5.もやっといらっとぐらっと
「やーまじ聞いてよ爽太ぁー」
「ん?風音?どしたよ」
「いらーってさ、するんだよ」
「あ、澪?」
「そー!なにさあのにやけ顔。
女子に囲まれてさー、にやけかかって、普段のこの世に絶望してるみたいな顔と大違い」
「随分観察してますねぇ~」
「悪いかっ」
「いや、恋してるって感じでいいんじゃん?」
中野爽太、僕の恋の相談相手
別に信用してるってわけでもない、恋で悩んでた時にそれを当てられて、そのままの流れで恋バナをするだけで、あくまで友達だから。
っていうのも、いつも喋ってるからかからかわれるようになったりする。
すごい思わせぶりな性格の持ち主で、澪とかぶるところもある。
そんなのもあってちょっと信じちゃうのかな、って思って揺らいだりとか。
(ほんっとばかだよなぁ、僕も)
一途な片思いかと思ったら結構揺らいでて、そのくせに好きな気持ちを忘れられないなんて…
「ほんとわがままだよなぁ~」
「ん?何が?」
「だってさぁ~、僕彼女じゃないんだよ?
なのに嫉妬してイラついてるとか、ほんとさー、わがままだよなぁって」
「しょうがないんじゃん?」
「なんでー?」
「嫉妬するってことは、それだけ一緒にいたいって思うってことじゃん?
例え彼女じゃなくても、それだけ風音に想われてる澪、ちょっと羨ましいよ」
「でも、さ?好きじゃない人に好かれるのって、ある意味じゃ迷惑なことじゃない?」
爽太は一瞬悲しいような驚いたような顔をした
(え、なに?)
「このネガティブの塊め」
「え…?てか…は?」
「そゆこと考えるからだろっ?
とことん前向きに考えろって!」
「それが行き過ぎると妄想っていうんだよ?」
「妄想世界に生きろ~
それを実現するんだよ」
「不可能だわ」
「ははっ」
軽く笑う爽太は、ほんのちょっと前とはまるで別人だった
(さっき本気の顔だったよね)
常に適当のど真ん中を歩くひとだけど、たまに本気っぽい顔でいいことを言ったりする
別に惚れないけどね。
そのギャップも澪と似てる。
(どんだけ澪の身代わり探してんだよ…まじ最低だな、自分)
爽太と話していた教室から廊下に出ると、まだ例の集団はいた
(世の中って残酷の塊だな)
そんなことを考えながら澪の横を通ったとき、聞こえた気がした
「俺今好きな人いないよ?これまじで」
僕が大好きな澪の声で。