一匹狼と周りから言われていた男の子だけど
寮の廊下にポツンとパソコンが一台だけ置かれている。
そのパソコンを男の子達がかわるがわるよく使っていて、
そんな時、私はいつも彼等が座っている椅子の背もたれに両手をついて、
背後の壁に背をもたれさせてたまに会話しながら、
彼等がパソコンゲームやタイピング練習している姿を見ているのだった。
しかしそうするとパソコン、男の子達、私の順番で一列になるので
廊下の幅いっぱいに広がってしまう。
ある日、私がいつものように男の子がパソコンやっているのを見ていると
(その時パソコンを使っていたのは中2の学君)
男の子が一人帰って来た。彼は高3の撒馬君だった。
だが、パソコンに集中していた私は廊下を歩いてくる彼に気付くのが遅れ、
もろにぶつかった。(弁解すると彼は歩調を緩め無かった。)
「わっごめんっ大丈夫?」
「あぁ。お姉さんは?」
彼は立ち止まり、淡々とした口調で聞いてくる。
「余裕」
彼は頷いて、部屋に入って行った。
しばらくして着替え終わった撒馬君が部屋から出て来て、
私の隣に立った。
すると今までパソコンを使っていた学君は彼を見て席を外し、
部屋へ帰ってしまった。そして代わりに彼がパソコンの椅子に座った。
「まーあなたがパソコンやるの珍しいね、初めて見た。」
彼は少し笑って
「お姉さん、後ろ人通るから危ないよ。」
と冷静に言う。
「人来たらどくから平気」
「そう?」
しかし彼にぶつかった手前と、他の子に呼ばれたので、
「せっかくゆっくり話せると思ったのになー」
と呟いて、とりあえずその場を退散した。
朝、男の子達が乗るバスが来るまでの間、
部屋で寝ている撒馬君はさておき、もう一人のルームメイト、
律君と談笑していた。楽しくてつい声が大きくなった。
「お姉さん、ちょっと静かにしてー」
布団の中から眠そうな声が聞こえた。
「あっごめんね撒馬君」
律君もあちゃーっと表情を浮かべたので、それから声を潜めて話した。
そんな事があってしばらくして、寝ていた彼が学校行く時間になった。
「ねぇ、昨日の事もだけど、
色々と迷惑かけちゃって申し訳無いね、私ニブイからさー気をつけるわ」
頭をかきながら謝ると、彼は微笑んだ。
「別に」
「でも、内容どうであれあなたから声掛けてくれるのは嬉しいよ」
彼がまた微笑む。
「俺、学校行かないといけないから。また」
「あぁ、そりゃそうだ、うん、気をつけていってらっしゃい」
彼は笑んで、軽く頭を下げて出て行った。
夕方、彼が学校から帰って来た。
「お帰り、学校お疲れ」
彼がちらっと笑った。
多少はゆっくり話せるんじゃないかしらと考えていると、
彼はそんな私の心境を知ってか知らずか
「俺、テスト勉強してくるから」
と言って、鞄から教科書やノートを幾つか出し始めた。
「おぉファイト!ちゃんと勉強して偉いね、勉強好き?」
彼は笑んでから、首を横に振る。
「そっか、勉強何が苦手?私は数学とか化学嫌いなんだ」
「全部」
「あらら、そりゃ大変」
彼が微笑んだ。
「じゃ、俺行って来るね」
「うん、行ってらっしゃい」
ひらひらと彼に向かって手を振ると、彼は微笑みながら軽く頭を下げて出て行った。