フューラーのところに連行された
それからカミシロは服を着て二人のカメラ頭に着いて行った。他にどうしたらいいのかわからなかった。おかまはどうでもよさそうに煙草を吸っていた。
ストリップクラブの奥から、ポールがあるところに行き、外に出て、ストリップクラブと公園と中古者ディーラーに繋がっている交差点を左に曲がり、浮いたまま止まっている女がまだ浮いているクスノキ商店街を抜け、いかにも忙しそうにブリーフケースを抱えたスーツのサラリーマン、同じ格好をしたティーンエイジャーの女数人、楽しそうに話しながら、その口を開けたまま固まっている小学生らしい男児数人、スーパーのロゴが入ったビニール袋をぶらさげた中年の女の横の脇を潜り、自分が眠っている家の前を通り過ぎた。カメラ頭はずっと両脇に着いていた。
そうして、以前建った何に使われているかよくわからないオフィスビルの前に着いた。青い気取った服を着たやつらが両脇に立っていた。カメラ頭がそいつらに敬礼すると、そいつらもカメラ頭に敬礼した。固まったままの人間も数人いたが、まるでオブジェのように、その光景に見合って見えた。いや、ずっと、見合って見えていた。スーパーのロゴが入ったビニール袋をぶらさげた中年の女も、楽しそうに話しながら、その口を開けたまま固まっている小学生らしい男児数人も、同じ格好をしたティーンエイジャーの女数人も、いかにも忙しそうにブリーフケースを抱えたスーツのサラリーマンも、そこにある事が当然のようにずっと見えていた。ただ止まっているから違和感を感じていただけだった。全員スーツを着たまま固まっているオブジェを見て、規律があるから、やっと、法則と連続性があるから、そうわかったのだとカミシロは思った。違和感があったのは浮いた女だけだった。カミシロが浮かせた女だけだった。
カメラ頭に連れられ中へ進み、そのまま着いていった。「ここだ」カメラ頭がひとつの部屋で立ち止まった。"会議室"と書かれていた。
扉を開けると中は薄暗かったが、一人人が座っているのがわかった。一番奥の上座に座っていた。カミシロは下座に座っていた。着いたか、と上座の男が言った。カメラ頭よりも低く響く声だった。こいつらはこういう話し方しかできないのか? とカミシロは思った。
「お前がガイドを殺したそうだな」上座の男はそう言った。ええ、まあ、そうみたいです。とカミシロは言った。「なぜそんな事を? 」さぁ、わけはありません。おれ、何もしなきゃ、あいつらみたいに固まっちまう気がして。深い意味はないんです。ほんとうに。「そうか? おかまとセックスをするためじゃないのか? 」いえ、そうかもしれませんが、違うんです。それもありますけど、小さな理由と大きな理由にわけたとき、小さい方だと思います。「そうか。」上座の男はそう言い、椅子を回し振り返った。花のつぼみが人間の体にくっついているような外見をしていた。
「さて、カミシロくん。自己紹介をしておこう。私はフューラー。お前はそれだけたいそれた事をしておきながら、はっきりとした意志でやりたかったのではない、というんだな。」カミシロは花のつぼみから響く声にしり込みしたが、なんとか答えた。「ええ、そうなんです。」「だろうな、いでたちを見ればわかる。」そう言ったあと、フューラーはカミシロの方に首を突出し数秒止まった。なんだ、何を考えているんだ、とカミシロは思った。
「君、なんだ、その汚らしい粉は。とっとと着替えてこい、それから少し、話し合おう。」カミシロがジャンパーの下に着ているシャツを見ると、なるほど確かに、緑色の粉が着いていた。カミシロが払い落とすと鱗粉は埃のように舞い、地面に落ちた。おかまとのセックスも大した事はなかったな、とカミシロは思った。