タマタブチュチガシミシミツウハガスウ 死体を片付けるためだけに現れる神様
狭くてみょうに小奇麗が人の意欲をじんわりと吸い取っていく。部屋は吸い取った元気とか若気の至りとかをまた空気感に変えてくるのだ。
俺は牢屋の中にいた。罪状は妻の殺人。
しかし、俺は殺してなんかいない。最愛の妻を殺した奴は他にいる。
警察の調べでは妻の他に犯人の血があったらしい。その証拠が元で俺は捕まった。しかし、それは犯人の罠だったのだ。
俺はすきをみてはベッドの下に入る。ホコリはすっかり綺麗になっている。
ベッドの裏側には誰かが掘った文書が書いてあった。そこに書いてあるのは自身の罪の告白と、死体の片付け方と、時を戻ってやり直せるという魔法の言葉。
本気でそんなことが可能だとは思っていない。ただ、ベッドの下の何とも言えない空間でその呪文を唱えていると気が狂いそうになるのだ。狂ってしまいたい。そうすれば、楽になるはずだ。
「タマタブチュチガシミシミツウハガスウ」唱えていると頭が遠くなるのを感じた。
気がつくと、そこは以前、俺の住んでいたマンションだった。
俺はすぐ気づいていた。あの時に戻ったんだ。
このドアの向こうで妻は殺されていた。俺は仕事から帰ってもおかえりをきくことはなかった。
今の時刻は5時2分、妻が殺される直前だ。
俺は妻を助ける。そして、犯人を捕まえる。何度もシュミレーションした。
俺はドアを開けた。
妻は見知らぬ後ろ姿の男と抱き合っていた。
俺は妻と男を殺してしまった。嗚呼なんで!?こうなってしまったんだ!頭を嫉妬と焦りとアドレナリンがかき混ぜる。脳が心臓に戻ってしまったかのように脈打ち、リズムをきざむ。タマタブチュチガシミシミツウハガスウ!タマタブチュチガシミシミツウハガスウ!
気づくと俺の目の前には妻がいた。
「どうしたの?今日は仕事は?それにひどくやつれて‥」
俺は何も言わず抱きしめた。やっと会えたのだ。愛しの妻と。
ドアが開いたことにも気付かず、俺は、妻と抱き合っていたのだ。