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勇者の最愛はこの大陸に見切りを付けました  作者: 因果論
過去譚*零章*
26/51

挿話 ハイナスの独白 *接続章* 水晶海上空より

 *



 あの日の事を、語ることが出来るもの。それは厳密に言うともはや誰一人として残ってはいない。

 なぜならば一人は死に、一人は記憶の大半を同時に喪うこととなったからだ。


「ルーア、スープを持ってきたよ。温かいうちに飲んでね」

「……ウニャ」


 クルルが気遣わしげな鳴声を出しながら、虚のようになってしまったカルーアの身体に寄り添う。

 小さなテーブルにスープ皿を置いた後、西日が差し込んでくる窓を仰いで目を細めたハイナスは思う。

 黒炎の――クレイグの死が、養い子の少女に与えた喪失感。

 それがおそらく、人が肉親を喪った以上に大きな意味を持っていること。その精神の均衡をこれほどまでに揺らがせている、その意味についても。

 まるで、こうなることを予想していたかのように遅れて届いた小包と書簡――そこに記されていた彼らの因果。

 それを理解した今は、痛いほどにその痛みが察せられた。


 ――――けれども、それはあまりにも的外れな考察であったことを知ることとなったのが数日後。それは、夕焼けがとても美しい一日だった。

 普段通り、夕刻から起き出していたハイナスとクルル。まるで初めて『彼ら』が訪れた時のように一人と一匹とで空豆のスジ取りをしていた最中だ。ふいに背後に感じた気配に、振り返る。

 そこに、ここ暫くの間話すことは勿論のこと、動作すら放棄していた筈の少女が立っていた。


「ルーア。もう、体調は良いのかい?」


 どこか安堵にも似た、ほっとした心地でそう問いかけたハイナス。その脇をするりと抜けて、たたっと駆け寄ったクルルが甘えたように体を摺り寄せるのに、どこか俯きがちで迷うように口を泳がせていた少女。

 その双眸に、束の間過った色彩――どこか、夕暮れに似た色彩をしていた。


 違和感を覚えたのは、ほんの一瞬。掴みようのないそれに、言葉にさえならない。

 けれども、まるでその戸惑いを読み取ったかのようにゆるゆると視線を上げた少女の双眸。

 そこに、紛れもない憂いの色があった。

 そして語られる、懺悔。


「ハイナス、俺は取り返しのつかない過ちを犯してしまった」


 少女の声で語られるその言葉は、しかし嘗ての彼女のそれではなく。


「……まさか、クレイグ……」

「ああ、その通りだ」


 言い差した後は、互いに暫くの間言葉も出なかった。

 それなりに長く生きてきた者同士、相応の事では声を詰まらせるなどなかっただろう。しかし、だ。

 今回のそれは、あまりにも予想を超えた事態だった。

 それはさながら白昼夢の如し。まるで現実味がない。

 終いにはガシガシと頭を掻き始めた少女――しかしその中身は、クレイグらしい――は長い沈黙の後にようやく決意を固めたらしかった。


 訥々と語りだした言葉の先で、徐々に事実が明らかとなる。


「いや、正確には違うか……えーとだな、つまり俺はクレイグ自身とは言えない」

「は……?」

「うん、混乱するのも承知の上だ。一から説明するのも中々骨が折れるな……はぁ。改めて思うに何て厄介な……いや、今のは独り言だ」


 少女曰く。


「俺は、クレイグの獣性(リア)の部分だ。大雑把に言えば、半身と言い換えてもいい」


 翡翠色の双眸をひたりと据えたまま、告げられた内容は俄かには信じがたい。

 ただし、常識外だからといって端から否定するのは愚者の選択だ。事実、ハイナスは偽りを見破れる眼力を元より備えてもいる。軍人として目の前にいる人間の心理状態を察するのは、さほど難しいことではなかった。寧ろできなければ困る。その上で、十分すぎるほどに察しもする。

