いきなりの政略結婚。2~近衛騎士団長の苦悩と最強な花嫁(仮)の父~
感想ありがとうございました!
おかげで続編できました。
さんぶんのいちのじゅんじょうなかんじょう。
それが勝手に思うテーマソング。
近衛騎士団長は純情なばかりではないようだけど(笑)
名曲です。
どれだけ君を愛しても、伝わらない。
残念!
その男は不思議な男だった。
彼を『知っている』もしくは『親しい』や『友人』と答える人間は決まって、素晴らしいとか人格者とか恩があると言うのだ。
なかには、癒されるとか、危なげな恋情を感じてる者も居るらしい。
顔立ちは地味で、これといった特徴があるわけではない。
いわゆる『引き立て役』になりがちな容姿で、華があるわけではないし、高い地位についているわけでもない。
むしろ、下級の役職なのだ。
しかしながら、国の最重要機密やら他国の極秘事項、挨拶を交わした相手の顔名前、誕生日まで確実に知っていたりする。
穏和な笑顔で、さりげなく誕生日おめでとうございます…と言われると、ときめく!と同僚が以前酒の席でのたまっていた。
同僚は男で、気色悪いと思った…が、
実際に彼に会ってみると、恋情など欠片も感じないが感じの良い人であった。
その人は、目の覚めるような美女を妻に持ち、二人の子どもを持っていた。
長男は見事なまでの母親似、長女は父親似。
たまたま、彼の職場へ立ち寄った時に父似の娘と出会った。
かつてない衝撃を受け、そのとき以来娘の顔が頭から離れない。
一体どうしたことか。
乳兄弟兼親友、剣を捧げた主に話すと、
「祝いだ!恋しちゃったんだぜ!」
と祝酒となり、次の日二日酔いで二人とも使えないレベルにまでなった。
更に翌朝、親友は「お前は悲しいほどに言葉足らずでどうしょうもないから俺が出会いをサポートする」とひどく真剣な目で言われた。
確かに上手く気持ちを伝えられない自覚はあったので、助かった。
黙っていても近衛騎士団長の身分や顔目当てでよる女性が多くて、自分から口説いたことなどない。
親友は権力を使い、舞踏会を開いてくれた。
とりあえず顔見知りになっておけと、親友が間に入ってくれたが、
あろうことか彼の娘の親友と恋に落ちやがった。
当然こちらの事などそっちのけになり、
若ハゲろ…と呪ったが、
結果として彼の娘との接点ができ結果オーライ。
呪いは取り消し、感謝の祈りを親友と神に捧げておいた。
彼の娘の親友と我が主の恋愛はトントン拍子に進んでいく。
こちらは全く進展しなかったが、側にいられるだけで幸せで、生まれて初めて恋愛って素晴らしいと感じていた。
そんな中、彼の娘とその親友が拐われた。
主に思いを寄せていた女による犯行。
怒りと共に、何故想いを伝えなかったのだろうという激しい後悔を感じた。
側にいられるだけで…なんて嘘っぱちだ。
万が一にも拒否されるのが怖かったのだ。
悪意は持たれていない、けれどもこちらに思いを寄せていない事が、どうしたって分かっていたからだ。
顔や身分、騎士としての実力をみせても響かない彼の娘。
自分には話術が無い。
女性を笑わせることも、和ませる言葉も知らない。
愛を囁こうにも、愛を伝える言葉を知らない。
後悔と、二人が見つからない焦り。
主の力をもってしても二人は見つからず、夜を明かした翌日…
彼が王子の執務室へとやって来た。
二人の居る場所を伝えてくれた。
何故?と思う余裕もなく主と二人、其処へ駆けつけた。
二人を救えると思った矢先、
拐った女が彼の娘の親友に短剣を向け自分を妃としろと迫った。
正気ではない様子に、どう返答しようにも刺す気だと直感した。
隙をうかがう中、彼の娘が言った。
「そんな怖い顔で迫っても、逆効果です。」
女の注意が一瞬それ、
正面の主が両手を広げ、彼の娘の親友に飛び込んでくるよう合図をする。
もらった!
そう思った瞬間、
彼女の親友はあろうことか、誘拐犯の女に頭突きをかました。
結構な威力があったようで、女の顔は血塗れ、
彼女の親友は勢い余って転んだ。
唖然とした一瞬に女は獣のように咆哮し、短剣を彼女の親友に向けて振りかざす。
間に合え!
