劇の主役の一人な男の子と
夏休みの最中、ほとんどの人が実家へ帰ってしまった後、
居残り組で、一人で遊んでいた文彦君を見つけて話しかけた。
彼は祭日にある劇の主役の一人で、とても澄んだ声の持ち主だった。
「文彦君」
「何?」
「文彦君って声綺麗だよね」
「え?」
彼が首を傾げた。
「劇の練習してる時、文彦君がメインで歌う場面があるでしょ。
目と言うか、耳が離せないんだよ。」
すると彼が笑顔になる。
「そう?普通だよ。」
「えーっ絶対声綺麗だと思うよ。
あっ劇の練習の時以外に歌ってるとこ見た事無いけど、
普段は歌わないの?普通の歌、歌ってるところも聞きたいなー。
他の人達が歌ってると言うか曲かけて叫んでるのはよく見るけど。」
そう、彼らの部屋から音楽が聞こえない日は無かった。
「あははっ俺、風呂入ってる時は鼻歌よく歌うよ。」
「え?鼻歌?」
予想外の答えを言われ、楽しくて噴き出す。
「あははっそうなんだー。」
そんな感じで会話しているうちに普段ならば掃除をする時間になった。
でも皆がいないから別にしなくてもいいのだけど、
彼はいつも通り自分の掃除場所を丁寧に掃き始めた。
「毎回思うんだけど、いつも掃除真面目にしてるよね。本当、いい事だわ」
「えーっ別に。
俺、ゴミがあると、掃かないと気が済まないんだよね」
「ふふ、偉いね。何か手伝う事ある?」
「ううん、いい」
「そっか。なら暑いから夏バテしないようにねー」
そう言って彼の側を通り過ぎた。すると少し間を置いて後ろから
「俺は夏バテしないよ」
と声がした。思わず振り返って笑いかける。
「あはは、そうなんだ?でも油断しないようにね。またね。」
手を振って、再び彼に背を向けた。