 それが偽りではなく本心から語られていることを。

 ただ、得心したかと聞かれればそれはまた別の話だ。


「…………ちゃんと始めから説明はしてもらえるんだろうね?」

「うん……出来得る限り、そうしたいとは思うよ。ただ、自分もこの身体に留まるために『代償』を払っているんだよな……。具体的に言うと、記憶の大部分を喰われた。だから正直な話、どこまで正確なところを伝えられるか分からない」


 溜息混じりに話す少女へ、ハイナスは混乱の最中にあろうとも一切目を逸らさずにいた。

 知覚できる全てを見聞きし、その上で最終的な判断をする。

 他でもない彼自身の理性がそうすることを望んでいた。


「……大部分、というからには全てではないのだろう? それならまだ希望はあるさ」


 ハイナスのその言葉に、僅かに目を瞠った少女。

 そのまま苦笑を交えて「……そうあれば良いんだがなぁ」と呟いた。

 滲む諦念を、必至に押し隠そうとしているような――――そんな痛々しい横顔で。


 少女は大きく息を吸い、それを吐き出してから訥々と語り始める。

 語られるのは、残された記憶。その一部。

 それは一人の聞き手の頭を抱えさせるのに十分過ぎるほどの『混沌』と『因果』に満ちていた。





 *



 あの時、彼女が一呼吸置いたように。

 ハイナスも一旦語りを置くことにした。

 その視界には、見渡す限り青く蒼く透き通った空。眼下には風に吹かれて幾つもの雲が流れていく。

 海上に浮遊するのは、三頭の飛竜たちと真白き焔を全身に纏わせた青年――その当人の双眸に今も混じり合うのは緋の色彩。

 それを横目で確認しがてら、ハイナスは其処にいる全員に視線を巡らせて問う。


「創世の時代から、改めて語るのは流石に止めておくよ。冗談でもなく日が暮れてしまうからね。だから、語り継がれている部分に言い足す形で構わない?」

「……それは構わないと思いますが、先生。今まで語られた内容だけでも正直な話、混乱の最中にあるといって過言ではないですよ」

「んー。じゃあ、少し小休止を挟もうか?」


 カルディアの尤もな発言を受けて、ハイナスはそれもそうか、と頷きながら再び周囲へ問い掛ける。

 しかしそれは、凍てつくような声の主――その一言で、にべもなく両断された。


「中断するなら、片翼を焼失させる」

「……昔はもう少し堪え性がある子だったんだけどねぇ。ルヴィ」


 思わず呆れ声になるハイナスへ、カルディアから『心の底から同意します』と言わんばかりの視線が向けられる。

 ここ数年に渡って、アルヴィンからの直接的被害を被りつづけてきた――否、正確には出会った当初から絶えず命の危機にさらされ続けているカルディアだからこそ、その考察に賛同する思いは余計に強かったのだろう。


「ふむ。駄々っ子が過分な力を得ると、全くもって碌なことにならないねぇ……。とは言え、翼を焼き切られるのも時間のロスだしなぁ……。皆は、もう暫く話を進めても構わない?」

「構わないよー」


 周囲の沈黙を代弁するような、飛竜の首にぶら下がったヒルトからの一声。まるでタイミングを図ったように響いたそれに、ハイナスは微かだが苦笑を浮かべる。

 ちなみにヒルトが飛竜の首にぶら下がってユラユラするたび「心臓に悪いから、控えろ」とユギ青年からの律儀な忠告が差し挟まれていた。

 そんな両者のやり取りを遠目に見守るベリル。彼は、おそらくこの場にあってハイナスの次に魔力探知に長けている。だからこそ、ポツリと本音を零さずにいられなかったらしい。


「わたし、あっちの飛竜に乗っておけばよかったわ」

「はは、尤もだ。今や僕らは運命共同体も同然だものねぇ」


 何だかんだで、話が再開するまでのこの間。時と共に、確実に上空へ満ちていく魔圧。それは端的な話、殺気に満ち溢れている。

 寧ろその純度に、恐怖を超えて感心すら覚えてしまいそうなほどに。

 そしておそらく、アルヴィンの怒りを買った際には真っ先に落とされるであろう飛竜。それは既に決まっている。

 ハイナスは元々飛竜の操法に関して不得手である為、なし崩し的に同乗することとなったベリルであったが。正直なところ、頭を抱えずにはいられない。それがこの上もない貧乏くじに等しい立ち位置だと理解しているからだ。

