さようなら、皆大好きよ
冬。彼らとお別れの日がやって来た。
海外に住んでいる私の両親が突如体調を崩してしまったので、
帰らなければならなくなったのだ。
本当に突然だったので、
私が担当していた子にしか伝わっていなかった。私は前々から
「皆とお別れする時は、握手して笑顔でさよならしよう」
と思っていた。
しかし私にとってはお別れの日でも、
彼等は普通に学校がある。朝から皆忙しそうだ。私はすれ違いざまに男女問わず
「握手してもらっていい?」
と言いながら、握手をしてもらっていた。何も知らない小さい子に
「皆元気でね、行ってらっしゃい」
と言うと、彼等は握手しながらも不思議そうに
「何だかお別れの言葉みたい…」
と言っていた。
次は私が担当していた子達である。
素直に手を握ってくれる子もいたし、
照れくさいのか、笑いながら行ってしまった子もいたし、
私が伸ばした手を握る代わりに、軽く叩いて行ってくれる子もいた。
しばらくして、彼方くんがホッカイロを手に出て来た。
「ね、握手して貰っていい?最後かもしれないんだし、さーさー」
私が笑いながら手を伸ばすと、彼も笑いながら、しかし手を握ろうとはせず
「やっぱお姉さんにやるんじゃ無かったな、MD返せ!」
と言い始めた。
実は昨日、彼と二人きりになった事があった。
その時、彼は自分の好きな音楽のグループについて語ってくれたのだが、
私がそのグループを知らないんだと言うと
「これやるよ」
と、MDを差し出して来た。
MDには彼が語ってくれたグループの歌が入っていると言う。
「えっ嬉しい!」
私のあまりの喜びように彼は面食らったようだった。
「でもそれ、安いんだよ?」
「何言ってんの!こう言うのは値段じゃないのよ!!」
そこまで言って、ふと不思議に思った。
「それより突然どうしたの?気を遣わなくていいよ?」
彼が悪戯っぽく笑う。
「お姉さんに誰も気なんか遣わねーよ」
「言ったなー?あ、そうそうちゃんと曲自分の持ってる?」
「CDあるに決まってるだろ」
彼はCDを取り出して見せてくれた。
「ふふ、よかったわ」
私は大事にそのMDをポケットにしまったのだった。
「残念でしたー、あれはもう私の宝物なんだからね。さ、最後だし握手握手」
すると彼は笑いながらも顔を背け、ホッカイロを握りしめながら
「あーもーこれはやらんぞ」
と言って、走るように行ってしまった。
「あ!今までありがとうね!元気でね!!」
私は何故か泣きそうになるのを堪えつつ、
彼の後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。
今度は少し遅めに寮を出る男の子と握手をしに行く。
今日は皆珍しく早く行ってしまっていたので、一人しか残っていなかったけれど。
「ね、光也くん、握手してもらっていい?」
彼は少し笑んで
「何で握手なんだよ?」
と言いつつも手を握ってくれた。温かい。
「冷て!」
と言ってはいたが。
「あはは、私、末端冷え性なんだ」
と言うと、彼も笑い出した。
「もう行かないと。じゃ」
時間を見ると、いつもの出る時間をオーバーしかけていた。
「うん、ありがとうね、元気でね」
そう言って立ち去る彼を見ていた。
あっけない最後だな…と、ぼんやりしていると、
光也くんは走って戻ってきた。どうやら忘れ物をしたらしい。
「あっおかえり」
「忘れ物した」
何かを探してから慌てて立ち去ろうとする彼を見て、私は思わず
「光也くん!もう一回!」
と言ってしまった。
無視するかな?と思っていたら、
彼はさっと、私に向かって片手を差し出してくれた。
慌ててその手を握ろうと手を伸ばして、
ふと、急いでいるのに申し訳ないと言う気持ちが湧いてきて、
「本当、忙しいのにごめん!」
と勢いに任せて彼の背中を玄関まで押して行った。
彼は押されつつ笑っていた。
