雨宿り
今日はお祭りがあったので、少し離れた公園へ向かった。
色とりどりの提灯に盆踊りの音楽。
浴衣姿の男女もちらほら見える。
「なぁ、君、一人?」
と私と同年代の男の一人が聞いてきた。
私より背が高く体格もある。
興味なさそうに通り過ぎようとした。
声をかけた男がもう一人に目配せする。
それから私の腕を掴んだ。
顔を歪め、掴まれた腕を振って相手の腕を払おうとしたら、もう一人の男が反対の腕を掴み引っ張った。
「ちょっと!」
私が声を荒げて腕がだめなら蹴りを喰らわせようと身構える。
通行人は遠巻きに見ているだけだ。
「ねぇ、お兄さん達」
誰かが声を上げた。
静かな声だ。
声がした方を向くと見覚えのある高校生が4人いた。
彼らは寮生ではなく、寮生の友人である。
「そのお姉さんさ、連れて行かないでくれない?」
声を上げた高校生の名は上村辰矢君で、その隣にいるのは篠原竜司君。
この場合、どう見ても高校生達の方が背も高いし人数も多い。
男達は私を乱暴に突き放し、悪態をつきながら去って行った。
辰矢君は二人の方を一瞬きつい目つきで見てから、小走りで私に駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「ありがと、助かった」
辰矢君がちらっと笑う。
彼の後から三人が近づいて来て、顔なじみの竜司君が真っ先に声をかけてきた。
「災難だったね、美亜姉。俺らがいてよかったじゃん」
「うん。竜司くんも、ありがとね」
他の二人がまじまじと私を見ているのを感じた。
「うわっビッジーン」
一人がそう言って笑みを浮かべた。
「なぁ、その人は?」
と辰矢君に聞く。
「あぁ、知り合いのお姉さん」
辰矢君がそう言うのを聞いて、私は初めまして、と軽く頭を下げた。
「もしかして、前言ってた?」
彼が続けて辰矢に聞くと、彼はあぁ、と頷いた。
「なぁ、紹介してくれよ」
ビッジーンと言った子がそう言うと、竜司君が軽くその子の頭をこづく。
「おいおい、馬鹿言ってんじゃねーよ。なぁ辰矢?」
辰矢君は苦笑している。
「じゃ、俺達その辺回ってるから。適当にキリがついたら電話しろよ、じゃーな」
片方がそれを聞いて口を尖らせた。
「なんだよー」
「いいから来いっ」
最後の一人も私に向かって軽く頭を下げ、二人と共に行ってしまった。
「行かなくてよかった?会えて嬉しいけど」
「いいよ。お姉さんは、忙しくない?」
「見ての通り暇してるよ。今日はあなたも祭に来てたんだ」
「あぁ、学校の奴らと」
「そっか、あっ最近姿を見ないなって思ってたんだけど、道変えた?」
私の住んでいるアパートがたまたま彼や竜司君の帰り道にあるので、会ったら挨拶したりほんの少しだけど話をしたりはしていた。
「いや、勉強会で帰る時間が遅くなってるから」
そう言えば、彼らは受験生だった。
「大変なのね」
「べっつに〜」
と、突然雨がすごい勢いで降り始めたので、走って閉まった店の軒下に駆け込んだ。
「やれやれだね、でもそんなに濡れなくてよかったわ」
「あぁ」
彼が頷いて空を見上げる。
「そうだっ私あそこのコンビニで傘買って来るから、ちょっと待ってて」
少し遠い所にあるコンビニを指差して走ろうとしたら彼に左腕を掴まれて強く引き戻された。
そのはずみで体が彼に押し付けられたので慌てて離れる。
「お姉さん、いいよ。止むまで待とう」
彼の手は私の腕を掴んだままだ。
「そう?でもいつ止むか分からないよ?」
「1時間…」
「ん?」
「いや、30分待って止まなかったら、俺が傘買って来る」
「うーん分かった。じゃ、おしゃべりして待とうか」
すると私の左腕を掴んだままだった彼の右手が移動して、今度は私の左手を握った。
「冷てっ」
「あはは、私冷え症なんだ」
「…まぁ、いいけど」
彼が私の手を握る力が少し強くなったが、離そうとは思わなかったので、手を繋いだままおしゃべりして待つこと数十分。
傘を持っていた竜司君達に発見されて大いに冷やかされた。