 ちなみにハイナス門下、弟子筋においては一番上にあたるヴァイレットは現在白猫クルルと共に、地上に待機している。さらりと、騒動後の情報収集(これは王家の今後の思惑も含めたものだろう)に努めるとイイ笑顔で告げ、上空参加を言外に躱して見せた手腕にはもはや脱帽しか覚えない。

 経験の差か、それとも先を見通す眼力の確かさか。いずれにしても向こうの機嫌一つで生死を左右される現状にあればこそ、羨ましくもなる。更に加えれば、遠い目にもなる。


「大丈夫だよ、マスター。墜ちる時は多分、全員一緒に落とされるだろうからね」

「…………相手を安心させる気のないフォローは、フォローとは呼べないのよ。ヒルト」


 別々の飛竜の翼から、そんな救いようのない遣り取りが飛び交う最中。

 その合間も、身を切るような純度の魔圧は着々と上空に立ち込めていく。

 もはや、そこに居合わせた大半が感覚を麻痺させていたと言えよう現状――――そこへ不意にパンパン、と掌を打ち合わせる高い音が響いた。


「おーい、そろそろ話を進めないと冗談では済まなくなるよ。昔語りを再開しても良いかな?」


 ハイナスがギリギリのタイミングを見計らってあげた声に、異を唱える者がそもそも居る筈もなく。

 ほんの少し焦げ臭さを感じる上空で、続くハイナスの言葉。

 それは僅かではあったが、酷薄なものを滲ませていた。


「まぁ、そうは言ってもね――――残る話は、そう長くもならない。より正確に言えば、為りようがない。現時点で分かり切っている事なんて、精々が一掴みといっていい事柄なんだからね」


 そう、本当に一握りでしかない。

 だからこそ、カルーアは旧大陸へ向けて旅立ったのだから。

 それは(かね)てからの、あの子の意思でもあり。

 そうして現在。――――ずっと秘めてきた少女の願いは、当初予想していた流れとは大きくかけ離れた形とはなったものの、こうして叶った。

 そんな安堵に似た内心を、ようやく明らかに出来る。

 ハイナスはもはや隠す気もない溜息ごと、ただ過ぎ去った歳月を思う。

『緋色』の片鱗を見たと、あの子から告げられた日から今日に至るまで。ずっと言葉にして告げられずにいた本意。

 ようやく突き付けられると思えば、胸も()くというものだ。


「ルヴィ。僕から君に伝えられるのは一つだけだよ。カルーアは今も昔も、けして君を見捨てる選択を選ばないということ。……ただし、勘違いはしないようにね。カルーアが君を伴侶として望む望まない云々とは全く別次元の話だから」

「先生、それは一体どういう……」


 思わず、といった風に疑問を零したカルディアを一瞥して。

 尚も、ハイナスは淡々とした表情を崩さずに言葉を紡ぐ。

 私情など、とても差し挟めたものではないからだ。

 あの子の決心。その重さを思えば本来この先を口にすること自体、裏切りと断じられても仕方がない。

 それでもハイナスは紡ぐのだ。いつしか、その口の端から血が滲み――それがひたひたと雲間へと落ちて尚も、語る言葉を止めようとはしない。

 それが他ならぬ、彼の意思だからだ。


「旧大陸――黎明(ホライズン)大陸(・ティーン)は、本来であればカルーアの故郷にあたる場所だ。けれども、あの子の中に残っているのは歪んでしまった『因果』だけ。この言葉の意味が、分かるかい?」


