『僕』の目覚め
さて、そこの君
啓蟄 という言葉は知っているであろうか?
そう、春に土の中で眠っていた虫たちが目を覚まし、地上に出てくるころのことを言うんだよね
そうまさに地上に這い出る虫のようなのだ
目はパッチリ開いている、しかし日の灯りはなく暗闇だけが続いていた
土の音?ドードーという土の呼吸だろうか(ちょっとかっこいい言い方かも)あと強いて言うならここ狭い
ここはどこ?僕は誰? 待てよ、僕?ということはこの『僕』は男なのか?
年齢は?目の色は?髪の色は?声は?
自分すらわからない?一体どういうことなんだ?
そう、いま僕 という人(なのかも分かりかねない)は自分の居場所も自分の事も分からないのだ!
日の灯りを見たい、嗚呼 そう思って僕は手を伸ばした
と、ふいにごつんと指に硬い何かが触れた
指…であろう、それは確かに触れた、そしてその何かが僅かながらに動いたのだ!
そうか、これは蓋なんだ!何かの蓋なんだ!きっと!
だとしたらここは小さな箱の中?土と箱・・・
なんだろう、ゾクッとしたぞ 今ふと頭の中で『棺桶』というよからぬ発想をしてしまったぞ
まあいい、外に出られるなら太陽だろうが月だろうが隕石だろうがなんでもいい、光を浴びたい
ごつんと触れた何かは、指で押し出せば押し出すほどに、ごりごりと石の擦れ合うような不気味な音を立て―――――――
黄色 そう黄色 これはどこかで見たようなあの黄色い月だ!!!
あまりの嬉しさに飛び起きてしまった!ああ!光!光だ!
と、一人歓喜に満ちていると辺りがものすごく静かなのが分かった
下、目が悪いのだろうか?ぼやけて見える足
上、黄色に、黄金色に光る月と灰色の雲
右、木、木、枯れ木、そしてマリア像だろうか、女性の像がある
左、柵と草苔もろもろ、柵の向こうには蔦が飾る建物がある
前、木だ、ちょっと木がたくさん生えている、あと背の高い草も
なんて首を動かして辺りを見回したがここがどこなのかいまいち分からない
そうだ!後ろだ!まだ後ろを見ていない!
僕はもう見たくて仕方がなく、勢いよく振り向いた!
僕はやっと分かったような気がした
自分の後方には墓碑の羅列、そしてすぐ後ろには十字架と台形の形をした墓碑
幻聴か?人の話し声 幻覚か?複数人の影が遠くに見える聞こえる
体をまじまじと見つめた、白くなった手足は緑に変色しているところがしばしばあった
せめて夢であってほしい だがそれは自分の体から放たれる異臭により現実だと知らされる
ここは墓場だ、そして僕は生き返った死体 『ゾンビ』だったんだ
ちなみに勢いよく振り向いた時に腰を痛めたのはまた別の話