楽器練習の見学
彼らが楽器を演奏している場面に遭遇した。
偶然にも自分が担当していた和楽器で、数日後に大会があるのも知っていた。
しばらく様子を見ていて、休憩するのを待って話しかけた。
「お邪魔するねー。」
「うわっ来た!」
大げさに言うのは駿希君。
「失礼ね、さっきからいるわよ。それよりその楽器は自前?」
「うん」
彼が素直に頷く。
「ちょっと貸してー」
「もー仕方ないな、ほら」
受け取った楽器はかなり使い込んだもの。思わず目を細めた。
「あぁ、すごく使い込んでるね」
「はいはい汚くて悪かったですねーっ」
「何言ってんの、ちゃんと練習してる証拠じゃない」
すると、彼が不思議そうな顔をした。
「?何で分かるの?」
「私もこの楽器やってたから」
「マジ?」
「あれ、お前知らなかったのか?」
口を挟んだのは駿希君の同級生である礼君だ。
「あはは、こんなに削れるなんて相当練習したでしょう。
普段も練習してる姿をよく見るし、偉いと思ってたよ」
駿希君が悪戯っぽく言う。
「お姉さん、俺が練習してるの見に来すぎなんだよ」
「俺も俺もー」
と礼君。
「皆が練習してるのを見るのが好きなんだから仕方ないでしょ。
それに私、その楽器自体も好きだから
音がしただけでフラフラーっとひき付けられちゃうんだ」
「俺、今度からお姉さんが来たら練習するのやめよーかな」
「そうしよう、そうしよう」
礼君が楽しそうに相槌を打つ。
「あらーそんな事言ってていいのー?大事な大会があるんでしょ?」
「くそーっ」
彼らとしばらく話した後、
特に上手だと思った卓海君と勇馬君に話しかけた。
「二人が演奏してるのを見てたけど、とても一年と少しとは思えないよ」
「えっそう?」
勇馬君が嬉しそうな顔をした。すると卓海君が口を尖らせた。
「俺は半年だってば」
「あぁ、ごめんごめん。でもあなた達、絶対伸びるわ、ちょっと羨ましい」
それは本心だった。
二人が笑う。
楽器を練習し始めて勇馬君は一年と少し、
そして卓海君は半年だが卓海君は勇馬君に負けじと
ものすごい努力をしているのは予め聞いていた。
「ねぇ、お姉さん何かやって見せてよ」
卓海君が言ってきたので
「いいよ」
と演奏して見せる。
「ほらね、私なんか中学から今までやっててこの程度だもの」
「へぇ、そう?中々だよ」
「いや、私、皆よりやってる年数長いから」
それから少し、練習方法を教えてあげた。
今まで知らなかった練習法だったようで
彼らは私に負けじと練習し始めたが中々上手くいかない。
「俺、お姉さんより上手くなるぞ」
卓海君が言う。
「あはは、ファイト!」
それから彼らは、私の所にやって来ては、
出来るようになったぞと披露してくれるようになった。