 因果――それは、焔獣の依代としての本来の在り方のことを示す。

 その因果から解放されることを嘗てより黒炎は望み、踏み出すことを躊躇わなかった。そうして齎された先。

 それはある一方では救われ、しかしどこまでも救いのない顛末だった。


 因果が歪んだ、あの日の殆どは不明瞭だ。

 今に至るまでに辛うじてあの子が語ることが出来たのも、僅かに三つのみ。

 一つ目は黒炎が発動した魔法式の暴発により、その半身――肉体の部分は死を迎え、本来の年数を経たそれは跡形もなく塵と化したということ。

 二つ目は残った半身――獣性(リア)としての意識が黒炎の肉体を離れ、傍にいた少女の中に意識を取り戻した時には既に納まっていたということ。

 そして最後に、紫炎の獣性の行方だ。

 それは、黒炎の掌があった場所――もはやその時点では塵すら風に吹き浚われて残っていない――に転がっていた刃の中へ宿っていた。

 それに気付くこととなったのは、先の二つを語ってから数年が経過した某日。

 アルヴィンの魔力暴走と、それに対処しようとしてカルディアが紡いだ『聖樹(レーラズ)加護(・ノルン)』。東の境界を大陸地図から焼失しかけた、一連の騒動の最中だったという。

 やむを得ず二振りの色彩の刃を重ね――牽制しようとしたその末に、ようやく明らかになったその事実。当時のカルーア自身、とうに失われてしまったと思い疑っていなかった紫炎の獣性を見出した瞬間、そのまま呆けてしまったのだと零した。

 それは驚きであると同時に、その時まで見えずにいた『希望』だったのだろう。

 それと同時に呼び起こされたものは、おそらく――――贖罪の念。

 それほどに、信じがたい巡り合わせの末に「ようやく見出した」と。


 果たしてその呟きが――『何』をしようと決意したものか。

 言葉にして向けられなくとも、その時に浮かべた表情一つで十分すぎるほどに分かってしまった。

 否が応でも、察してしまえた。


「どのような経緯を辿ってか、紫炎の肉体へ宿ってしまった黒炎の獣性。そして、元より一つであった筈の紫炎が刃へ封じられてしまっている現状――その歪んでしまった因果を、元々在った筈の『紫炎』としての因果へ戻すこと。その決意を抱いた時にはもう、ルーアはこの大陸に見切りをつける他に選べる選択肢を持たなかったんだ」


 カルーア。

 他でもないハイナス自身がその名を付けた少女。

 少女の本来の故郷は、旧大陸である。それは黒炎から齎された限りある情報から推察された一つの仮説。海を漂流し、流れ着いた幼子。潮の流れから考察しても、白亜諸島からここまで流れ着く可能性は限りなく低い。その末の、結論。

 異なる大陸で生まれた少女に関して、この大陸に留まって得られる情報はごく限られたものでしかない。


 そしてルーアは――少女の中の獣性は――故郷を捨てる決心を固めた。

 戻れぬ旅路と知って尚も、その決意は変わらなかった。

 揺るぎない意志をして、とうとう訪れた契機。

 まるで、こうなることをどこかで分かっていたように。


 この大陸に見切りをつけ、その先への一歩を踏み出した。


「ルーアは、紫炎の中にある『黒炎の獣性』を消そうとしている。自らが本来あった筈の場所へ戻ろうとしているんだ。すべては歪んでしまった因果を正す、その為にね」

「――――見捨てないと言った口で、滔々とあからさまな矛盾を紡ぐ。そこまで望むなら、今すぐ消し炭にして……」

「黙れ」


 冷え切った大気に、白焔の礫が舞い踊る。

 頬を掠めたそれは、常人であれば直撃しただけで即死してもおかしくない代物だ。

 しかしハイナスの表情は対照的にどこまでも凍えて、色彩を喪っていた。


「最後まで聞かなければ、後悔するよ。ルヴィ。これまでずっと共に暮らしながら、君はルーアの本質をまるで分っていないんだ――――あの子は、君の中にいつしか生じた『緋色』を危惧していた」