彼の娘が親友の前に飛び込み、
その小さな背を短剣がえぐるのと、自分の剣が短剣を弾き跳ばすのはほぼ同時だった。
返す剣の柄で女を昏倒させ、
彼女を初めて抱きしめた。(※受け止めただけ)
短剣に毒が塗られているなどその時は知りようもなかった。
彼の娘が高熱でうなされ、意識が戻らなかった数日。
毎朝毎夜見舞い、彼女の回復を祈った。
本当なら、ずっと付き添っていたい。
だが、主を守る剣たる近衛騎士団長がそのような真似はできない。
彼女を愛している。
だが、自分の使命を捨てることはできない。
そんな中、思いきって彼の職場に出向き彼女への思いを語った。
心配して付いてきた主が驚くほど、喋り、語った。
彼は穏やかに話を聞いてくれ、
『娘の気持ちが君にあるなら、喜んで祝福するよ。』
と認めてくれた。
それからは更に忙しく充実した日々だった。
彼に認めてもらったその日に彼女は目覚めた。
急いで彼女の親友、主と共に駆けつけた。
嬉しさのあまり話すこともできなかったが。
それからも職務の合間を縫い、彼女の元へと通った。
まだ体力の戻らない彼女は眠っていていたが、
側に付き手を握るだけで幸せだった。
目覚めている時は、彼女の親友と主の話をした。
主と彼女の親友の婚約発表中、
部下と同僚を拝み倒し十数分間抜けさせてもらい、
プロポーズに向かった。
緊張で顔が強ばるが、気配を殺し驚かさないようそっと近づく。
彼女の口から出るのは親友の事ばかりだ。
彼女の親友に嫉妬を覚えつつ、彼女を抱き起こす。
言おうと思っていた言葉は、彼女の瞳や唇を見たとたんぶっ飛び、真っ白になった。
そうなっても、手や口は勝手に動く。
あろうことか、彼女に政略結婚と誤解される。
しかもそれで了承された。
めんどうだから…だと…?!
こんなに愛してるのに、欠片ほども伝わらなかったとは…
ショックのあまり弁解もできず、そして時間もなく主の元へと帰って行った。
顛末を聞いた彼女の親友から飛び蹴りを喰らい、一瞬意識が飛び、
主の妃(予定)の蹴りは近衛騎士団長をも沈めると恐れ、崇められるようになるのは余談である。
翌日、
彼女を呼び出し、前もって頼んでおいた司祭に簡素な誓いの儀式を行ってもらった。
誓いの口付けが、彼女との初めての口付けだった。
これで夫婦だ。
順序は逆だが、これから毎日思いを伝え、相思相愛になれれば良い。
そう思っていた。
だがしかし、現実は甘くなかった。
二人だけの誓いの儀式が終わってみれば、部屋の入り口にいる彼と自分の父と兄。
父と兄は真っ青だ。
何故ゆえに青かったか、数分後には知ることとなる。
彼は、彼女の父は無表情で言った。
「君は約束を違えた。」
静かな声に、怒りの気配をひしひしと感じる。
彼女の父はいつも穏やかで、ふわりと微笑みを浮かべているのが常であった。
それだけに、その無表情が怖い。
背中に嫌な汗が伝う。
武人であるのに、文官の彼に押されるとはどうしたことだろう。
どす黒い気配に、思わず固まる。
「誓いはなされてしまったがねぇ…
私は言ったね?『娘の気持ちが君にあるなら』と。」
彼は娘の名を呼び、微笑み尋ねる。
夫となった自分を愛しているかと。
彼女は、曖昧に笑うと首をかしげ、
「分からないわ、父様。でも誓ったし、いずれ愛することにならなきゃ、とは思うわ。」
と答える。
暗に、愛していないと言っているようなものだ。
改めて思い知り、がくりと項垂れる。
「私はね、娘の鈍感さは十分理解してるよ。
だから気持ちが伝わらないなら手助けしてもいいと思っていたよ。はじめはね。
だが、やり方が気に食わない。
そして娘が憐れだ。
愛されていないと思う男と、共に生きることは辛いものだよ。
娘は貴族の令嬢のあり方は知っている。
だが貴族令嬢として生きてはいきにくいし溶け込めない。
知っての通り、私の妻は平民だ。
私とて貴族というくくりからは逸脱した人間なのだよ。
そんな二人の子どもが勘違いの末の政略結婚して幸せになれると思うかい?
今のままでは君の思いは一生伝わりはしない。断言しよう。」
足元を見ていたが顔を上げると、隣にいたはずの彼女は、彼女の父の隣にあった。
「この子はね、おとなしそうな顔をしてやらかす子なんだ。」
彼女の父は朗らかに笑った。
「君と政略結婚していると思い続けていれば、
本当の恋をしたなら君を捨て、すべて捨て居なくなるだろうね。」
まさかと思うが、否定はできない。
見ていて、以外に豪胆な所や言動を垣間見たから。
「だからね、君たちの未来の為に私は行動しようと思う。
ついでに嫌がらせもしようと思う。」
楽しくて仕方がないような笑みで言葉を残し、彼女の父は彼女を連れて行ってしまった。
次の日、彼女の家族が国外に出てしまうなど、この時はまだ知らなかった。
一年後にある主と彼女の親友のロイヤルウェディングの一ヶ月前まで、全く帰国せず文通のみしかできなくなるなど、まだ知らなかった。
仕切り直しの婚約発表会を経て、ようやく結婚式と結婚生活がおくれるまでそれから一年半かかるなど、まだ知らなかった。
思いが叶うまでに、今から二年半以上かかるなど、
この時は、まだ知らない。
花嫁(予定は未定)の父はいわゆる『人たらし』。
ただそれに甘えることなく、好かれる、信頼される努力はしてきた人。
それゆえ信者は大勢。
他国にもそんな人間が結構いる。
下級役人でいられるのも、立ち回りや偽装が旨いから。
ちなみにヒロインの親友の父とヒロイン父は親友。
二代親友だったりする。
花嫁の父は、職を辞する覚悟で国を出てましたが、部下や上司に泣きつかれ、王子にも頭を下げられたので、元のポジションに戻りました。
奥さんは敏腕商人なので、別に旦那さんが働かなくても良いというか、むしろ補佐として隣にいてくれる方が嬉しい。
設定はまだあるので、機会があれば、また。