたんだが。」と神は意外そうに言った。


 「あの、黄色くて、鳥みたいで、鳥みたいな仮面を胸のあたりにつけてるやつです。」「ポップか? 」「たぶん、そうです。フューラーさんも、そんな事を言ってたと思います。」


 そうか、ポップがかぁ……と、神はまた考え込んだ。おれ、とんでもない事をしちまったんでしょうか? とカミシロは聞いた。とんでもない事といえばそうかもしれないが、ない事じゃない。そうか、じゃあ、全部話そう。お前の知りたいことか、または、お前の役に立つことかは知らんが。と神は言った。


 まず、ガイドは交代制であること。とはいえ、神が指定するわけではなく、勝手にそうなる、のだということ。勝手に? とカミシロが口を挟むと、周りが勝手にそう思うようになるんだ、と神は付け足した。


 神は最初のガイドだった。最初にこの世界にいたものでもあった。あちこち歩き回り、そうして世界の事を知ったので、他の奴に教えてやった。そうしたら、ガイドと呼ばれるようになった。しかし、長い事それが続き、自分が言った事を誤解され、言い訳に使われる事がいやになり、山に籠った。そうしたら、ガイドでなくなったらしい。「おれの教えってのは、いうなら、生活の知恵、おばあちゃんの知恵袋ってところさ」と神は笑った。「長い事ってどれくらい? 」とカミシロは聞いた。そうだなぁ、千年二千年じゃきかねえなあ。あんまり数えてないよ。と神は言った。


 そして次に言いにくそうにこうも言った。世界の異形は全て、元々人だったものだと。おれも実はそうなんだ、と神は言った。元あった世界から抜け落ちた最初の人なんだ、と言った。おれは異形になりたくないです、とカミシロは言った。「いや、なっちまうんだよ。気が付くと、なってしまう。何も考えてなくてもなるし、何か考えていてもなる。ポップ、いやガイドは何か言ってただろ? 」やりたい事を見つけろって。「優しい言い方をするんだな」と神はまた笑った。


 そこまで話し終わって、神は黙り込んだ。何か考えているようだった。カミシロはこう言った。「あの、もし言いにくい事があるんなら、言ってください。おれ、ここまで聞いたなら、最後まで聞きたいんです。」そう言った。


 わかったよ、と神は言った。「おれの姿をよく見ろ」なんていうか、生肉みたいです、とカミシロは言った。「ばか、そうじゃない。全体をよく見るんだ。」あ、すみません。とカミシロは謝った。…………全体をよく見ろ? ……全体をよく見ろ? …………全体をよく見ろ? …………


 カミシロは一歩、神から遠ざかった。その姿をよく見た。シルエットを見た。朝日は神の後ろで固まったまま逆光になっていて、神の影しか見えないようになっていた。カミシロはその線を右足のつま先から左足のつま先まで追った。その後、全体を見た。日が眩しかった。


 「見覚えがないか? 」いえ、ないです、カミシロはそこまで言いかけたとき、気付いた。あの、無精な、風呂に何日も入っていないような髪型、M1A1型のジャケット、ルーズなジーンズ、不釣合いで滑稽に見えるスニーカー。その生地まで、カミシロは自分の足元を見てわかった。あれは、キャンバス生地だ。


 「わかったか? 」なんで、あんた、おれと同じ格好をしてるんです? 神って、そういうもんなんですか? とカミシロは言った。違う、と神は言った。


 「ここの世界のな、生きてるやつは、全員、元々はお前で、俺で、カミシロだったんだよ。」神はそう言った。カミシロは神が何を言ったのかわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