 僅かに揺らいだ緋色を、真っ直ぐに見据えたままハイナスは口の中に広がる血を噛み締める。その無力さに、今までも何度歯痒さを味わってきたことか分からないと思いながら。

 その双眸に普段の淡さは欠片も見えなかった。それ程に強い意志を胸に、ハイナスはアルヴィンと対峙することを選んだのだ。


 焔獣の依代は、確かに人とは比べ物にならないほどの膨大な魔力を有し、総じて身体能力も高い。個々で性格こそ異なるが、基本的に聡明な思考を併せ持つ。

 ただし、それらの優れた能を持ちうるが故の、脆さなのか。

 その精神は人のそれに比べて、繊細かつ様々な『色』に容易く染まってしまう。


「均衡を取れなくなった生物が、どのような道を辿るか。例えそれを『君』が見ない振りをしたところで、君の中の獣性――白炎(フェリア)はとうに気付いていた筈だ」

「…………」

「ここまで来て、だんまりは看過しない。潮時だよ。いい加減に腹を割って話そう」


 対峙する二人の周りに、吹き荒ぶ真白の焔。それ故に、周囲はその中で交わされる会話を辛うじて聞き取ることくらいしか出来ずにいる。

 介入はおろか、両者が今この時に浮かべている表情さえも知る術を持たなかった。


 冷え切ってゆく、大気。

 飛竜たちの羽ばたきと共に、キラキラと舞う氷の欠片は一種幻想的でもあり――

 どれ程の時が経ったのか、その場に居合わせた全員がおそらく把握できていなかっただろう。


 低められた吐息が、静寂を絶った。

 周囲を取り巻く氷の幻想を打ち砕くように、紡がれた声色は凄絶な美しさを纏う。


「――――それで? 穢れを祓う術を『黒』が例え見出したところで、『紫』がこの大陸に戻ることは出来ないでしょう。『黒』の思惑とその先に何を望んでいるかなど、とうに思い至っていました。その上で貴方は白の化身たる私へ、どのような提言をするつもりでいるのですか?」


 今生において、現状唯一の全き白。

 その獣性(リア)が紡ぐ声は、生きとし生けるもの――その全てへ例外なく、畏怖を抱かせる。

 その絶対にして不変の力は、まさに人ならざるモノが持ちうるそれであり。

 例え、どれほどの不屈の精神を持ち得るモノでも。

 例え、どれほどに強固に張り巡らせた結界があったとしても。

 ――――全てを、零に帰すほどの酷薄さを纏っていた。


 耐え切れず、膝を付く音が、その耳朶を打つ中で。

 己が足。それを刃を以て貫き通した痛み一つ。ただそれだけを支えに、ハイナスは『神の炎』を眼前に尚も立つ。


「提言? いいや、そんなものは必要ないし、端からするつもりもない」

「――――愚かな。しかしその並外れた気概、ただそれのみは讃えてもいい」


 凍てついた顔に、ほんの僅かに灯ったのは慈悲にも似た色だ。

 けれども、緋色が入り混じり、一種の狂気を宿す双眸には躊躇いがない。


 ――――我が焔にて、瞬きの間に、真白き灰となることを許そう。


 その囁きと共に、瞬く間に燃え上がった真白き焔。

 それは美しくも、残酷な、逃れ得ぬ死の焔そのものだ。

 伸ばされた指先から、人の知覚できるそれを遥かに上回る速度で放たれたそれは――――


 前触れもなく、満開の花びらを散らすように、散らされた。

 消失、した。


 周囲が声を喪い、呆然と見つめる先。

 そこに在るのは、ただ一人の背。

 蜜色の髪を凍てついた風に揺らし、神の炎を前に尚も、不敵な笑みを口許に浮かべていた。

 積み重ねた数々の戦績をして、軍神と恐れられたただ唯一。

 その男は、目にも留まらぬ速度で振り抜いた刃をゆったりと正眼に構え直し、告げる。


「――――本当の愚かさを、知らぬものが安易に『愚か』などと口にしないことだ」


 その眼前。

 凄絶な笑みを覗かせた白の化身は、その白皙の面に柔らかな艶笑を覗かせて、嗤う。


「――――ほぅ。これは面白い」


 掲げられたその刃は、目も眩むほどの『白銀』の色彩を宿していた。


※ご報告※

新章をスタートする前に、あと2エピソード分の過去編投稿を予定しております。

今暫く、零章にお付き合いいただけると幸いです。

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