やがて玄関で靴を履き替え、走りかけた彼が私の方を振り向いた。
「さようなら」
と言って、軽く頭を下げてくれた。
「元気でね、私ね、皆の事大好きよ。光也くんも、大好きよ」
彼はちらっと微笑み、もう一度軽く頭を下げ、走って行ってしまった。
彼の後姿が見えなくなるのを確認して、
身支度を整え、周りの職員さんに挨拶して回る。
名残を惜しんでくれたのが嬉しかった。
皆が学校へ行ってしまい、空っぽになった寮を見つめた。
どうか皆元気で、幸せになって。
いつか成長した彼らと出会う事はあるだろうか…。
そんな事を考えながら寮を後にした瞬間、目の前が暗くなった。
はっと病院のベッドの上で起き上がり、一人うつらうつらとしていると
同室の、隣のベッドにいる小学生の男の子が話かけてきた。
この子はもう、今日か明日には退院する事になっていた。
「お姉さん、眠いの?」
「うん、そうよ。すっごーく眠いの。だから、ちょっとだけ寝させてね」
すると男の子はぷうっと頬を膨らませた。
「ちぇっ遊べると思ったのにな」
すねた様子が可愛らしくて、笑みがこぼれる。
「ごめんねー」
男の子はひょいっとベッドから下りてきて、私のベッドの端に座った。
「一人で寝ると寂しいだろ、仕方ないから寝てる間手を繋いでてやるよ」
「ありがと…」
横になってから差し出された手を握る。
「うわっ冷たいな!」
「ふふ…放してもいいよ。遊びに行ってらっしゃいよ」
「いいの!」
「ありがと…あ、お兄さんがそろそろ来ると思うから、来たら教えてくれる?
…教えてくれるだけでいいわ、声は聞こえてるから」
同級生の彼氏の事を思い浮かべた。
入院してからと言うもの、ほぼ毎日見舞いに来てくれる。
「うん分かった」
「ありがと、おやすみ…」
「おやすみー!」
彼が見舞いに来たのはそれから2、3分後だった。
幼馴染である彼女は体が弱く、病気でずっと入院していた。
助からないのは分かっていた。
病室に入ると彼女の隣に、
見舞いに来るうちに顔見知りになった同室の男の子がいて、
自分を見ると唇に指を当てた。
「シーッ寝てるよっ」
「そうか」
男の子が、彼女の耳に口を近づけてささやいた。
「お姉さん、お兄さんが来たよ」
彼女は目を閉じたまま動かない。
「お姉さんは寝てるのか…?」
「うん、でも、お兄さんが来たら起こさなくていいから教えてって言われたんだ」
「…分かった、俺がお姉さんの側にいるから遊んで来いよ。
見ててくれてありがとな」
「うん、分かった」
そう言って男の子は彼女と繋いでいた手をそっと離した。
「お姉さん、俺もう行くからまたね!」
男の子が走り去るのを見送って彼女のベッド横に腰を下ろし、
あの子がしていたように彼女の手を握った。
一目見て分かった、彼女はもう動かない。
涙が溢れて来て、しばらくとまらなかった。
〜ブログ公開時代のコメント〜
初めまして!
いきなり失礼します!HOSAという者です★☆!このブログが面白いのでついコメントを書いてしまいました。!!!いろいろと頑張って下さい^^。もし良ければ僕のブログにも遊びに来てください^^。。
[ 2005/11/23 02:52 ] HOSA
コメントありがとうございます!
楽しんで頂けたようで嬉しいです!はい、頑張ります&お邪魔させて頂きますね♪
[ 2005/11/23 14:18 ] 中華
おわり?
え!?
お姉さんシリーズ終わり!?
早いよ、お姉さん!!蘭ちゃんの恋の行とかは・・・。
気になります。
サイドストーリーとか期待しています(笑)
[ 2005/11/24 22:57 ] みよし
一応終わり…かな?(笑)
>早いよ、お姉さん!!蘭ちゃんの恋の行とかは・・・。
子ども同士の恋愛か…!!!難しい!!!
>サイドストーリーとか期待しています(笑)
あ、そうかサイドストーリーで書けばいいのか(笑)
[ 2005/11/25 15:44 ] 中華