出かける事になった男の子二人との会話
買い物をしようとドアを開けて外に出ると、
たまたま側を通りかかった二人の男の子(中3と中2)が笑顔で駆け寄って来た。
一人は宇潮君で、もう一人はその弟の生示君。
兄である宇潮君が先に口を開いた。
「お姉さん、俺とこいつ、今日の昼から家に帰るからね。」
「そうなの…って事は今日でお別れじゃないの!」
彼ら二人は、実家の両親がこの近くへ引っ越す事になったので
自宅から通う事にしたのだった。
「そうそう!やったねー!」
「マジよかったー。」
無邪気に喜ぶ二人。
でも私としては、せっかく仲良くなれたのに少し寂しい。
「もー、二人はそうかもしれないけど、私は寂しいなぁ…。」
「俺らは別に寂しくないよな。」
「なー。」
と意味ありげに私を見て笑い合う二人。
彼等の言葉を聞き流し、私はしばらく無言で考えていた。
「お姉さん?どうしちゃった?」
生示君が急に静かになった私を見て、心配そうに声をかけてきた。
私の中にある考えが閃き、彼らの前に右手を差し出した。
「えっ何?」
二人が首を傾げた。
「二人とも握手しよう、お別れの。」
「はぁ?」
「だって私、最後は皆と握手してお別れしようって決めてたんだ。
まぁ、皆忙しいから全員とは無理だと思うけど。」
「げっお姉さんと握手なんて嫌に決まってるだろ!」
笑いながら言う宇潮君に、
「そうだそうだ!握手する為に先生とか使ったら殺すのけってーい。」
と、生示君。ちなみに先生とは寮長の事である。
「はぁ、先生なんか使わないわよ…何を今更、
普段散々ぶつかって来たり取っ組み合ったり腕相撲したりしたじゃないの、
手を一瞬握るぐらい減るもんじゃなし」
「あー減る減る、俺ら準備があるからもう行くぜ。な!」
「うん、じゃーね!」
やれやれと思い、
彼等がいよいよ出発すると言う時に見送りぐらいしてやろうと近付いた。
「もー何だよ」
靴紐を結びながら口を開く宇潮君。
「何だじゃないわよ、二人とも嫌なのはよく分かったけど、
ちょっと大人の気持ちになって、握手するの一瞬ぐらい我慢してよ。
…最後なんだから。」
二人が目を見交わす。
「あーもー仕方ないなー…言うか?」
呟いて目配せをする宇潮君。
「あぁ、しゃーねー。」
「あら、握手してくれる気になった?」
「…大丈夫だから。」
「ん?」
「明日の夕方帰って来るから大丈夫だって!」
「!」
「じゃね!」
「じゃー。」
二人は楽しそうに小走りで出掛けて行った。