4.君の色
「あーおいっ」
「んーはるどしたー」
「このポーチむっちゃ可愛い~」
「ありがとー」
はるから好評化をもらったのは、僕が学校で使っている黒とピンクのポーチのことだった。
「葵って、この配色のもの多いよね」
「この配色好きなのよ」
「ふぅ~ん…なんか理由あるの?」
「いや、ない…よ?」
「ふぅ~ん…」
いや、実は大アリだけど。
「えー今なんて言ったー?この配色に意味がないって言ったぁ~?」
「言ったよ?」
「えー意味ないってぇ~?嘘つけぇ~」
この語尾を伸ばす喋り方なのは、未緒だ。
超イケメンウーマン、1年の時澪と同じクラスだったのもあり、かなり仲がいいらしい。
色々羨ましすぎる…
夏休みが明けてしばらくたって、9月か10月の上旬だったと思う。
部活が終わり日が暮れても、まだジャージの短パンで快適に帰れる気温だった。
部活の練習をしているグラウンドから門のほうへ行くと、学校の正面で人だかりができていた。
もう真っ暗になっていて、明かりは街灯程度だったけど、楓の声と姿が見えた気がして、とりあえず近づいた。
そこにいたのは、楓と澪と、さらに未緒とその彼氏、そのほかにも数名、全員1年生だった。
楓が誰かに向かってにやけ顔で「抱き付いちゃえ」と連呼していた。
恋バナが大好きな楓にとっていつものことだったけど…。
どうやら楓に急かされているのは未緒とその彼氏らしい。
中学生の交際とはすごく控えめなもので、交際しているという事実があって、恋人関係にあっても、みんなの前でくっついたり、誰もいなくても恋人らしいことをできるものではない。
お互いに好きだということをわかっているからこそ、恥ずかしくて素を出せないものなのだ。
言われている彼氏のほうはというと、照れ混じりににやけていて、未緒は「やぁ~無理だからぁ~!やめてよぉ~」と繰り返していた。
盛り上げ役の澪はひゅーひゅー言いながら彼氏のほうに「抱きしめちゃえよ」と耳打ちしていた。
「ねぇ~あと1.2.3歩だよ?三つ数えてぎゅーしちゃえって~」
「やめてってぇ~そんなこと言われたってできないもん~」
「未緒とあの人って付き合ってんの?」
「え、なに知らなかったの?やだ葵時代遅れ~」
「時代遅れで悪かったね、楓と違って情報屋じゃないんですよ」
どうやらほかの人たちも、その姿を面白がって残っているみたいだった。
「あっ、真っ黒い人」
「は?俺?」
夏祭りの時黒い服を着ていて、腹黒いことを知って以来、真っ黒い人と呼んでいた。
当然名前は知っていたけれど、なんか似合っている気がした。
「なんで超心が美しい真っ白な俺が真っ黒とか言われてんの?」
「どこが真っ白やん。真っ黒、どす黒いよ」
「いやぁ~残念だけど俺今日Tシャツピンクなんだよねぇ~」
澪の部活の男女共通Tシャツをジャージのチャックを開けて見せてきた。
黒も似合うけどピンクも似合うな、なんて思いながら次の名前が付いた。
「んじゃ黒ピンク。良くない?響き」
「何で黒は残るの。俺の純粋な心見たことないだろ」
「ないから見えないな」
「まぁいいもん、俺ピンク好きだし」
「女々しいね。もしかして女なのかな?」
「違うからな!俺思いっきり男、下ついてるから!」
「そんなの聞いてないし」
「やぁ~でもさぁ、黒も好きだしピンクも好きだよ?でもね、白も好きなの
白もいれてくんない?」
「白が見受けられないから入れれないねぇ~」
「やぁ~ケチぃ~」
毎回のごとくの無意味な会話。
これが、僕が黒とピンクの配色を好きになった理由。
その名前を付けた時から好きだったわけじゃない、澪に恋をしてから…。