運動神経のよい男の子
運動神経抜群だと評判な継君が、一人でベンチに座っていたので
話し掛けた。
「ね、継君て部活やってたよね、何部?」
彼が微笑む。
「何部に見える?」
「サッカーかバスケかな。」
「前は両方やってた。」
「あっなら私の目はそんなに狂ってなかったね。今は?」
「スパイク使うやつ。」
「スパイク…陸上?」
「そう」
「へぇ、なら走るの好き?」
「べっつにー」
「ふふ、そうなの?」
「じゃあ俺、練習するから」
「何の?」
「サッカー」
「見ててもいいかな?」
彼がまた笑んだ。
「好きにしなよ」
「そうさせてもらうね」
私はサッカーゴールから少し離れた所にいて彼を見ていた。
すると小さい子達がちらほら出て来て彼とサッカーをし始めた。
彼はおどけて次々とサッカー選手の名を叫んで、
その選手を真似たシュート練習をしていた。
私は笑いながら彼を見ていたのだけど、
その内に自分の近くで練習していた小さい子達に視線を奪われていた。
と、突然サッカーボールが自分の少し前を通って
運動場に張り巡らされてるネットに当たって跳ね返り、足元へ転がって来た。
驚いてボールが飛んで来た方向を見ると、継君が手を振りながら
「お姉さんボールとって!」
と言った。
「投げるよ!」
と彼にボールを投げ返す。
その後も数回それが続いた。
彼ならばゴールに十分入れられる筈なのになぁと不思議に思っていると
小さい子達が笑いながら
「お姉さん、さっきからお兄さんに狙われてるねー」
と口々に言う。私は苦笑した。
「うーん、あんまし嬉しくないわ…。」
そう呟いて彼を見ると小さい子達の声が聞こえたのか、こちらを向いて笑っている。
それで小さい子達の言葉が当たっていると確信する。
だが、外してくれているのがやはり分かるので
「危ないでしょー!」
と言いながらも笑ってボールを投げ返した。
しばらくして休憩になった。
彼は休まずに一人で練習していて、
小さい子達だけがベンチに座って休憩していたので小さい子達と話していた。
すると彼がこちらに向かってボールを蹴るのがちらっと見えた。
あっと思って避けようとすると小さい子達の中の一人がさっと片足を前に出した。
ボールは私に向かって一直線に地面を転がって来た。
(ちゃんと力を加減したのだと分かる。)
そしてその子の足に当たってから跳ね上がって
ちょうど私の腕に飛び込んで来た。
「あ〜あっもーお前邪魔すんなよな」
彼が近づいて来て、笑いながら足を出した子を軽くこづいた。
「ちょっと、狙っといてそんな言い方ないでしょー」
彼に少し怒った口調で言ってから
「庇ってくれたんだよね、ありがと」
とその子に笑いかけると、その男の子も頷いてにこっと笑った。
「ちぇっつまんねーなー」
彼がぶつくさ言うのが聞こえた。
「何言ってんの。練習姿はカッコよかったよ、不本意ながら私を狙った時の、
あの微妙に外してくれるボールのコントロールも上手だったし。
あーぁ、狙わなかったら無条件で褒めたのになー」
彼はちらりと笑った。
「別にそんなのいいし」
「もーそんな事言わないで、継君は気付いてないみたいだけど、
私、あなたの事もちゃんと応援してたんだからね」
「お姉さん、俺らは?」
小さい子達が聞いてくるので笑いかけた。
「もちろん皆の事もだよ」
それからほら、と手に持っていたボールを彼にパスする。
「きゃーっ素敵!応援してるわーっ」
ふざけて言って、手を振りながら笑いかけると、彼は
「いらねーっ!」
と笑顔で叫んでまた練習を始めた。